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不穏を探す建築旅/三本立て

旅に出るのも憚られたので、車と自分の足で行ける、不穏で美しい建築を探す夏を過ごしました。

「不穏」というのはわたしが尊敬してやまない旅人、砂漠さんの代名詞であり、あまりの恐れ多さに一度は使用を躊躇ったのですが…混沌?退廃美?やはりしっくりくる言葉がなく拝借させて頂くことにしました。

三本立てでどうぞ。

坂出人工土地

もともと私が建物に、それも人の住む建物、家やマンション、アパートに興味を持ったのはウズベキスタンを旅したのがきっかけでした。

目を見張るような質実剛健、しかし遊び心も見えるようなソ連建築がひしめき合う中にさらに人々の暮らしがひしめき合っている。「人が」「生きる」というシンプルな目的のために生まれた、建物そのものが持つ生命力とでも言えばいいのでしょうか。暮らしのための建物がひどく魅力的に映るようになりました。

それからというもの、ガウディ建築巡りをしたり、旅先で人のアパートに上がり込んだり(するな)を経て、この坂出人工土地という何やら奇妙な言葉の響きを持つ建物と出会ったのです。

詳しいことはWikipediaを見ていただきたいのですが、簡潔にまとめる努力をするならばこの土地は、商店街や駐車場、ホール、さらにその上にはアパートまでが乗っかった複合土地とでも言えばいいのでしょうか。当時は市街地開発の新しいモデル的存在であったのでしょうが現在は老朽化が進んでいます。

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隣にはイオンもありましたがせっかくなのでこの人工土地の中にある駐車場に停めます。他の車がいたので撮影は避けましたが仮面ライダーが戦う場所のよう。

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駐車場からほどなくの場所には居酒屋やスナックが軒を連ねています。夜は常連さんたちで賑わっているのでしょうか。香川といえば骨付き鳥ですよね。

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電球はついてたり消えてたり…

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程なくして開けた場所に出てきました。左も右も正面も、全てアパートです。

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階段も登ってみました、あら、これは…なんて美しいんでしょう。

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さらに上へ…この扉たちがとても気になりますが…

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建物は生き物だと思っていますが、その建物に本物の生き物(植物)が共生しているのはかなり美しい。

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このアパート群の中には自治会もあるのでしょうか。まさに箱庭都市。掲示してあるのは虚空でしたが…

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団地と団地の間の通路がたまらなくわたしの中の何かを刺激します。こういう場所は歩かずにはいられない。

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屋上ではない中二階にあるこの空間も心惹かれます。本当に室外機を置いているだけの空間?

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玄関の外に置いてあったソファ、秋晴れの日にはここで本を読みたい。裂かれた傷にはどんな物語が…?

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アパート群の中では程よくのびのびと育つ植物たちに出会えます。住民の方が管理されているのでしょうか、小さなビオトープのような空間です。

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手前の曲線を描く構造も二度見、三度見ですが、ここをぬけるとさらに奥には…

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棚田のような棟が。なぜかソ連を感じます。ソ連行ったことないけど。ソ連時代に生きてないけど。

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その過程があまりにも美しい、こんなに心惹かれる階段は久しぶりです。

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途中、堂々のドラえもん。「ドラえもんとのび太の夢のディストピア」とか映画化しそうな勢い。

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階段を登る時は途中で下や外を見るのが好きすぎて時々高い場所が苦手な友人たちに嫌がられるけど、この日は1人だったので思う存分。

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この通路を見た途端、人の暮らしがぎゅっと濃縮された何かを感じました。

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途中見つけた美しすぎる窓に目と心を奪われる。でもわたしみたいな観光客からのプライバシー対策の窓だったならごめんなさい。

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剥き出しの配線や配管って、わたし嫌いじゃないんですけどみなさんどうですか?(ショートにはくれぐれもお気をつけください😭)

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暑い中へーへー言いながら登ったてっぺんはこちら。なんというか意外に登ったぞ!感はない景色で(観光地じゃなくて住居なのだから当たり前っちゃ当たり前)それが嬉しい。

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帰りは反対側から降りました、こちらもとても良い。奥にはイオンが見えるのも"生活"が近くにあるような感じがして良い。なにせここにいると世界から隔絶された特別な場所に来てるような感覚を覚えてしまうから。

