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ロンドン・ジャズ・フェスティバル2018 SERIOUS、TOMORROW'S WARRIORSインタビュー

※本投稿は「Jazz Life」誌2019年3月号に掲載された記事を許可を得て全文掲載しています。Tomrrow's Warriorsのギャリー・クロスビー氏のインタビューなど一年前にnoteに掲載できなかった記事をもったいないので再掲させてもらうことにしました。イギリスの現在のジャズの隆盛が、SERIOUSとTOMORROW'S WARRIORSという二つの団体が表裏でミュージシャンの育成活動をしてきた成果だということがわかります。

雑誌の記事はウェブに比べて情報が遅いと思われている方もいますが、それは編集者やライターの目利き次第でしょう。敢えて紙媒体で最新ニュースを載せていくことで、ネット全盛期以前に雑誌が持っていた情報誌としての意義を取り戻せたらいいなとも思っています。難しいかもしれませんが。お気に入りのライターさんを見つけたら紙媒体の記事もチェックしてみてください。ということで、本稿の情報は一年間の時差があります。ご承知ください。

写真=松永誠一郎 すべてSERIOUSの許可を得て撮影しています。
取材協力: SERIOUS、TOMORROW’S WARRIORS

2018年11月16日〜25日の10日間にかけておこなわれたロンドン・ジャズ・フェスティバル。世界最大級規模のジャズフェスティバルを外側と内側から取材した。

NYに負けないジャズ・シティとしてのロンドン

今年(2018年)で26回を迎えるロンドン・ジャズ・フェスティバルは、10日間で350プログラムがおこなわれる世界でも最大規模のジャズフェスティバルである。英国と国外のミュージシャンのコラボも目玉で、今年は、ザラ・マクファーレン、アンソニー・ストロング、リサ・スタンスフィールドなどの英国シンガー勢がリー・デラリア(アメリカ)、マリーザ(モザンビーク)、ライラ・ビアリ(カナダ)、ディヴァ・マホール(NY)、アラン・ハリス(NY)等の海外アーティストと共に42人編成のオーケストラを従えた、壮大なこけら落としから幕を上げた。

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巨匠アーチー・シェップのアート・ソングス&スピリチュアルは、アミナ・クラウディン・メイヤーズとハミッド・ドレイクをバンドメンバーに、カリーン・アンダーソンがUKシンガー達のスペシャルグループを組むというプログラムで、この2つが今回のフェスでの英国と海外メジャーアーティストの交流の象徴と言えそうだ。

その他にもボビー・マクファーリンがクリーヴランド・ワトキス、ナタリー・ウィリアムス、エマ・スミスなどのUKシンガーたちで編成した12人編成のクワイアなど様々な形での国内外ミュージシャンの交流が行われた。

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フェスをオーガナイズするのは、ロンドンのプロモーター「シリアス」。今回、ブッキング・ディレクターの一人ペリン・オプチン氏に話を聞くことができた。6人の精鋭ディレクターを中心にロンドン外のパートナーシップ団体の力も借りることで年間で600〜800のイベントを制作しているという。

ロンドン・ジャズ・フェスティバルはもともとカムデンタウンの音楽イベント「カムデン・ジャズ・ウィーク」から始まり、1992年にロンドンのコンサートホールとジャズクラブなど街全体の既存の施設を利用して行われる都市型フェスとして始まった。ホールコンサートでは、多民族共存のコラボレーションと国内外アーティストの交流が目立つ。シリアスの目利きで組まれたプログラムには、アブドゥル・イブラヒム+エカヤ+キーヨン・ハロルドや、ビル・ローレンス+WDRビッグバンド+ボブ・ミンツァーなどがあった。

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11月末は、他の国々ではあまりフェスがおこなわれていないタイミングでもあり、よくこれだけ集まったなと思うほど、国外の有名アーティストが毎晩出演する。今年は日本公演を終えたリチャード・ボナ、シャイ・マエストロがその足でロンドン入りしている。

