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【2023】小説の技法書じゃないけど小説づくりの助けになった本【三選】

今年は小説の書き方を壊したり再構築したり、試行錯誤の一年だった。
その最終盤で集英社さんから賞をいただくというびっくり嬉しい出来事があったりもしたが、これも色んな本を読んで他ジャンルの考え方を吸収したおかげかもしれない(そうか?)。

というわけで、今年読んだ本の中から「小説の技法書じゃないけど小説づくりの助けになった本」を三冊、感謝の念を込めて書き記しておく。


(1)たちまち繁盛店!1日300人が行列する人気ラーメン店のつくり方

ラーメン店のコンサルティングをしている筆者が、職人気質のラーメン屋のオヤジに向けてビジネスやマーケティングの考え方を解説していく本。
ラーメンコンサルと言えばインターネットでは「ラーメンハゲ」が有名だが、その名言のいくつかはこの本で語られているようなビジネスの思考から発生しているように思う。

ラーメンハゲ

本書も最序盤に『「味が良ければ売れる」という大きな誤解』という章で、ラーメン職人にナイーヴな考え方を捨ててビジネスマンの思考を持つように呼び掛けている。
「美味いラーメン店ほど、(美味いラーメンを作っているということに甘えるせいで)売るのが下手だ」という言葉にはちょっとダメージを受けた。

この思考の転換から出発し、ビジネスの原理原則、マーケティング、商品コンセプト・サービス設計、数字との付き合い方、マネジメント、経営など、ラーメン店全体の営みを戦略的な視点から解説している。
立地やオペレーションの話まで行ってしまうとラーメンに完全特化した話になってしまうが、それでも小説(というか創作全体)に転用可能な考え方も多かった。

個人的には「人は(価格などの)数字が1.3倍違うと明確に差を感じ、1.7倍になるともはや別物と感じる」など、お客さんの数字や商品に対する感じ方の知識は即戦力レベルで創作に取り入れられると感じた。
(ドラゴンボールで、ギニューの戦闘力12万に対して悟空の戦闘力が9万から18万に跳ね上がった時の心の動きとかは、これで説明がつく?)

ラーメン一杯と小説一冊の値段が割と近いこともあり、「自分の小説は一杯のラーメンに勝てるだろうか」などと考えさせられた。

「このまま創作の腕を上げていくだけでいいのか……?」と思った時に読むと新しい発見があるかもしれない。


(2)「ついやってしまう」体験のつくりかた 人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ

任天堂のプランナーだった筆者が『スーパーマリオ』『ドラゴンクエスト』『ラストオブアス』『風ノ旅ビト』など名作ゲームを例に、総合的なゲーム体験がどのようなデザインによって成り立っているかを、様々なスケール、学問分野を横断しながら解説してくれる本。

なかなか言語化するのが難しい「プレイヤーの直感にいかに働きかけ小さな体験を積み上げていくか」について詳しく語られているのが特徴的。

例えば最初の章では、初見のプレイヤーに『スーパーマリオは右に向けて進むゲーム』と直感してもらうために画面や敵の配置にどのような意図が込められているかが解説されているのだが、普通に読んでいて恐ろしくなってしまった。任天堂ゲームの『スッと入ってくる感じ』ってこういうところから来るんだろうなと、畏敬の念を禁じ得なかった。

また、この本自体が『次のページに書かれている内容を予想しページをめくる』というちょっとしたゲーム性を表現していて、異常に読みやすくスッと頭に入って来る(そのせいで自分が本当にこの本の内容を理解しながら読んでいるのか不安になったりもした)。

ゲームというメディアにとどまらず「体験の作り方」そのものにフォーカスを当てているので、ほぼすべての創作に適用できるだろう。
本当に色々な分野に話が及んでいるので、どこかに必ず「はじめまして」になる考え方が見つかるはずだ。

巻末付録「体験デザインをより深く学ぶための参考資料」も良い。
本文で取り上げられた分野それぞれについて、良書を数行のコメントを添えて多数紹介してくれている。
自分の場合は、アフォーダンスの考え方と学習心理学の存在を知れたのが大収穫で、それだけでも元を取った気分だ。

単純に読み物としても面白いので万人におススメ。


(3)[改訂第2版] [入門+実践]要求を仕様化する技術・表現する技術 -仕様が書けていますか?

ソフトウェア開発、コンサルティングに長年携わっている筆者がひたすら「プログラム本文を書き始める前にきちんと要求仕様書を書け!」と訴えかけてくる本。

ソフトウェアは基本的にクライアントの依頼を受けて複数人の開発者たちが作る物なので、作り始める前にまずクライアントの要求を明確にしなければいけないし、それをチームがちゃんと共有しなければならない。
そのために書かれるのが要求仕様書だという。

この本では「さっさと本文を書き始めて細かい部分は後で詰めればよい」という考え方に対し、行き当たりばったりな開発をした愚か者たちがズルズルと破滅のスパイラルに陥っていくケースが(ちょっと怖いぐらい)念入りに紹介されている。
もちろんただの怪談で終わる本ではなく、巨大な構造を組み上げていく際にどの段階で意思決定を行うべきかや、求める機械の動作記述から曖昧さを取り除くためにはどのような表現を用いるべきかなど、かなり具体的かつ実用的な部分にまで踏み込んで解説されている。

文字列から体験を生み出すという点で、ソフトウェアと小説は似ている。
小説は基本的に一人で書くものだが、要求仕様書は情報共有だけでなく、「これからつくるもので叶えたい要求はどのようなもので、それを叶えるためにはどうすべきか」を特定・整理する目的もあるので、小説のプロットにも応用することができる。

自分は小説を書く前にプロットは書かない派だったが、この本を参考にプロットのフォーマットを自作することで、前よりも明確な意図性を持って小説を書けるようになった。

ある程度ソフトウェア開発の用語が分かり、かつ創作に風通しの良い効率性を求めている人は読んでみるときっと面白いはずだ。


個人的2023年まとめ

印象に残ったこれらの本を総括すると、どうやら今年の自分は「いかに自分の営みを客観視し、成功までの筋道を組み立てるか」というテーマを追い求めていたようだ。
ここ数年、自分の感覚では理想的に見えていた作品が全然世の中に通用せず悔しい思いをすることが多かった。それを克服したかったのかもしれない。
今年は最後の最後で新しいチャンスをいただけた。
来年はまず、それを活かせるよう全力を尽くしたい。

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