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プロローグA

 BOOOOOOOOOOOM!
 爆発音が地面を叩き、轟と炎の唸る音がそう遠くない場所から聞こえる。真っ赤に染まった楽屋へと続く通路の真ん中で、太った燕尾服の男が膝を突いた。
「ハァーッ、ハァーッ……! お前たち……!」
 シルクハットを被った男は顔を上げ、数メートル離れた場所に立つ者たちを睨んだ。
 人数は五人。目出し帽をかぶり、そろいの防弾チョッキを着こんだゲリラ部隊じみた出で立ち。携えたアサルトライフルを油断なく燕尾服の男に向ける。
 通路の景色は赤く、ぱちぱちと音を立てながら火花が飛び散る。燕尾服の男はワイシャツを血に染めながら手につかんだ砂を握りしめた。
(悲鳴がもうない……。全員やられたか? それとも逃げ延びたか……?)
(だが、いずれにしても、もう終わりだ……!)
 燕尾服の男は白手袋の拳で地面を殴りつけ、髭を蓄えた口から血を噴き出しながら怨嗟をこぼす。
「お前たち……俺のサーカスを……俺の夢を……! 許されると思うなよ……!」
「残念だが、許されないのは貴様の方だ。支配人」
 部隊のうち一人が冷たく言い切った。
「金に揺らがない心は美徳だろうが、それはこの街の外での話。金で買えないものは奪われる。貴様もここで成り上がったのだ。わかるだろう」
「はっ! 理由は教えないけど人の大事な花形引き抜きます、って言われてはいそうですかって言えるかよ!」
「その結果がこのザマだとしてもか?」
「このザマになったから、俺は正しかったって思えるんだよ……」
 支配人が喉を鳴らして暗く笑った。部隊のリーダー格の男は、目出し帽の上から着けたゴーグル越しに侮蔑的な視線を投げる。
 支配人は突いていた膝の片方を上げて立ち上がり、膝の砂汚れをはたく。
「要求通らねえからってこんなことしやがる連中が、うちの可愛い綱渡りに何をするか……想像もつかねえのが恐ろしいぜ。お前らだって知らねえんだろ……薄汚ぇ金喰い虫のクズどもが」
「そうだ。お前は金のために殺されるのだ。……撃て」
 リーダーが短く命じ、五つのアサルトライフルが同時に火を噴いた。
 BRRRRR! 連続で撃ち抜かれた支配人の身体が大きく後ろにのけ反り、仰向けになって倒れ込む。頭から外れたシルクハットがコロコロと転がって止まると同時に、五人の部隊は慎重に支配人へと近づき始める。
 足音もなく取り囲み、銃口を向けて数秒。リーダー格の男の肩に取りつけられたトランシーバーがノイズを発した。ZAP。
『フォックストロットリーダーよりアルファリーダー。ターゲットを取り逃がした。それ以外のサーカス団員は全員死亡』
 リーダー格の男はしばし応えず、支配人に銃口を向け続けていた。だが支配人が全く動かないのを確認すると、銃を下ろして肩のトランシーバーに触れる。
「アルファリーダーから全小隊。標的は逃走した。後始末ののち我々は撤収し、追跡班と交代。指令があるまで待機する」
 リーダー格の男はトランシーバーから手を離しかけ、思いとどまって付け加えた。
「……この仕事には我々の命など塵芥にも等しいほどのギャラティーが支払われている。失敗は許されないと追跡班に伝えろ。以上」
 今度こそトランシーバーを離した男は、視線を向けてくる同じ小隊の者たちを見回して頷くと踵を返した。小隊のメンバーも倒れた支配人を置き去りにしてその後に続く。
 数分後、都市郊外の巨大なサーカステントは爆発四散した。

生活費です(切実)