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‼ ロシア軍はNATO軍に負けた

ウクライナでの戦争について、ハルキウ東部でのウクライナの反抗が成功して以降、ロシア国内では「ウクライナ軍は実質NATO軍である」という声が出始めている。では、ウクライナ軍はどこまで「実質NATO軍」なのだろうか。NATOがウクライナに対して行っているのは、主に以下の3つないし4つであろう。

・武器援助
・衛星など偵察情報
・訓練や机上演習など教育面(いわゆる「軍事顧問」が関わる部分)
・(義勇兵 公式の援助ではない)

NATOの武器援助

NATOをはじめとする国のウクライナへの武器援助については、主に以下のようなものがある。カッコ書きの中は援助側がどの程度の量を出したかである。

• 歩兵用装備(小銃やジャベリン、スティンガーなど)
• 攻撃力のない/低い歩兵輸送車(M117やトラックなど、在庫の10%程度)
• 自走砲、榴弾砲(PzH 2000sやM777、援助分は在庫の10%程度)
• ピンポイント攻撃兵器(エクスカリバー砲弾やHIMARS、HARM、少量)
• 旧ソ連製戦車(退役寸前のT-72、在庫分300両ほど)

以上のリストの中には、西側の最新戦車や歩兵戦闘車、戦闘機や攻撃機、海軍戦力などはロシアを刺激しないよう含まれていない。HIMARSで発射可能な戦術弾道弾(ATACMS)についてはロシア側が「レッドラインを超える」と名指しで牽制しており、NATOもこれらについては供与していない。端的に言えば、エスカレーションを防ぐためにロシア軍を正面から倒せる兵器は供与されていない

野砲は火力になるが、ウクライナが欲しい旧ソ連規格の砲弾を西側が供与できないので仕方なく砲ごと援助したという向きが強く、米国などは簡易版のM777のみ供与でフルスペックの自走砲は送っていない。それでも露宇の砲兵火力比が10:1と比べれば気休めレベルで、「ゲームチェンジャー」と言われたHIMARSも16基しかなく、類似のロケット砲を3~4桁保有するロシアとは比較にならず、ロシアも牽制しない程度しかない。

その他の兵器についても、基本的に各国の配備数の10%程度、つまりすぐに動かせる予備分だけが提供されており、ロシアを倒すために全力で兵器が供給されているとは言い難い。

端的に言えば、西側諸国がウクライナに対して行った援助は、NATO軍の本気に比べれば片手ほどの力すら出していないというレベルである。これをNATO軍と言うなら「NATO軍(笑)」と書くべき水準であり、これが戦争のバランスを変えているというのなら、NATO軍(笑)すら脅威となるロシア軍にとっては、本物のNATO軍には及びもつかないということだろう。

義勇兵

ロシアのプロパガンディストの間では「NATO傭兵」なるものがロシア軍を追い詰めていると主張されている。確かに今のウクライナ軍には外国人義勇兵部隊があるが、出身地に応じた部隊に配属され、そのリストも公開されていて、ウクライナ外務大臣は2万の応募があったとしているが、各国政府が統計として出した数字から換算するに、以下の主要な5つのグループが各500~1000人規模で(そのほかにグルジア部隊などがある)、全部で2500~5000名程度、うち西側出身者は半分程度で、残りは旧ソ連諸国から来ているという概算でよいだろう。

・カナダウクライナ旅団
・ノルマン旅団(西側や少数国の混成義勇兵)
・カリノウスキ連隊(ベラルーシ義勇兵)
・自由ロシア軍団(ロシア軍投降兵などからの志願)
・ドゥダエフ大隊(反カディロフ派のチェチェン人)

ウクライナの兵力は開戦時点で26万、動員可能な予備役が90万であったため、それに比べたら雀の涙である。少なくとも数的に戦局を変える存在ではない。

これらの義勇兵はせいぜいライフル程度しか持ち込んでおらず、車両以上の重装備はウクライナ軍からの支給であり、地域防衛隊の歩兵相当として動いている。彼ら、あるいは秘密潜入した「NATO傭兵」がNATOの最新兵器を持ち込んでいるなら砲弾破片や鹵獲品から分かるはずだが、公開供与品以上の装備は持っていないのが現状の観察結果である。

