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タレント議員が多いのは東京とか大阪のような人口集中地域のせい

2022年の参院選を前に、「なぜタレント議員がこんなに多いのか、日本の有権者はアホなのか舐められているのか」云々と言った言説がまた散見されるようになってきた。この件に関してはメカニズムは比較的明瞭であり、有権者数が多い選挙区——端的に言えば東京や大阪でそうなりやすいだけである。

タレント議員が増えるのは有権者人口が多いから

選挙は「私たちの代表」を選ぶ仕組みであり、有権者にとって「私が知っていて親しみを持てる」という要素は「私の代弁者」としての議員として選ぶかどうかの大きなファクターになる。候補者はまず「自分の知名度を高めること」「自分の政策を聞いてもらえる程度には興味を持ってもらえること」が真っ先に必要となってくる。

議席あたりの有権者人口が少ない選挙区では、しばしば候補がフェイス・トゥ・フェイスで対話し知名度を高める手段が取られる。辻立ちを含めたいわゆる「ドブ板選挙」というのはその分かりやすい例だろう。

ただ、フェイス・トゥ・フェイスは時間あたりで接触できる人数に上限がある。議席あたりの有権者人口が多い選挙区では、ドブ板では有権者のごく一部にしか接触できず、その方法で獲得できる票の比率は相対的に小さくなる。

そういった人口の多い選挙区では、候補者本人でない運動員が多数フェイス・トゥ・フェイス戦術を行うガチガチの組織選挙をやるか、またはもう一つの方法として――マスメディアで事前に知名度を獲得している人、すなわちタレント議員が当選しやすくなる。

タレントだらけの東京

東京は、単純に人口が多い上に、人口の入れ替わりも多いので安定した組織づくりもしにくく、ドブ板等のボトムアップで当選するハードルが高いためか、タレント議員一強というくらいタレント議員が多い。

タレントしかいない知事選

近年の東京都知事は、青島幸男★☆➡石原慎太郎☆➡猪瀨直樹☆➡舛添要一★➡小池百合子★と、文芸家(☆)かテレビタレント(★)出身者だけが当選する状況となっている。落選者でも上位は浅野史郎(テレビコメンテーター)、東国原英夫(芸人)、鳥越俊太郎(テレビ司会者)、山本太郎(俳優)などタレント系が目立つ。

この傾向は近隣の神奈川の黒岩祐治(フジテレビ出身)や千葉の森田健作(俳優)などでも見られるが、東京に比べると非都市部も多いためかタレント一強というほどではない。

大坂府知事もタレント系が目立ち、ここのところ横山ノック★、太田房江、橋下徹★☆、松井一郎☆、吉村洋文☆が選出されているが、テレビタレント出身(★)が2人と、あとは維新(☆)も橋下徹以降の影響と捉えると、東京よりも弱いがタレント系が強い傾向が見て取れる。

なお、愛知県は鈴木礼治、神田真秋、大村秀章、福岡県は麻生渡、小川洋、服部誠太郎と、おおよそ日本3位・4位の都市圏までくるとタレント系知事は見なくなる。

選挙区が大きい参院選でのタレント議員

参院選もまたタレント議員が強い。衆院選の小選挙区では薄く広く集めるより選挙区内でドブ板をやる余地が出てくるが、大きな選挙区で複数の当選枠を争う参院選では、マスメディアを通じて獲得した薄く広い支持がモノを言う可能性が高まるからである。

例えば、2019年の参院選の東京選挙区では、自民は丸川珠代(アナウンサー)と武見敬三(ニュースキャスター)、立民は塩村文夏(グラビアアイドル)とそれぞれタレント議員が当選している。その前の2016年は民進が蓮舫(グラビアアイドル)、自民が朝日健太郎(バレーボール五輪代表)を当選させている。

他の選挙区でも都市部ではタレント議員は目立ち、神奈川では2016年参院選で、民進党内で現職の金子洋一が落下傘の真山勇一 (ニュースキャスター)に敗れる事態が発生している。なおトップ当選は自民の三原じゅん子(俳優)であった。2019年参院選では宮城で石垣のりこ(ローカル局のアナウンサー)が当選しいる。

全国区である拘束名簿式比例代表制は、職業・産業別組織代表とタレント議員が大半になる。自民は職業・産業別組織代表が圧倒的に多いが、タレント議員もおり、2019年参院選で当選した5位和田政宗(NHKアナウンサー)、8位橋本聖子(五輪メダリスト)、落選した27位山本左近(F1ドライバー)、29位丸山和也(タレント)あたりはこれに該当するだろう。

職業・産業別組織代表をまとめ切っていない立民ではよりタレント議員への依存度が高く、当選した範囲で8位の須藤元気(格闘家)、落選した範囲で9位の市井紗耶香(タレント)、10位奥村政佳(歌手)、12位おしどりマコ(芸人)と、当落線上にタレント議員が集中する傾向にある。

マイノリティ代表としての全国区

参院選の拘束名簿式比例代表制のような全国区が置かれるのは、選挙区では拾いにくい「全国津々浦々に広く薄く存在する声をまとめ上げるため」という意味もある。職業・産業別組織代表はそれにあたるし、「オタクの代弁者」として有名な山田太郎もその類だろう。人数の規模で見れば、LGBTの代表者などもあるとすれば参院選の比例全国区なら当選しやすい。

タレント議員はそういった仕組みを「ハック」するのに好適な条件を備えており、そのあたりでどうしても増えてしまう、というところであろう。

条件は外国も同じ

タレント議員は日本固有の現象ではない。例えば日本より人口が多く大統領が直接選挙でえらばれるアメリカではレーガン、トランプと2回タレント大統領が排出されているし、ブッシュJr.やヒラリーなど大統領経験者の家族が大統領候補になる二世議員と同様の現象も頻繁にある(さすがに議院内閣制の日本ではまだタレント首相は出てきていない)。イギリスやフランスでも目立つ言動で「悪名は無名に勝る」を地で行くポピュリストが首相になったり大統領選挙で決選投票に進んでいる状況である。

東京でタレント知事・議員が多いのは、組織固めがしづらく無党派的な有権者が多いせいでもある。イギリスのように二大政党制がガッチガチにキマっているところでは組織選挙で勝てるのでタレントにそこまで頼る必要がないが、多党制の色の濃いイタリアなどでは第一党となった「五つ星運動」の設立者ベッペ・グリッロ(お笑い芸人)やら、ポルノ女優出身のシュターッレル・イロナやら、タレント議員が目立つ。

タレント議員の発生は選挙のメカニズムと密接にかかわるところであり、日本固有のカルチャーであるかのように語るのは雑に過ぎるというものだろう。

この件の参考としては「グローバル化と人口増大がもたらす民主主義の危機」も読んでいただければ幸いである。

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