クリスマスの話
クリスマスには、いくつか思い出がある。どれもあまりいい思い出ではないが、笑い話でもある。
わたしは保育園に通っていた。
年中さんのとき。5歳のクリスマス。
わたしの家は、欲しいものをサンタさんにお願いしておく方式だった。手紙か、親に欲しいものを言っておいて、サンタさんに伝えてもらう。
たぶん、おもちゃ屋さんのチラシとかで見たのだろう。わたしは、ポケモンステンシルが欲しかった。
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これだ。今見ると、本当にめちゃくちゃかわいい。今も同じものが欲しい。
当時、ステンシルが流行っていた。ステンシルとか、自分で文字やイラストを組み合わせて押す、ハンコも流行っていたと思う。
わたしは、ポケモンステンシルが欲しいとサンタさんにお願いした。
24日の夜は、明日ポケモンステンシルが届いている!とドキドキして、とても楽しみに思いながら二段ベッドの二段目に、一個上のお兄ちゃんと入った。わたしたちは二人で上の段のベッドに寝て、下の段のベッドで、母と、わたしの四個下の弟が寝ていた。
朝、起きると、わたしの枕元には、6面がしっかりとした直方体の箱が、クリスマス柄の包装紙にくるまれて置いてあった。
サンタさん来た!とうれしく思った次の瞬間、はて、これはポケモンステンシルか?と戸惑った。ステンシルセットは、あの画像のように、学生鞄のような、薄い鞄型になっているはずだ。ステンシルセットに、こんなにしっかりとした厚みがあるだろうか?それに、大きさも少し小さい。
「サンタさん、間違えたかもしれない。」
わたしの頭には最悪の状況が浮かぶ。隣ではお兄ちゃんが、欲しがっていたものを届けてもらってうれしそうにしている。
いや、でももしかして、わたしが想像してのとは違うだけで、これがポケモンステンシルなのかもしれない。こういうものなのかもしれない。わたしは、包紙を破いた。
出てきたのは、ウサギのぬいぐるみだった。
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これのウサギバージョン。陽気に音楽を奏でそうなうさちゃん。
わたしは泣いた。
「サンタさん、間違えちゃった!」「わたしがいい子にしてなかったから、こんなウサギしかくれなかったのかもしれない!」「クリスマスプレゼントという、なんでももらえる時に、まだこんなウサギが欲しいと思われてる!」「こんなウサギいらない!」
わたしは大泣きした。一個上のお兄ちゃんは、お願いしたものがちゃんと届けられているのに、わたしには届かなかった。
慌てて下のベッドから、お母さんが「なるちゃんの、間違えてしょうちゃんのとこに来とるよ!」と、声をかけた。
わたしのポケモンステンシルは、まだ1歳の弟の枕元にあった。わたしは安堵した。間違えのレベルが、わたしと弟の間でよかった。わたしは「な〜んだ」と、ポケモンステンシルを受け取り、ウサギを弟に渡した。弟のためのウサギだと思うと、このウサギもかわいいものである。しかもただのウサギのぬいぐるみではなく、動いて音楽を奏でる。よかったね、弟。
わたしはリビングへ行き、包紙からポケモンステンシルを取り出す。思い描いていた、ピカピカのわたしのおもちゃ。
「やったー!よかった!」と思うと同時に、しかし、サンタさんは、絶対である。
わたしの枕元に置かれたウサギは、やはり、わたしにはウサギがお似合いだと、サンタが思ったからなのではないだろうか。ピンクのウサギのぬいぐるみでわたしは喜ぶ人間なのだと、それがお似合いなのだと思われているのだ。そして、弟は、まだ小さいながらも、ポケモンステンシルで遊ぶべきわたしより上の人間なのだと、サンタは思っているのかもしれない。
サンタさんは、なんでもお見通しなのである。サンタさんは、その子どもにふさわしいと思ったものを子どもに贈るのである。
わたしの胸は少しもやつきながら、ポケモンステンシルで遊ぶのだった。
同じノートパソコン、8年使ってます!