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グローバル・ヒストリーの概要を学びたいときに読んだ本【徒然読書68】

グローバル・ヒストリー。聞いたことがありますでしょうか?

単語だけ聞いたことがあるけど、具体的に通常の歴史学にどういう課題を投げかけているのか、どういう立ち位置にあるのかまでは知りませんでした。

入門書もなかなかないどころか、どの本が”グローバル・ヒストリー”なのかが分からない。

もやもやしていた時に、ピッタリの本を見つけました。

それが、水島司『グローバル・ヒストリー入門』!


この本の紹介に入る前に、『世界史リブレット』について説明させてください。

『世界史リブレット』というのは、山川出版社から出ているシリーズ名です。
山川出版社は、歴史の教科書で知られているのではないでしょうか?
『詳説 日本史』『詳説 世界史』の出版社です。

私は『世界史リブレット』『日本史リブレット』を入門書として読むことがあります。
(といっても、あまり書店で見かけないので、あったら読む程度ですが…)

入門書として最適な理由が3つ!

①とにかく薄い!!100ページ程度でサクッと読める
②その分野の専門家が研究史や今後の展開をまとめている
③研究史で重要な書籍をあげられているため、次読む本を選びやすい

①の理由が大きいです。
入門と言っても単行本レベルだと、読むのに時間がかかります。

また、そのテーマの権威が研究史を交えて要点をぎゅっとまとめているので、100ページでも読み応えがあります。

③は、読み終わった後に次どの本を読もうかと参考文献を見ても、その本が研究史上どういう役割を果たしてきたのかが分かりにくいことがあります。

今回の『グローバル・ヒストリー入門』は時系列や分野に沿ってどういう研究者がどんな本を書いて、後世の研究にどうインパクトを与えたのかという立ち位置が分かりやすかったです。

なので、次にここ深めたいなという本を見つけやすいという意味で③を入れています。

もし、概要を知りたいテーマが『世界史リブレット』『日本史リブレット』にあれば、入り口として読んでみるのも一つの手ですね。

『世界史リブレット』は今第Ⅲ期で、第Ⅰ期から集計すると計128冊。
世界史だけでも、これだけあるので一覧を見るとワクワク…


さて、本題に入りましょう。

そもそも”グローバル・ヒストリー”とは何か?

著者は、5つの特徴をあげています。

①あつかう時間の長さが壮大であること(巨視的)
②対象となるテーマの幅広さ、空間の広さ(陸域、海域など)
③ヨーロッパ世界や近代以降の歴史の相対化
④異なる諸地域間の相互連関、相互の影響が重視されること
⑤対象、テーマが歴史学に新たな視角をもたらすものであること

”国民国家”によって、人民が国民としてとらえられ、もともと存在していた横の関係が分断され、縦として見られるようになった。

それが一国史の歴史教育や、ヨーロッパから見た固定的なアジアの概念に表れています。

そうではなくて、もっと広範囲でもっと幅広いつながりに着目するのが”グローバル・ヒストリー”なのかなと思いました。

特定の時代や特定の集団ではなくて、広範囲の時代を見る。
日本史なら奈良時代だけじゃなくて、平安時代、鎌倉時代はどうなっていったのか、など。

朝廷だけではなくて、地方ならどうだったのか。
都と都周辺、それよりも外はどうだったのか。

色んな視点があります。

著者によると、グローバル・ヒストリーの展開に大きな刺激を与えたのが、疫病に関連する研究とのこと。

疫病は今まで重要視されていなかったテーマですから、⑤の特徴ですね。

よくあげられるのが、スペインによるインカ帝国の侵略。
どうして短期間でできたかというと、その要因の一つが疫病をインカ帝国に持ち込んで、人口が激減したから。

そういう、「移民・交易などにおける人やモノの動きとその歴史的な変化も重要な研究領域」に位置付けられています。


グローバル・ヒストリーが向き合うべき課題

そんなグローバル・ヒストリーは、国民国家が抱えきれない問題に向き合い、「新たなありうべき人と人との関係の在り方をなにを基盤にしてどう築くか」という課題にこたえようとします。

長いですが、引用します。

現在の歴史学は、とりあえずは、国民国家システムのなかで存在しているという事実から出発しなければならないであろう。グローバリゼーションの進行にもかかわらず、あるいはその信仰と比例して、国民国家システムの側からの激しい揺り戻しの動きが続いているからである。それを前提としたうえで、グローバル・ヒストリーは、現在に至る人びとのさまざまな共同性のあり方、人びとが生きてきた空間の在り方を、個のレベルからと地球全体のレベルからの二つの視点が交差する中で描き出すとともに、近代という時間的限定性のなかで地球をおおうことになった国民国家の相対的位置づけをそこにおいておこなうという課題を担うことになる。
『グローバル・ヒストリー入門』p84-85

歴史を”個”として見るのではなく、特定の立場からみた歴史を扱うのではなく。

今風に言うとサプライチェーンのどこにあたるのかを考える。

サプライチェーンの他の構成要素の変化がどうかかわっているのかを見る。

これって、データサイエンスにも応用できそうな考え方だと思います。

ひとつのデータがどうやって導き出されたのか、その母集団は正しいのか、どんな性質の変数があるのか…

少々脱線しましたが、最近よく聞くメタ認知とも共通するところがありそう。


最後に、本書で取り上げられているなかで、さらに読んでみたいと思った本がこちら。

・K・ポメランツ『大分岐-中国、ヨーロッパ、そして近代世界経済の形成-』

・アンドレ・グンダー・フランク『リオリエント-アジア時代のグローバルエコノミー-』

・松井透『世界市場の形成』

・家島彦一『海が創る文明-インド洋海域の世界史-』

6000円を超える高価な本もありましたので、古本屋で出会えたらいいなと思います。

興味のあるテーマの歴史を調べる時に、全体の中のどこにあたるのか、他に視点は無いのかというように巨視的に考えられるように意識していきたい。

そういう風に考えさせられた本でした。