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第97話 高松ではうまいうどんを製麺所で130円程度で日常的に食べられるんだよ【夢夢日本二周歌ヒッチ旅 回顧小説】

徳島の中心街にある川辺で野宿をした。

四国は残すところ香川県だ。そうするとその後は本州に1週間ぶりくらいにもどることになる。

今度はしまなみ海道ではなく、あの瀬戸大橋で岡山から本州に戻る。

本州に戻るとなるとなんだか少し進みやすくなる気になるのは不思議だ。

やはり海を渡るというのは、特に瀬戸内海を渡るというのは大きなハードルなのだ。

そしてこの時点でまだ行っていない都道府県は残すところ10県くらいだ。

つまり日本の全都道府県の約5分の4には行ったということだ。

日本一周全都道府県制覇がもはや目前と言えなくもない。

さて、香川で絶対したいことはうどんを食べることだ。

きっと誰でもそう思うでしょう?

ヒッチハイク129台目。ちょっとこわめの男性と女性の方が乗っている車。
 
(このお兄さんちょっと怖いなあ。そっち系の方かなあ・・・。)
 
と思っていたが、
 
「今から阿波踊りの練習に行くところなんだよ。」
 
(阿波踊り?このコワモテの方が?)
 
「阿波踊りは徳島発祥だからね。」
 
(なるほど。いや、でもこのコワモテと阿波踊りはつながらない・・・。)
 
「おれ、和太鼓やってるんだよ。『こけさく』って名前でね。」
 
「CDも出してるんだよ。」


と女性。
 
「え!すごいですね!」
 
(なるほど!和太鼓か!!それならこのコワモテが説明がつく!ガッテン!いや、そんなことよりも、この「こけさく」さんはきっと太鼓のプロの方なんだろうな。阿波踊りで太鼓叩いたりってことがあるんだなあ。知らなかった。)
 
思ったことを言ってしまうと何か失礼な感じになってしまうのではないかと思い、言葉にはしなかったが。
 
「じゃあ、ひょっとして有名ですよね?」
 
「うん、まあ、まあね。これあげるよ。」
 
なんと「こけさく」さんはCDをくださった。
 
製品化されたものではなく、簡易に録音したCD―Rだった。おそらくデモ音源のようなものなのだろう。
 
それが逆に特別感があってよかった。ぼくにだけ特別くれたもの。
 
「こけさく」さんは高松でおろしてくれた。
 
徳島と高松は近いのである。
 
ヒッチハイク130台目。高松から坂出。
 
市役所に勤める男性。仕事中だという。
 
(役人が仕事中にヒッチハイカーを乗せて大丈夫なのか?)
 
「高知におったとき、よくヒッチしてたよ。」
 
それなら乗せたくなるはずだ。話がはずみ、これまでのことをいろいろ話していると、この方もネパールに行ったことがあるという。
 
「ワンゲル部だったからネパールにも山に登りに行ってたね。」
 
「ぼくはインドからネパールに入ったんですけど、インドから入るともう天国に感じますね。」
 
「ネパールでインドから上がってきた人に会うとみんなそれ言うよね。」
 
「そうですよね。まず飯がうまいし、人は穏やかだし。」
 
旅の話はつきない。ついでにうどんについて聞いてみた。
 
「あのー。うまいうどん屋さん知ってますか?」
 
「まだ高松のうどん食べてないの?製麺所でうまいうどんが食べられるよ。200円あれば十分。」
 
「え?そんなに安いんですか?」
 
「こっちじゃそれが普通なんだよ。よかったら連れて行ってあげるよ。」
 
「いいんですか?」
 
なんとぼくは製麺所に連れて行ってもらった。そこは看板もなく、地元の人でないと分からないような店構えだ。
 
他の製麺所の横も通ったが、そこも看板がなく、でも外には行列ができていた。
 
そもそも「製麺所」という言葉が、ぼくには「うどん屋」とは受けとめられていない。
 
(「製麺所」はうどん屋に麺を供給する工場みたいなものだろ?)
 
それがぼくの感覚だった。
 
でもここ香川では「製麺所」では、「うどん屋」なのだ。
 
ただし、店構えはやはり工場(こうば)という方がふさわしく、ふつうの民家のプレハブかと思ったら中は製麺所なのだ。
 
そして製麺所内もやはり「製麺所」っぽく、作られた麺がたくさん出荷用に並べられているような作業場風な感じの中、食事ができる机や椅子がある。
 
(これは地元の人じゃないと入りにくいな。)
 
その製麺所でのうどんの食べ方は、基本的にセルフサービスだ。
 
おわんに麺を入れ、その横にビュッフェのようにねぎやら油揚げやらのトッピングがいくつも並んでいる。
 
そのトッピングは自分で自由に盛っていき、会計のレジで支払う。
 
どうやらこれがこちらのスタンダードなうどんの食べ方のようだ。
 
麺は大中小がある。
 
「これ小ですよね?え?小でも全然普通の量?!」
 
「そうだね。」
 
うどんの小は130円だった。小なのに十分な量だ。
 
「ごちそうするよ。」
 
「ありがとうございます。」
 
(やったー!)
 
60円の油揚げのトッピングもつけてくれた。うれしい。そして安い。
 
そしてうまかった。
 
(日本全国この値段のうどん屋があれば旅は楽なのになあ。)
 
高松ではこのような製麺所がたくさんある。その多くが看板もなく営業している。
 
その後10年以上たって、東京に「○○製麺」とかいううどん屋チェーンが出現し始めたころ、
 
(お?「製麺」なんて聞くとやっぱり四国のうどんだよね。いよいよ関東にも四国のうどん文化がやってきたのか。)
 
と思ったが、やはり本家本元の製麺所とは大違いだった。
 
ヒッチハイク131台目。坂出インターチェンジから。
 
ここから乗れば瀬戸大橋を渡って岡山に渡れる。
 
高松出身の22歳のカップルが乗せてくれた。
 
「岡山のジョイポリスに行くんです。」
 
「瀬戸大橋を渡ってデートに行くって感じですか?」
 
「こっちにはないからね。」
 
下関と門司をつなぐトンネルで見かけた買い物のチャリとかジョギングの人とかも見て思ったが、海峡に住む人たちの生活スタイルは興味深い。
 
そんな風にして海を渡っていることが日常なのだ。
 
まあでも、瀬戸大橋を渡るというのは、ベイブリッジとかレインボーブリッジとか、アクアラインを通るような感覚なのかもしれない。
 
とにかく、生まれて初めての瀬戸大橋からの眺めはよかった。
 
ぼくは岡山に着き、まさかジョイポリスに行くわけもなく、充電がなくなりつつあった携帯の充電をしようと、ドコモショップを探した。
 
お金が底をつきつつあった。

夜はまた川辺で野宿をした。

何という川か分からない、広い河川敷のゲートボール場のベンチで。
 
つづきはまた来週

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