多彩かつ多様なプログラム構成を誇る同フェスは、海外の若手にも目を向けている。バービカンセンターの無料ステージでは数日に渡りイタリアの新鋭アーティストと、ノルウェーでいま最も熱いアーティストを紹介するプログラムが組まれていた。最近発足したばかりの日英ジャズミュージシャンの交流を目的とした非営利組織Yokohama Callingは、今年、井上銘をフェスに招へい。井上はジェイソン・リベロ(key)を含む英国ミュージシャンたちと共に、ロニー・スコット・ジャズクラブでのマイク・スターン公演オープニングアクト、単独ギグ、ワークショップをおこなった。その他にもシンガポールから南アフリカまで様々なミュージシャンが出演していた。

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フェスで目立ったコンサートをいくつか上げると、アシッド・ジャズの雄ジェイムス・テイラー(org)・カルテットはオーケストラとの新作「サウンドトラック・フロム・エレクトリック・ブラック」の初演。オマール・ソーサ&ジリアン・カニサーレス、アルフレッド・ロドリゲス、アルトゥーロ・オファリルのキューバ人アーティスト三本立てでは才媛ジリアンにスタンディング・オベーションがやまなかった。

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元バッドプラスのイーサン・アイヴァーソンはキングスパレスでのスペシャルレジデンシーで英国音楽への情熱を探求、ヘンリー・パーセル、ウィリアム・バードなど幅広いレンジから受けた刺激を新しい音楽にクリエイトしていた。シカゴ出身のマカヤ・マクレイヴンと、ロンドンのアフリカン系ジャズの期待の新人サックス奏者ヌバヤ・ガルシアのダブルヘッドライナーはシカゴとロンドンの注目の新人を掛け合わせるスリリングな内容が関心を集めた。その他にもスタンリー・クラーク、ユン・スン・ナ、マイラ・メルフォード、デイヴ・ダグラス、ジェイミー・ブランチなど多彩な顔ぶれが見られ、メロディ・ガルドー、マデリン・ペルー、マイラ・アンドラーデ等の歌姫たちもフェスに華を添えた。

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アシッドジャズやUKジャズファンクの流れがありつつも、ロック、パンク、エレクトロニカ等の巨大さからロンドンのジャズ・シティとしてのイメージは相対的に低い。しかしこの10日間あちこちのホールやクラブはソールドアウトになり、筆者も会期中にクラブギグではシャイ、ボナ、マイラ、アントニオ・サンチェス、ジェフ・ワッツfeatカート・ローゼンウィンケルなど視察したが、観客が曲をよく知っていたり、前衛的なグルーヴにも熱狂するなど全体としてジャズへのリスペクトをとても感じた。また移民が自分たちのルーツと重ね合わせてルーツミュージックとミックスされたジャズを楽しんでいるのも肌で感じ取れた。

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アビシャイ・コーエン、シャイ・マエストロ、マーク・ジュリアナの再結成トリオや、元ポーティスヘッドのポリー・ギボンズがジャズスタンダードとオリジナルで臨むステージなど見逃した公演もたくさんあった。オプチン氏は「ロンドンはNYに負けない規模の多彩なジャズの街。もちろん音楽全体を好きなのだけれど。ロンドンの人々はジャズがとても好きなのよ」と話してくれた。NYとヨーロッパのハブとなるロンドンでのジャズシーンは、私見ではむしろ東京のシーンやファンの在り方に近いという印象を受けた。

