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中平卓馬 Burn Overflow 火|氾濫
東京国立近代美術館で開催中されている中平卓馬の展示を見てきた。
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広いスペースに多数の展示。
中平の作品をこれほど一度に沢山見たのは初めてだった。
わざわざ竹橋まで足を運ぶくらいだから、この展示を見に来る人は少なからず中平自身やその作品を知っていることだろう。仮に初見であっても展示のステートメントはとても丁寧なものだったし、とにかく展示の数が多かったので順を追って作品を見るだけでも何となく人物や作風(そして時の経過による変化)を感じることができるだろう。
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中平の著作をいくつか読んだ上でこの展示を見るとより理解が深まる気がした。これらの(特に前期の)作品は時代背景や当時の彼を取り巻く状況が大きく影響している。
僕も書籍の挿絵程度の写真を見て分かった気になっていたところがあったかもしれない。ゼラチンシルバープリントの大判写真を目の前にすると、中平が表現したかったものが少し深く理解できた気がする。
個人的に収穫だったのは中平が後期の作品にカラー写真を用いるようになった経緯の説明と象徴的な写真に同時に触れることができたことだ。
急性アルコール中毒により昏睡し数年分の記憶を失うと同時に記憶障害を患った中平は、療養からの復帰後それまでの作風とは異なりカラー写真による表現を始める。
この理由の主なものは要約するとモノクロ写真の演出性に対する批判であった。
目に映る情景は色付いており、空間に溢れる写真の殆どがカラー写真である中で、敢えてモノクロで写真表現することは撮影者による演出そのものであり被写体をあるがままに捉え写し出す指向とは相入れないものだった。
なるほど、僕も「モノクロで撮る理由」を光の繊細さが際立つとか見る人が色を想像できるとか気取ったことを言っていた気がするけれど、風景写真、記録写真こそ目的であると言っているのだから、モノクロ写真は演出過剰という評価を免れ得ないだろう。
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中平の展示を見た後にミュージアムショップに寄ってまだ未発売のこの企画展の図録を予約した。会期も折り返しを過ぎようとしているにも関わらず発売を予定していた図録が刷り上がっていない。無いものは仕方がない。鑑賞当日の予約なら送料も掛からないということなので気長に到着を待つことにしよう。
こういう展示を見ると帰り道に写真を撮りたくなる。
それを見越してポケットにはGRⅢを入れてある。
多数派、権力、資本主義、大量消費、中流、サラリーマン、当時のアウトサイダーが批判した大体に当てはまる生き方をしている僕にはテロルやアナーキーという指向はない。天から降ってくる給付金や手当を嬉々として受け取り経済活性化の名目で新たなカメラやレンズを手にしている。
そんな僕に中平のような写真を撮ることはできない。
反体制、反多数派、言い換えれば反骨の精神を宿した写真家が1970年代以降を切り取った画は、現代においてそれらを批判的あるいは嘲笑的に眺める未来人によって猿真似の対象になっている。JRのディスカバージャパンの広告に演出的にアレ・ブレ・ボケの表現が用いられた時、中平は絶望したというけれど、Provokeが分解され展示され撮影の対象になっている姿は一体どう映るだろう。この場所が美術館であり歴史的資料と注釈されている点で経済的消費の対象とされるよりもまだマシと思うだろうか。草葉の陰の中平を想う。
そんな猿真似の一つ。
パリで開催されたビエンナーレにおける展示、サーキュレーション − 日付、場所、行為。「日付」と「場所」に限定された現実を無差別に記録し、ただちに再びそれを現実へと「循環」させる試み。
この日、僕が歩いた道程を機械的に取り続けた写真。
2024年2月29日 新宿
同じルートを2回歩いた。循環バスを撮った。
唯一中平に迫る循環の概念だったかもしれない。
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S5Ⅱが気になる。
結局最後は物欲。
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