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輸入語はどう処理するか──カタカナ語に頼らない翻訳を目指す

日本語というのは良くできた言語で、外国の言葉を発音そのままに(あるいは発音を真似て)表現できる「カタカナ」と言う表記方法があります。そしてそのカタカナを使用した言葉を一般的に外来語、カナカナ語というわけですが、特に昨今このカタカナを使った「カタカナ語」が氾濫している状況は皆さん多くの人が実感しているのではないでしょうか。経済記事を見るとわれわれの聞き慣れないカタカナ語が羅列してあったりしますし、企業の会議でもカタカナ語が飛び交う光景は日常茶飯事になっています。

一方で中国語における外来語・輸入語の表記方法は漢字一択であります(たまにニュースで英語表記をする場合も散見できますが)。これを見ると中日翻訳においては、中国語とカタカナ語との親和性はあまり高くないと思われるかもしれません。

そもそも中国語における「外来語・輸入語」には、外国語の「音」をそのまま「音訳」して導入されたものと、外国語の「意味」を「意訳」して導入されたものと2つに分けられます。

しかし特に中国のニュース記事で頻繁に目にする外来語・輸入語や新語は、外国語(特に英語)の「意味」を「意訳」して導入された語句が多くなっていると私は感じています。これらはぱっと見では外来語(輸入語)とは分からない語句であり、だからこそわれわれニュース翻訳者はこれらの外来語・輸入語を処理する場合に気を付けなければなりません。

一般的には、これらの初見の輸入語を初見で処理する場合、上記のように原意が英語である場合が多いため、辞書やネットを駆使し、中文→英文→日文といった英語訳経由で日本語の語句に訳すという技法はかなり効果的です(例としては▽发展→development→開発▽安全→security→安全保障、保安▽线上→online→オンライン▽社会救助→social assistance→社会扶助――など)。この技法については当noteにおいても以前説明しました。

しかし中国語の原語を英語訳し、それをさらに日本語の語句に落とし込む過程で、われわれは往々にして「カタカナ」に頼ってしまい、中国語から英訳した英語の語句をカタカナ語でそのまま援用しまいがちです。しかし待ってほしいとわたしは思っています。

いくら現在の日本社会にカタカナ語があふれているとはいえ、ニュース記事において安易に英語の語句をカタカナ語にしてしまうことはかなり危険だと言わざるを得ません。なぜならニュース記事には、「カタカナ語の使用はできるだけ控えること」というルールがあるのです。

わたしはニュース翻訳の際、以前も紹介したことのある「記者ハンドブック」にリストアップされている外来語に限って、カタカナ表記することを自らのガイドラインとしています。これは、「万人にも理解できる文」というのがニュース記事の本質だからという理由が根底にあります。

加えてニュース記事においては、カタカナ語の表記にも統一的なルールがあり、それを実践しなければなりません。例を挙げると

「サイバーセキュリティ」ではなく、「サイバーセキュリティー
「ソフトウェア」ではなく、「ソフトウエア
「チャイナ・デイリー」ではなく「チャイナ・デーリー

などなど。詳しくは「記者ハンドブック」を参照して頂きたいと思うのですが、これだけを見てもカタカナ語は、日本人でさえ人によって使っている表記に「ゆらぎ」が生じやすい表記方法であり、ミスを誘発しやすい「落とし穴」だとも言えるでしょう。

カタカナの正しい表記、正しい使い方に自信があるという人は、自信を持って使うのはかまわないとわたしは思っています。特に経済用語の中にはカタカナ語でしか表現できない新語(つまり漢字表記が定着していない語句)が多々あり、そういう場合わたしは主要各紙の表記方法を参考にし、「一番使われているのはどちらか」を基準として、カタカナ語を使うか、漢字表記の語句を使うか決めています。

ここまで中国語の輸入語を日本語訳する際に「カタカナ語」にすべきかということについて話してきましたが、集約すればニュース翻訳におけるカタカナ表記の鉄則は「あえてカタカナ語にする必要はない。必要がある場合は万人に理解してもらえる方を選択する」ということでしょうか。


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