見出し画像

ニュース定型文は覚えてしまおう(政治用語解説編)

中国メディアのニュース翻訳を長い事やっているとつくづく思うことがあります。それは最近(時に習近平政権になってから)指導者の講話の難易度が日に日に上がっているということ。

特に現在の習近平政権になってから、その難易度が一段とアップしたような気がします。なにせ、辞書や教科書通りの言葉を話すのはまれ。文字原稿を見ても「何を言っているかさっぱり分からない」といったことが多々あります。

だからこそ、彼らが提起している理論、および彼らが話す言葉のバックグラウンドをしっかり理解しなければならない。いや、もっと厳しく言うならばしっかり理解しなければ中国語のニュース翻訳者のスタートラインに立つことさえ難しいとも言えるでしょう。

そこで今回は、最近の中国メディアによく出てくるニュース用語を、そのバックグラウンドを含めて少し長めに解説したいと思います。

国之大者

中国メディアのニュースを定点観測している人ならば、習近平総書記がこの言葉を口にしているのを一度は聞いたことがあるかもしれません。

ただ、この言葉日本語に訳すとなるととても難しい。私も百度百科を含め、この言葉の意味を解説しているサイトや辞書をいろいろ調べてみたのですが「これだ!」と納得できる解説は今も見つかっていません。

私自身はネット辞典や文字単位の解説を総合して、「国の重大事」という訳がとりあえずしっくりくるのではと思い、今は原文を「」付きで併記してその後ろに(国の重大事)との解説を付けて処理しています。これも最善のやり方とは思っていないのですけどね。

この「国之大者」ですが、初出は以外と最近で、習近平総書記が2020年4月20日に陝西省の牛背梁国家級自然保護区を視察した際に次のように語ったのが最初なのではないかと言われています。

要自觉讲政治,对国之大者要心中有数,关注党中央在关心什么、强调什么~

これを私なりに日本語に訳すとこうなります。

自覚的に政治を重んじなければならず、「国之大者」(国の重大事)についてはっきりと理解し、党中央が何に関心を持っているのか、何について強く指摘しているのかということに注目しなければならず~

正直なところ、ここにある「国之大者」(国の重大事)の本質的な意味合いをさらに掘り下げて解説すると、大幅に紙面を割かなければならないだけでなく、難しすぎて理解できなくなってしまうと思うので、割愛します。もし興味がある方は中国語の解説を探してみるのもいいかもしれません。

なのでとりあえずわれわれは、「国之大者」は「国の重大事」の意味だということを覚えておけばいいでしょう

ちなみに、2021年4月5日に刊行された「瞭望」誌に掲載された中共中央党史・文献研究院の論文「『国之大者』を心に抱く」では、「国之大者」は「党幹部が政治意識を強化し、政治能力を高めるための重要分野の一つである」と解説しています。これは平たく言うならば、習近平総書記が各党員幹部に科した、いわゆる習近平総書記独自の「政治思想」の一つだともいえるでしょう。

治国理政

これも非常に分かりにくい言葉です。私はこの言葉に、「国家統治・政策運営」という訳語を当てています。

この用語自体は以前からあり、2000年代前半には中国の指導者と他国の要人との会見のニュースでも「中国共産党の『治国理政』の経験」を紹介するという形で取り上げられてはいました。

ただこれが「中国共産党の」から、「習近平の」に代わったのは、2014年に外文出版社から出版された「習近平、『治国理政』を語る」からでしょう。

この書籍には2012年11月から2014年6月までに習近平総書記が国家統治について語った講話や談話、演説などが収録されています。中国共産党は今は、これをいわゆる「治国理政」だとしており、この書籍を通じて各幹部に学習するよう求めています。

ここから、「治国理政」は、イコール「習近平の新たな時代の中国の特色のある社会主義思想」の運営という意味合いに変わっていったのです。

两个一百年奋斗目标

この言葉も最近の習近平総書記の演説ではよく聞かれます。私は、この語句に「2つの100年の奮闘目標」という訳を当てていますが、皆さんは「これらの目標とは何?」という疑問が出てくるのではと思います。

そもそもこの「100年の奮闘目標」とは、江沢民総書記(当時)が1997年9月12日開催の第15回中国共産党全国代表大会で行った演説の中で提起したものです。江沢民総書記は当時の党大会の中で、①中国共産党創設100周年(すなわち2021年)の際に“小康”(経済的に多少ゆとりのある)社会を全面的に完成させる②新中国建国100周年(2049年)の際に富強、民主、文明、調和を旨とする社会主義現代化国家を完成させる──と提起しました。

以降中国共産党はこれらを「两个一百年」奋斗目标(2つの100年の奮闘目標)とし、実現に取り組んできました。

そして習近平総書記は2017年の第19回中国共産党全国代表大会で演説し、「中国共産党創設100周年の際に“小康”(経済的に多少ゆとりのある)社会を全面的に完成させる」という1つめの目標を繰り上げで実現した」と宣言しました。

習近平総書記は併せて、2つ目の「新中国建国100周年(2049年)の際に富強、民主、文明、調和を旨とする社会主義現代化国家を完成させる」という目標実現に向けて、2段階に分けて取り組むと発表しました。

その取り組みとして①2020年から2035年までに“小康”社会の全面的な完成を基礎として社会主義現代化を大まかに実現させる②2035年から今世紀中葉までに、現代化の大まかに実現させたことを基礎として、中国を富強、民主、文明、調和を旨とする麗しい社会主義現代化強国としてつくり上げる──と提起したのです。

この会議の後、中国メディアのニュースでは「两个百年目标」という語句よりも、主に「第二个百年奋斗目标」(二番目の100年の奮闘目標)という語句の方が頻出するようになりました。

ですからもし中国のニュース記事で、「第二个百年奋斗目标」が出た時は、具体的にその目標は何か、そして「第一个阶段」は何か、「 第二个阶段」は何かを確認しながら読み進めていくとより理解が深まるでしょう。
◇◇

どうだったでしょうか。実はこの他にも解説したい政治用語はたくさんあります。これらについては次回以降また解説したいと思います。


サポートしていただければ、よりやる気が出ます。よろしくお願いします。