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閑話休題(11)──私が中日翻訳者として思うこと

最近中日翻訳者として、いろんなことに対して危機感を抱いています。

その1つが、日本人の「中国語学習者」不足です。

Xあたりでも度々ポストはしていますが、最近は「チャイ語」レベルの学習者ははいて捨てるほどいても、「ガチで中国語を習得した人」「驚嘆するほど高い中国語のレベルの持ち主」が本当に見当たらなくなったと感じています。

確かにX界隈では、私も「すごいな」と思ってしまう中国語学習者はちらほらいます。しかし現実世界では、私が所属している会社に応募してくる人の中国語のレベルは・・正直「嘆息」するしかいなかったりします。いやその前に、応募する絶対数も激減しました。

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1990年代~2000年代は、それでも高いレベルで中国語を習得している人は多くいました。私が90年代末期に通っていた翻訳・通訳学校にはそれこそ、私のレベルのはるか上を行く中国語能力を備えた人たちがひしめいていましたし、互いに中日・日中翻訳者・通訳者になるために日々しのぎを削っていたものです。

さらには当時は「中国語が使える求人」というだけで、多くの人が応募していましたし、そのような中国関連求人の絶対数も多かったことを思い出します。

今、なぜここまで中国語の人気がなくなってしまったのか。1つは中国に関するネガティブな情報・事件に伴う中国語学習者のモチベーションの低下が挙げられます。2000年代には中国関連の転機となる出来事が多発しました。

具体的には2ちゃん文化出現、中国での反日デモの多発、韓流ブームでしょう。これらの出来事により、2000年代から2010年代にかけて中国人気は徐々に衰えを見せます。でもそれでも北京五輪開催、上海万博開催など中国語学習者にとってモチベーションが上がるイベントはありました。

やはり決定的な転機は、2010年の尖閣の船舶衝突事件でしょう。あの事件以降、中国に対する日本人のイメージは目に見えて悪くなりました。イメージが悪くなれば当然ながら中国語に興味を持つ人も少なくなるというものです。

それでも2010年代はまだ「イメージが悪い」というだけでした。中国経済がイケイケだった関係で中国を目指す人はまだ多くいたと思います。

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そのような微妙な状況下で、決定的なとどめを刺されたのはやはりコロナです。コロナの関係で中国と日本との関係は断絶となり、交流はゼロに近い状態になりました。しかも「コロナは中国から」というネガティブなイメージも相まって、中国語を勉強するモチベーションがダダ下がりになった人は多かったに違いありません。

加えて2020年代以降は中国経済も落ち込みが激しくなったほか、福島原発処理水問題などで関係をこじらせたことも重なって、多くの日本企業が中国から撤退したり、中国企業とのビジネスを取りやめたりしたこともあり、日本においては「中国語が使える」ことを売りにする求人は激減しました。

多くの日本人中国語学習者にとって、「中国語を生かした仕事をしたい」というのがモチベーションの1つでもあったわけで、「じゃあ中国語をやめて別言語を勉強しようかな」という考えに至った人は少なくなかったのではないでしょうか。

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日本では今も、このような中国語学習者にとって「冬の時代」は続いています。中国語学習者の「冬の時代」が続けば、当然中日・日中翻訳者(通訳者)になりたいと思う人など出てこないわけで、中日・日中翻訳者(通訳者)にとっても、死活問題になりかねないことです。

本音を言うならば、現役の中日翻訳者(通訳者)にとって「ライバルが減ること」は「いい事」でもあり、「悪い事」でもあります。でも私自身は「同じ志を目指す同志」がいないということでやはり寂しいですし、「悪い事」のほうが多いと思っています。

この状態を打破するためにはどうすればいいのか。私たちのような現役の中日翻訳者(通訳者)ができるのはやはり、SNSなどを通じて中国語を習得するメリットというのを地道に宣伝していくことでしょう。

私みたいな人間ががんばるしかないかな・・と思う今日この頃です。


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