山下敦弘監督、パリに現る!(6/16)
振り返ると、とっても幸せな一日だった。
朝からサウンドトラックを書き進める。
映画のクライマックスに近づきつつも、まだまだヘビーなシーンが残っているので予断は許さない。
今日も丁寧に最初のシーンから見直して、これまでの音楽が果たして正解だったかどうかを確認する。毎日これをやる。
毎日これをやって、毎日「うん、やはりこれが音楽の正解だな」と思えたならば、その時ようやく自分を誰よりも信じる。
この仕事をしていたらこれが日課というか、これくらい丁寧にやってもやりすぎだった事は一度もない。サウンドトラックの仕事は「このシーンにこの音楽がいい感じに合っている」だけでは足りない。どうしても時間と手間のかかる作業だけれども大切にしたいルーティーンだ。
私が体調不良やら忙しさやら気分が乗らない(!)などの理由でお茶を濁し続けていた人がいたのだが、流石に人として申し訳なさを感じ、今日珈琲でも飲みましょうかとこちらから提案して会う約束をしている人がいた。
世武日記には毎度バカ正直に自分の汚い部分を曝け出して、果てしないマイナスプロモーションを自ら率先して行なっているような気がしてならないが、本日もバカ正直にマイナスプロモーションを行いたいと思う。
大基本、自分の仕事最優先の人生を送っているため、すでに信頼関係のできている相手ならまだしも、新規で知り合った人を優先することは殆どない。「最低!」と思った人もいるだろう。分かっているのだが、これが私の現実だ。すみません。
サウンドトラックを書いている時は、音楽を書きながらも、脳みその別の部屋で最後のシーンまでの時間設計を厳密に組み立てている。同時進行。監督からの修正作業は相手ありきなので未定なものの、自分のスケジューリングというのは理路整然とオーガナイズされている感じ。
だから、自分がどのタイミングで曲を書かないのか、何日の何時頃にどのシーンを書くのか、とても自覚的だ。
今まで一度も自分の見立てから大幅に外れたことがないのだが、今まで一度もないからと言って今回も絶対にないとは言い切れない。だから制作チームには絶対に言っていないので、この日記が見られていませんように....!
これについては、酷いというより責任感とか仕事のやり方の自由の話なので、まあそんな嫌悪感は与えないかと思う。
嫌悪感案件に話を戻すと、そんなだから、今週は日曜日の午後に一度作業を中断、自分を日常生活に泳がせて作品から半日剥がすことで、その次のシーンで狙っている音楽アプローチで書けるだろうという勝算があったのだ。私の中の世武監督の役割である。
そんなだから「人として申し訳ないから」と如何にも善人ぶったが、どちらにしても日曜日の午後は仕事をしないと決めていただけだった。
珈琲を飲む相手については、良いも悪いも、何の感情も抱いてなかったのだが、今日再び会ってもその印象は変わらずだった。私は好き嫌いがとてもハッキリしているので珍しく、だから別に会うのも特段気にならない。
しかし、たまたま声をかけてきたにしては熱心な映画ファンなようで、その辺は映画好きの嗅覚を感じ取ったのだろうか?と少し感心しながら、基本的には相槌を打ったり、相手からの質問に答えるスタイルで息抜きをした。
そのあとは『化け猫あんずちゃん』でパリに来ていた山下敦弘監督に連絡を頂き、作品を観させて頂く機会に恵まれた。場所は懐かしのForum des images、学生時代よく通った映画館だ。
共同監督の久野遥子さんと共に映画の前後で登壇されていたのだが、お二人が面食らうほどにほのぼのとしているものだから、制作中特有の緊張感が一気に解けてふにゃふにゃになった。日本の生きるアーユルベーダと呼びたい(長い)。
肝心の作品はというと、「アニメーションでここまでの表現ができるのか!」という感嘆を通り越した感動に終始圧倒された。それでいて、何度も声に出してゲラゲラ笑う軽薄さ(褒め称えている)。はっきり言って、ふんわりとしたタッチで大雑把に描かれた猫の背中がこんなにも雄弁だなんて、軽々しく凄いことをやってのけていて末恐ろしいよ。
本作は日本とフランスの合作で、本当に50%ずつ作業分担をして作られたらしい。日仏共同製作の未来に期待と希望を持てる素晴らしい仕上がりだった。
日本の映画業界は沢山の問題を抱えているけれど、人材はとても豊かで、可能性に満ちた映画人が何人もいるんだと、フランスに来てからよりハッキリと分かるようになった。
日本映画の黄金時代、我が国の映画は世界に誇れるほど狂っていたはずだ。私たちが今でも安心して狂っていられる為に海外の力を借りることは、ひとつの新しい可能性なのかもしれない。それによって花開く才能もあろうと思うと、シンプルに映画愛好家として嬉しく思った。
明日はお食事でも、という話をしているので、もう聞きたいことが山ほどあって早く会いたい(恋かよ)!ついでに、映画業界のこれからの話もたんまりしたいと思っている。かなり楽しみだ。
今日の幸せな気分は実はこのあともまだまだ続くのだが、明日は起床したら日本とのリモート録音が控えているため、今日はこの辺でおしまい。
ボンヌニュイ!
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