彼らがロシア軍を追いやる原動力であるのだというのなら、ロシアの強力な機甲部隊がただの歩兵に敗北しているということになり、ロシア軍どれだけ弱いんだと言わざるを得ない。

衛星など偵察情報

西側は開戦当初から偵察・情報収集面で側面支援を行っている。例えば米軍のAWACSや無人偵察機がウクライナ領空外を飛行し、あくまで「NATO加盟国の護衛」という体で偵察活動を行っているが、その情報が緊密にウクライナ軍に提供されているのは周知の事実である。

また、特別に軍用の偵察機や偵察衛星を使わずとも、現代の先進的な人工衛星は豊富な情報をもたらしており、こういった公開情報からロシア軍の動向を探るオープンソース・インテリジェンスも盛んにおこなわれている。例えばLandsat(やSentinel、だいち)といった公共の地形観測衛星の画像から仮設橋を発見可能であるし、商用衛星画像サービスのマクサーと個人契約した研究者さえいる。

こういったOSINTは、ロシア軍の動向を掴むのみならず、ロシア軍の虐殺の証拠をつかむといった用途でも用いられている。

ただし、偵察機にしても人工衛星にしても、戦場から遠く離れた所だったり、情報のリアルタイム性が低かったりと、何らかの制限が加わっていることが多く、これだけで勝てるわけではない。現場の情報は現場の近くで得るしかないため、ウクライナ軍はドローンを活用しているし、それを「ゲームチェンジャー」と呼ぶ人がいる程度には欠かせない、米軍では提供できない重要情報を自力で得ている。

なお、イーロン・マスクのStarlink衛星電話がウクライナの市民・軍にとってロシアの妨害を受けにくく運びやすい通信経路として重宝され軍事的な貢献さえあることは重要な事実として指摘しておきたいが、これはNATOとしての提供ではなくイーロン・マスク個人の私的な援助なのでノーカンとする。

訓練や机上演習など教育面

ロシア寄り陰謀論者の間では「ウクライナ軍はNATOの軍事顧問が指導している」とされているが、もともと2014年のドンバス戦争開始以降のウクライナ軍の軍制改革がNATOのアドバイスを受けていることは公知のことであり、西欧諸国はウクライナ軍で新規徴集された兵士の基礎訓練、市街戦の訓練、新装備の慣熟訓練なども担っていることは報道レベルで知られる

また、目覚ましい成果をあげたハルキウ東部反攻では、米英が行った机上演習によるシミュレーションが勝てる作戦を探し出すうえで重要だったことも報じられている。作戦にアドバイスしている点で「NATOの軍事顧問が指導している」のは間違いない(ただし記事にもある通り立案も決定も主体はウクライナ軍だが)。

これらの作戦立案や、あるいは訓練で鍛えられる現場の一兵卒や下士官の判断というのは、人間が頭を使う部分である。NATO軍事顧問のたかがアドバイスだけでウクライナ軍が調子に乗っているとすれば、それはロシア軍が知識や頭脳の部分においてNATOに対して決定的に劣っているということを示している。

実際ロシア軍が劣っているか、総論については、例えば小泉悠「軍改革に見る安全保障政策の変化と連続性」や「現代ロシアの軍事戦略」などで軍制改革とその巻き戻しが論じられている。

いずれにしても、実際に戦争が起こった後の事象の説明として、ロシア軍が組織マネジメントや一人一人の訓練で劣っているという主張は多くある。圧倒的空軍力を持つにも関わらず一向に制空権が取れない理由として敵防空網破壊に必要な大規模作戦を行う調整力がなく味方の防空ミサイルに落とされる可能性すらあるとか陸空軍の「統合運用を行う司令官を欠いていた」と言ったことが指摘される。細部でも中間の士官が貧弱で将軍クラスが最前線に出てきていることは英国国防省なども指摘しているし、ハルキウ東部などでの敗北は中央集権的でトップに判断が集中するため重要な情報を見落としたり判断が遅れがちになるというような指摘も多い。

