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台湾のニュース記事との付き合い方ー翻訳者目線から

以前も当noteで紹介したことがあったのですが、私は大陸の大学に留学して中国語の勉強をし、大陸の中国語をマスターしました。このため、今の会社で台湾のニュースの翻訳を始めた当初はかなり戸惑いがありました。なぜならやはり、台湾メディアの文体と大陸メディアの文体では明らかに異なる部分がいくつかあることを思い知ったからです。

そこで今回は台湾メディアの文体と大陸メディアの文体では、どの部分が異なるのか、異なるならば対策をどう講じていけばいいのかについて、私が感じたことをお話しできればいいかなと思っています。

ただ先に申し上げておくと、今から説明することは突き詰めていくと多くの部分が、これまで私が自分のnoteの記事で説明し、扱ってきたことと重複しています。なぜなら私が当noteで説明してきた翻訳論は、「台湾メディアの翻訳も込み」だからです。

しかし大陸メディアと比べて、台湾メディアを取り扱う際は、私がこれまで説明してきた注意喚起をよりシビアに気にする必要があります。では具体的にどのような点が問題となっているのか、どう解決すべきなのかを見ていきましょう。

時制がわかりにくい

これは台湾メディアを翻訳する際の永遠の課題とも言えます。大陸メディアでは大体同じ段落で時制が前後するというケースはあまりありませんし、判別付きやすいのでまだ楽なのですが、台湾メディアの記事では時制が突然変わって別の事象を指すなどざらにあります。

それでも台湾中央通信などはまだわかりやすい印象を受けています。一方で国民党系の「聯合報」や民進党系の「自由時報」、「上報」、「アップルデーリー」、「風傳媒」などなどは、文節単位で時制が不透明だったりするのに加え、どこからどこまでが発言者の発言内容なのか判別しにくい文が乱立していたりして、「した」なのか「する」なのか非常に分かりにくい。しかも過去のことを話しているのに、何の前触れもなく突然現在の事象の説明に切り替わったりします。このため、何も考えないでただ翻訳をしてしまうと、何が言いたいのかちんぷんかんぷんの訳文になってしまうのです。

私は台湾メディアの翻訳で、日常的にこのような文に接しているのですが、時制を把握するための自分なりの解決方法として私が実行しているのは、①記事を翻訳する前に記事の内容の背景をあらかじめつかんでおく②仮訳をして、前後の文章との論理的な整合性を見る③他の台湾メディアの記事を参照する──です。

まず前提として、翻訳の際に文節単位で時制をしっかり検証する癖をつける必要があります。この話は前のnoteにも書いた覚えがありますが、台湾メディアの翻訳の時はより念入りに行いましょう。その上で、①と②については「私の翻訳チェックの基準」など他記事でも言及しているので、そちらを参照していただければと思います。

ただそれでも判別できない文章(文節)は台湾メディアにおいて存在します。その時に「最後の手段として」、私は③のテクニックを使っています。つまり「同じニュースの内容で、別の台湾メディア記者が執筆している記事を参考にして時制を決定する」という方法です。ここで重要なのは、他のメディアでも自分が翻訳する記事を引用したものではなく、別の記者が書いた独自の記事を探さなければならないということです。こうすることで、当該の時制に関する「セカンドオピニオン」を得ることができるというわけです。

主語が不自然、または頻繁に変わる

台湾ニュースにおいて翻訳者を悩ませる問題のもう一つが、主語が不自然に変わる現象だと私は考えています。この主述関係の問題については、以前のnote「私の翻訳原稿チェックの基準」でも触れました。しかし台湾ニュースの翻訳の際には、大陸メディアの翻訳よりも一層シビアに検証していく必要があります。でないと、一通り完成した訳文を読んでみた時に必ず「変な日本語」になってしまうのです。

でも実は、これは最初の「時制」の問題と連動して考えることが可能です。つまりニュース記事において

主体者Aが行ったことが過去の事」と分かっているなら、「文中の過去の出来事の主語はすなわち主体者A」
「主体者Bが行うことが未来の事」と分かっているなら、「文中の未来の出来事の主語は主体者B」

といったように事前に既に判明している時制を利用して、文章(文節)の主語を類推していく方法です。実はこの方法はかなり効果的だと自分は考えており、積極的に実行しています(逆も同様ですね)。

その他に留意すべき点としては、これまで私が主張しているような、▽日本語訳において物や事象を主語にしない▽「させる」は極力使わず、能動態になるよう主語を調整する――などなどでしょうか。

使う語句が大陸とは少々異なる

この「語句が違う」問題は実は非常に簡単です。なぜならこれらの語句は遭遇した時に自分で単語帳などを作り、ストックしていけばいいからです。経験を積めばそれなりに対処できる問題ですよね。

例えば、ニュース記事によく出てくる語句を「大陸の言い回し→台湾の言い回し→日本語訳」で並べてみるとこうなります。

框架→架構→枠組み
可持续发展→永続発展→持続可能な発展、永続的な発展
伙伴关系→颗伴関係→パートナーシップ

などなど。私はこのように「見慣れない語句」が出た時は、必ず語句の意味を台湾のネット辞書で確認するようにしています。一番権威があって信頼できるのは台湾教育部の「教育部重編国語辞典修訂本」でしょうか。ぜひ参考にしてみてください。

◇◇◇

とここまで解説してきましたが、最後に根本的で重要なことを。台湾のニュース記事と大陸のニュース記事とでは、翻訳の際取り組み方を変えなければならないのではと考える人もいるかもしれません。しかしどちらも使用されている言語はとりもなおさず同じ「中国語」です。少々言い回しが異なっていても、ベースとなっている文法は同じだということを忘れずに、文法に忠実に翻訳しなければなりません。このことを肝に銘じて、私たち翻訳者ひとりひとりがしっかりとした文法知識を押さえておきたいものです。

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