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変化

 職場のマネージャーが唐突に本を貸してくれた。「チーズはどこへ消えた?」というタイトルの、自己啓発本。
わたしは自己啓発本が大嫌いなのだが、読んでみなさいと言われたので、好意を無駄にしたくない気持ちもあり、しぶしぶ読んだ。
そして、想像通りの感想を持った。

「わたしには必要がない」

 この本の内容はググればいくらでもあらすじが書いてあると思うので省略するが、要は「小さな変化を見逃すな、変化を恐れるな」みたいな内容である。本自体は2時間ほどで読めるくらいの長さだが、本当にくだらないので、読まないほうがいい。
 多分、マネージャーはわたしに対して、様々な変化を恐れているように感じているのだろう。まったくそんなことはないのに。
そもそも、本当に変化を恐れているのなら、わざわざ地元の東京を出て単身で広島県の会社に就職するはずがないだろう。そこからして、マネージャーはわたしの本質を見誤っている。
 わたし自身、良い方向へ変化することは好きだ。化粧品を変えてみるとか、髪型や色を変えてみるとか、新しいジャンルのファッションに挑戦してみるとか、表層的なものもそうだ。ハンドメイドアクセサリーの販売をやってみるとか、たくさんの知らない人と対話してみるとか、外向きの変化もまた、自分への刺激になり、考え方の変化を促す。内面の変化もまた、鍛えていかねばならないものだと思うし、自分なりに前向きに取り組んでいるつもりである。

 ただ、わたしの中で一番問題なのが、精神の病である。何度も言っているが、わたしはうつ病を患っている。うつ病には症状の波があり、比較的元気なときもあれば、自殺を検討するほどに悩み苦しむときもある。それは自分を取り巻く環境に依存していて、去年てんかん発作を起こすまでは、うつ病が寛解するのではないかという希望が見え隠れしていた。
しかし、てんかん発作は起き、わたしを取り巻く環境が大きく悪い方向へ変化し、うつ病は悪化の一途を辿った。未だに睡眠障害は続いているし、自殺企図、希死念慮はわたしの心に常に漂っている。エブリデイ死にたい。

 そんな折に、5月からの職場の体制変更についてマネージャーから聞かされた。
現在の直属の上司(わたしの唯一の理解者)から、マネージャー直下の部下になること、そして徐々に仕事の内容などを変えていくと告げられた。
わたしは上記の病気のこともあって、まだ病気のこともあるので、なるべく体制変更の波に巻き込まないでほしいという旨のメールを送った。そこで、「チーズはどこへ消えた?」という本を手渡された。

 違う、違うだろ。わたしはそういうことを言っているのではない。「チーズはどこへ消えた?」の登場人物が全員うつ病を患っていたら、わたしも内容にめちゃくちゃ共感できたと思う。だが、全く違う。この本には健常者しか登場しない。しかも、言われなくても今までやってきたこと(変化を察知し、それを楽しむこと)をさんざんやってきたわたしに、今この本を読めと勧めるのは、マジで見当違いだ。マネージャーは5年間、一体わたしの何を見てきたのだろう。死にたい死にたいとぼやきながら変化を拒む人間にしか見えていなかったのだろうか。そう思うと、非常にショックだ。
多分、マネージャーのような根っからの健常者には、精神障害者はもはや人間ですらない、理解を超えた異常な生き物としてしか見えていないのだろう。

 というわけで、上記の内容をやんわりと遠回しに伝えて、この本を返却しようと思う。

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