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第134話 魂はどうやって磨けばよいのでしょうか【夢夢日本二周歌ヒッチ旅 回顧小説】

その日もファミレスで清河さんとおしゃべり。
 
「仙人になる方法とか、神の世界の文字が書いてある本を持っている。それは簡単に開いちゃいけないんだ。ある人が、あっちの世界に行って覚えたことを書き留めた本なんだよ。」
 
芸術家とは紙一重なところがある。というか、越えてしまっている。
 
むしろそういうぶっとんだところがなければ、芸術だけで飯を食うということはたやすいことではない。
 
清河さんの場合はもう何十年も芸術の道だけでやってきた人だ。
 
だから、どれだけ変人でも、うさん臭くても、文句のつけようがない。
 
まわりは付き合うか付き合わないかというだけのことだ。
 
清河さんは博識だ。
 
超がつくほど博識だ。
 
夢有民牧場のムーミンじじいもそうだった。
 
そして何をやらしても絶対に負けない。
 
というより負けることはやらない。
 
そういうクソ意地みたいなところもムーミンじじいと肩を並べる。
 
旅で出会ったスーパージジイリストにまた新たな人がランクインした。
 
毎日毎日、ファミレスで、半ば強引にいろんなことを話してくれた。
 
まったく苦痛ではないと言えばうそになる。
 
リスニングのハラスメントということで、リスハラとでも言おうか。
 
それもムーミンさんと同じだ。
 
エネルギッシュなめんどくさいおじさんたちは、たいていこういう感じなのだろう。
 
でも、議論もふっかけてきて、とても充実した日々だった。
 
「君は歌を歌ってるんだろ。何を歌ってるんだ?」
 
「ぼくのSOULです。」
 
「魂?お前なんかのはまだまだ魂じゃない。たかだか20年ちょっとの人生の魂なんて大したことない。」
 
(聴いてもないくせにずいぶん言うんだな。)
 
「ちょっと聴かせてみろよ。」
 
魂とは何なのか。
 
「魂の歌」とか、ソウルとか言うけど、それって何なのだ?
 
その強さというか深さというか、それが年齢によって比例するものならば、そもそも若いものが歌う意味なんてないじゃないか。
 
若い者がやっている芸術や表現は魂がないのか?
 
貧弱な魂なのか?
 
いや、そんなことはないはずだ。
 
ただ、清河さんが言っていることにも真実はあるのかもしれない。
 
年を重ねないと見えてこないもの。
 
若者が持っている情熱、若者が感じている苦労や悲しみなんてまだまだ甘いのだということか。
 
しょせん、そういった甘いものを根底にした表面的な表現だということか。
 
確かにそういうこともあるだろう。
 
しかし、魂が貧弱なうちは表現してはいけないということではないだろう。
 
もしかしたら清河さんはあのように投げかけてみて、ぼくを試したのかもしれない。
 
そうやってけしかけて、たきつけたのかもしれない。
 
結局相手がなんと言おうと、やっていくのは自分なのだ。
 
そもそもぼくはまだ完成したわけじゃない。
 
「お前なんかのはまだまだ魂じゃない」
 
むしろその通りだろう。
 
素晴らしいアーティストはこの世の中に五万といる。
 
足の及ばないアーティストが五万といる。
 
その人たちと自分との差を考えないはずがなかった。
 
その差を痛いほど感じていた。
 
だからぼくの魂が貧弱なのは確かだった。
 
ぼくは歌というものは、技術とかミュージックではなく魂だととらえる人だから、魂を磨くことが歌を高めると思っている。
 
清河さんの指摘は当たっていた。
 
清河さんが人生で乗り越えてきたものにぼくは勝てる自信がない。
 
じゃあ、どうやってぼくは魂を磨いていける?
 
 
そしてぼくは家に帰って歌を聴いてもらった。
 
ぼくは吠える系の歌はあまり響かない気がしたから、アルペジオの「君のせいじゃない」という歌を歌った。
 
この歌はギターがとてもきれいで、繊細で、詩は自分で作ったにも関わらず、自分でも意味がはかりかねる歌だ。
 
「ほう・・・。君は一見普通そうだけど、その中に独特なものがあるんだな。」
 
以外にも期待以上の言葉が帰ってきた。
 
「そんな歌じゃだめだ。」
 
と言われるものだと思っていたからだ。
 
おそらく認めてもらったのだと思う。
 
かといってぼくは清河さんを感動させることが目的ではないし、もっと違う勝負をしていかなくてはならない。
 
ただ、ちょっとだけうれしかったし、ほっとした。

そして「お前なんかのはまだまだ魂じゃない」という言葉はありがたかった。

そんな指摘をしてくる人はそうそういるものじゃない。

「魂とは何か」

その後の人生の歩みの中で、自分の人生を、歌を深めるための、それは貴重なテーマの一つであり続けた。
 
ところで、清河さんは酒が飲めない。
 
だからファミレスでコーヒー。
 
おっさんと2人で毎日のようにファミレスでおしゃべりする日々は、もうこの先の人生でやってこないだろう。
 
そして清河家での生活は終わった。
 
ぼくはもうすでに寒くなっている秋田へ向かった。
 
清河さんは「交通費代に」と言って、ぼくにいくらか握らせてくれた。
 
ありがとうございました。
 
「さて、電車で行くか。」
 
つづきはまた来週

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