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虹色の絵図

「虹色だ。ああ、美しい!」誰かが言った。


どす黒いガソリンのような化学物質が辺りに塗りたくられている
樹木に、草花に、岩肌に、地面に、小屋に、

それらが光を反射して虹色に擬態している
神の創作物の絶唱が響き渡っている


どこかの工場から この地に排出されたのだろうか
その工場は 何を呑み込んで 何を吐き出しているのだろうか

何を犠牲にして 誰のためのものを出荷しているのだろうか


「虹色だ。ああ、美しい!」誰かが言った。


こんなところでくらい 本音を語らせてくれ
もう二度と会うこともないだろうしな

あるじ無き あの豚小屋の中で あらゆるものは腐敗し異臭を放っている
もともとの形が もはや想像できない
新しく生まれた命に 罪はなかったはずなのに

もう誰もが匂いを嗅ぐことをやめてしまったようだ
それでも自分だけはやめられない なぜだろう 孤独になる


異形の植物が朽ちていた 花は枯れ落ちていた
もう二度と咲くことはないのだろう、きっと


「虹色だ。ああ、美しい!」誰かが言った。


洋館の中で 疲れて地に伏した者が笑われている
自らの身を切らない、何も知らない者ほど大きな声で傲慢に笑う

さらに踏みつけられて、その上で権力者たちが腐敗した自らの人格を撒き散らす

十重二十重に隠蔽された迷宮の中
最奥にあるのは単純な悪意と恐怖心 子供じみた動機

悪臭までは消せなかったようだ 漂い過ぎてるんだよ


「虹色だ。ああ、美しい!」誰かが言った。


どうやらそこで行われていたのは 椅子の数が全然足りない椅子取りゲーム

わずかな椅子も高級に偽装された最下級 人間が座れるようなものではない
あっという間に底が抜けて地獄行きだ


なんとか"勝者"として椅子に座った者が 座れなかったものを見下して安心しようとする
自分の椅子の正体から目を背けるために ゲームの本質から目を背けるために


その様子を主催者たちは さらに上から見下ろしてワイン片手に談笑している
何もわかっていないようだ 自分たちが正しいと思っているようだ

なぜゲームの参加者たちは その様子をなかなか見ようとしないのだろう

そうか、もう見上げる気力が残されていないのか
事情を知らずに言ったのは悪かったよ

僕たちはハメられてんだ
全部仕組まれてたんだ それだけ伝えたかったんだ

僕たちの居場所はここにはない
奪われている 踏みにじられている


「虹色だ。ああ、美しい!」遠くで誰かが叫んだ。


(終)

#詩 #音楽 #小説 #言葉

頂いたサポートは無駄遣いします。 修学旅行先で買って、以後ほこりをかぶっている木刀くらいのものに使いたい。でもその木刀を3年くらい経ってから夜の公園で素振りしてみたい。そしたらまた詩が生まれそうだ。 ツイッター → https://twitter.com/sdw_konoha