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夜の人々/アンダースン

レイモンド・チャンドラー激賞というふれこみだったので気になって読んでみた。1937年に発表された作品らしく時代を感じるがそこがまたいい。文庫で300ページ強、読むのに時間がかかるかなと思ったけど読みやすい文体で案外さくさく進んだ。ときどき挟まれる社会への鋭いまなざしが全体をピリッと引き締めていた。作中に出てくる音楽を実際に聞いてみるといかにも物語の時代に入り込んだような気になってなかなかよかった。チャンドラー激賞と書いていなければおそらく手に取ることはなかったと思われるのでチャンドラーに釣られたとしても読むことができてよかった。古い作品もたまに読むといいなあと。世界をシンプルに切り取った世界。

三人はいま、Tダブの義理の姉のマティが帰ってくるのを待っていた。ホットコーヒーを入れてもらうための牛乳瓶を持って、角のハンバーガースタンドまでなにか食べるものを買いにいったのだ。

エドワード・アンダースン『夜の人々』、矢口誠訳、新潮文庫、1937年、84頁

「(略)おれだって、弁護士になるか店を経営するか、選挙に立候補するかして、拳銃なんかじゃなく、頭を使って人の金を盗めばよかったんだ。だけどおれは、へいこら働いても日給二、三ドルにしかならないような仕事にゃ向いていなかった」

エドワード・アンダースン『夜の人々』、矢口誠訳、新潮文庫、2024年、142頁

おなじ泥棒でも、でっかい公共企業の電話ボックスから十五セントちょろまかせば十五年の刑を食らうことになるが、目の見えない物乞いの缶からおなじ十五セントをかっさらっても、二十ドルの罰金を払わされるだけだ……。

エドワード・アンダースン『夜の人々』、矢口誠訳、新潮文庫、2024年、272頁

「巨悪をなすような犯罪者——言い替えるなら、市民の安寧と平和と幸福に対する本物の敵ってやつは、刑務所とは無縁の生活を送ってるし、どこの墓地に行ってもわかるが、死ねば誰よりも大きな墓を建ててもらえる。(略)」

エドワード・アンダースン『夜の人々』、矢口誠訳、新潮文庫、2024年、275頁


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