総じていえば、判断の速さが求められる現代において、NATO側は末端への権限委譲を積極的に行ったのに対し、ロシア軍ではそのような改革が貫徹せず上意下達カルチャーが残り続けているという認識が多く、極端な所では、プーチンが現場レベルのマイクロマネジメントをしている、という報道すらあった。

他にも、軍制改革の結果としてロシア軍は正規の歩兵が少なくなり、DPR/LPR兵やワグネル傭兵など訓練不十分の兵を含む部隊でこれを補っている問題(よって市街地が苦手で対都市無差別砲撃が多くなる問題も派生する)や、またそういった混成軍を編成するうえでの指揮権統一(タスクフォースの形成)が不十分であるという問題もよく指摘される。

ハリコフ東部攻勢では鮮やかな電撃戦を決めたが、2日で50kmも進みつつ強固な拠点を素通りして後続に任せ目標地点までの進撃を続ける(実際突破口のバラクリヤの陥落と先鋒のクピャンスク到達がほとんど同時)には、かなりの現場判断が必要になったであろうことは想像に難くない。作戦司令官のスィルスキー大将は2014年以降のウクライナ軍の軍制改革でNATOとの折衝担当であった経歴もあり、このNATOの軍事顧問の指導のおかげで、旧ソ連兵器を駆るウクライナ人がNATO式軍制で勝ったという意味で、ロシア軍はNATO軍に敗れたと言っても良い。

ロシア軍はNATOの価値観に敗北した

西側の軍隊は、総司令官から一兵卒まで、同じ価値観を――NATOであれば自由と人道を、ウクライナ軍であればウクライナの独立と自由を奉じているということを、ある程度信頼することができる。だからNATO軍やウクライナ軍は部下に権限を委譲し、判断の速さが必要となる戦場において現場の情報をそのまま行動に移すことを許せる。

もちろん個々人により意見の相違はあろうが、それでも民間人を虐殺してはならないという倫理観はNATO軍の一兵卒から上級将校まで一律に抱いている、ということくらいは言っても良いだろう。「全員が奉ずる正義」の形成法において、おそらく西側社会でも最も悪い例であろうイラク戦争のようなケースであっても、国連で根回しして決議を取ってその決議に基づく派兵くらいの体裁を整えることはしていた。

一方でなぜロシア軍で上意下達文化がなくならないかと言えば、総合的に見れば小泉氏の本でも説明されるように様々な要因があろうが(例えば軍官僚が自らの利権を保持する目的でスリム化に抵抗したなどという理由は軍事的理由ではない)、独裁的であるプーチン政権ではマイクロマネジメントが行われるほどに強権的に目下のものに意見を押し付ける文化が強く、そして心の底では部下の反乱を恐れている――というくらいは言っていいだろう。その結果として、部下に軍事的な権限を与えることができない。

さらに、国民のだれも心の底では"戦争の大義"を欠くと思っているから契約兵は集まらないし、傭兵会社の囚人部隊に頼るような体たらくになっている。大祖国戦争のように女性すら志願した戦争と全く様相が異なるし、ゆえに動員令が政治的に封印されている。それを分離派勢力独自の民兵隊や、あまつさえ傭兵会社に組織させた囚人部隊で補うような混成軍になっており(しかもこれらの訓練はせいぜい10日程度という説もある)、さらに指揮権の混乱に拍車をかけている。これでNATOの支援で訓練された兵士と戦えば、同じ武器を持たせても作戦能力が違ってくるのは必然だろう。


はっきり言おう。ロシア軍はNATO軍に負けたのだ。ただし、NATOの武器ではなく、兵士でもなく、その価値観に、価値観がもたらす組織構造の違いに負けたのだ。NATOに揺さぶりをかけられると信じて始めた戦争で、実際に起きていることはNATOの結束強化と、対抗組織のCSTOにおけるロシア不信だ。もう認めるべき時だ。ハルキウ州東部において、ロシアはNATOの価値観に負けたのだと。



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今回のロシアのウクライナ侵攻では、ロシアのプロパガンダに「茶化し」で対抗するネット言論として柴犬(doge)ミームを使った「NAFO (North Atlantic Fellas Organization)」が活躍しており、ウクライナ国防省からも名指しで感謝されている

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