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先ほどの階段の隣にはやんちゃに育った緑たちが。

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繰り出される高低差がたまらない。

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剥き出しの鉄骨。愛のむき出し。

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いいお顔頂きました、ディストピわん。

さて、一通り回ったところで探訪は終了。同じ敷地内にある(1階部分にある)商店街は人がいたので撮影はしませんでしたが。

さて、文中何度かディストピアという言葉を使いましたが何度か考え直したのですが、やっぱりディストピアではない。ふさわしい言葉じゃない。

訪れるまでは、ユートピアを目指した建築の成れの果て、という印象を持っていましたが探訪を経て大きく認識が変わりました。脈々と息をする建物です。

この建物がこれ以上発展することはないでしょう。新しい施設が入ったり、豪奢なアパートに建て替えられることはない。だけどこの建物はこれからも住民たちと生き続けるのでしょう。住民たちがいる限り、この建物も生き続けます。

人々が暮らす熱気、エネルギー、そういったものが静かにひしめく、あまりにも美しい空間でした。

不審な来訪者にも穏やかに挨拶をしてくださった住民の方々には感謝ばかりです。

沢田マンション

あまりにも有名な、日本のサグラダ・ファミリア。夫婦が手作りで作り上げた夢のマンション。

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マンションの縦のラインと上階への坂道の曲線が、意図してか意図せずか美しすぎてもうそれだけで感無量。

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近づいてみる。一階はお店もやっているみたいです。そして地下空間が気になりすぎる。

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地下はこちらにも。多目的ホールの時代もたまらないし階段を下ってホールにたどり着くなんてちょっとわくわくする。

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コロナでアパート内への立ち入りは禁止になっていたので外観だけ見させて頂きました。良心市、商品が並んでるところをぜひ見てみたい。

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こちらにも購入できる植物が。全員ちょこんと揃ってる姿が可愛いな。

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入り口にはご夫婦が実際に使っていた発電機も。

中には入れないけれどせっかくここまで来たので裏へ回ってみる。

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表の顔と違って裏も驚くほど美しい。ちなみにここで蚊に10箇所くらい刺されました。美しさには痛みも伴うのか…

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空室は結構あるみたい。娘さん、お孫さんが運用しているInstagramを覗いたけれどお部屋も定期的にリノベーションしてるみたいで綺麗でした。

朝焼けの仕事は住む場所はどこでもいい感じの適当なお仕事なので、このままコロナが収まらなくて旅も思うようにできないなら住処を変えてみるのも素敵かもしれないなんて思ったりして。

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名残惜しく沢田マンションを後にします。いつか必ず中を見学できる日がきますように。

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車の往来もありワンショットしか撮れませんでしたが見れました!沢田マンション名物、屋上のクレーン!まさに日本のサグラダ・ファミリア…

外観だけでも想像していた通りに、いえ、想像していた以上に美しかった沢田マンション。夢の続きに住むって、ここに暮らすってどんなだろう。そんな空想をしながら帰路につきました。

グリーンファーム跡地

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リゾート地牛窓のそばに突如現れた忘れられた空間。Googleマップを意味もなく眺めていたら見つけた場所です。

お辛い気持ちになる方がいないようにはじめに断っておくと、災害等で水没した場所ではなく、干拓地の排水ポンプを止められた結果生まれた場所のようです。元は保養地だった模様。

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退廃していくペンションとすくすくと育つあたり一面の緑が真逆すぎて不穏。

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車もそのままになっているのでしょうか。外灯も半分とちょっとしか水面から出ていません。

あまり写真は撮っていませんが、心がざわざわする…でも惹かれる…なんとも言えない気持ちです。

息をしている、生きてる建物を巡って、その後に出会った忘れられた建物。建物としての機能を奪われた建物はやはりどこか寂しそうで、わたしまで切なさに襲われたりもして。

人の生活に寄り添う建物は美しく、生きている。それを再確認した建築旅でした。おわり。

おまけ

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一本目と二本目で食べたおいしいものたち。無限胃袋を発揮。

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パフェ食べた資生堂パーラーのカフェで300円でチーズケーキが買えて大ハッスル。

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神馬はおやすみ中だったのでこちらを写真におさめてきたよ。

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ひくよね〜おみくじ!

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三本目道中の美味しいものたち

最後まで読んでくださってありがとうございました。すごい!美しい!しか語彙がないのでこういう探訪記は向かないのですが、このときめきを誰かと共有したくて。ありがとうございました。

あなたにも素敵な不穏と秋の訪れがありますように。


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