育成プログラムが生みだした次世代ミュージシャン達

ロンドン・ジャズ・フェスティバルの陰の立て役者シリアスには“タレント・ディベロップメント・スキーム”という無料の育成プログラムがある。応募のあった若者から選抜された数十人は一週間の集中プログラムのなかで、ミュージシャンとしての稼ぎ方、リーダーのやり方、レコーディングに必要な実務などの講義を受ける。これまでに累計200人以上をサポートしてこの流れの速い音楽業界で生き抜く知恵を授けてきた。また若いミュージシャンが例えば病院、幼稚園、養護施設などを慰問してコンサートをしたいなどの希望に沿って出演先をコーディネートしたりもするそうだ。趣旨別の育成プログラムが5つあり、その中のひとつTAKE FIVEは若いアーティストの登竜門であり、フェスの会期中にロイヤルフェスティバルホールにおいてコンペティションで選ばれた若者たち(今年は8人)が演奏し、その模様はそのままBBCで放送される。

ロニースコットで知り合ったオフィシャル・カメラマンのスティーヴン、カドガンホールで隣に座ったボランティアジャズライターのハワード、エズラ・コレクティヴのフェミ・コレオソ、シリアスのオプチン氏、誰の口からも出てくるのは、トゥモローズ・ウォリアーズへの賛辞だ。オプチン氏が「インディペンデント・コンサヴァトリー」と言い替えたこの団体は、アフリカン・ディアスポラの英国人若者を支援することを目的に組織されたミュージシャン育成支援団体。今では人種の垣根を越え、政治の話をしてはいけないのが唯一のルールとなっている。今年で14年目になる活動の中から育ったプレイヤーは、シャバカ・ハッチングス、ザラ・マクファーレン、モーゼス・ボイド、ヌバヤ・ガルシア、ジョー・アーモン・ジョーンズ、フェミ・コレオソなど。現在のシーンに如何に影響を与えているかがわかるだろう。

主宰のギャリー・クロスビー氏は功績が認められ2009年にOBE(大英帝国勲章)を授与されている。今回、クロスビー氏にもインタビューすることができた。

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1991年、ジャズウォリアーズのベーシストとして活動していたクロスビー氏が、「環境さえ恵まれればミュージシャンとして大成できる子供はたくさんいるはず」と、音楽を通じて社会に貢献するためにジャズカフェでジャムセッションを始めた。2010年までクラブでのジャムセッションをおこなっていたが、いまはサウスバンクセンターに活動拠点を移し、ロイヤルフェスティバルホールがあるビルの4Fにリハスタを構え、地下スペースなどを無料使用させてもらえることで若者たちに練習場所を与えている。トゥモローズ・ウォリアーズにはカリキュラムがあるわけではなく、セッションを通じながら個人的に鍛え上げていくパターンと、いくつかのプロジェクトを編成してプロジェクト毎に切磋琢磨していく方法の2つがあるようだ。在籍している人数について聞いてみた。「それは難しい質問だ。大体常時40人くらいで、出たり入ったりしているので登録している人数は200人くらい」とのことである。年齢は15才〜17才くらいがボリュームゾーンらしい。「フェミは13才から来ていたよ。ヌバヤは15才だったかな。フェミこそ、このプログラムがなかったらミュージシャンになるのは難しかったのではないかな」。氏によると「自分たちは正当な教育機関と機会のない子供たちの“中間”に位置する存在」という。非営利団体として寄附とアーツカウンシルからの助成金で運営をおこなっているため、レッスンはすべて無償提供。オーディションもおこなわないという。そこには移民やその子供たちに幅広い機会を与えたいクロスビー氏の心が伺える。いまは卒業生たちが先生にまわるなど良い循環ができている。アーネスト・ラングリンの甥であるクロスビー氏はまたレゲエにも情熱があり、ジャズインフルエンスのあるレゲエやヒップホップに関連するプロジェクトも手掛け、またクラシック奏者のジャズ入門、ジャズ奏者のクラシック奏者とのコラボレートもおこなっている。

シリアスとトゥモローズ・ウォリアーズ、この2つの団体の十数年の努力が実り、いまロンドン・ジャズ・シーンは再び活気づいている。サウスバンクセンター内を案内してもらいながら、クロスビー氏は、「いつか卒業生が、ここロイヤルフェスティバルホールで演奏するのを観るのが私の夢」と話してくれた。その日もそう遠くないだろう。■


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