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久々の初見ヒット。『ダーウィン・ヤング』はいいぞ。

久しぶりに、「これは感想を残しておかねば!」という作品を観劇しました。

ミュージカル『ダーウィン・ヤング 悪の起源』

シアタークリエにて。

ダーウィン・ヤング役のみダブルキャスト。

以前“アタタミュ”こと『北斗の拳』のミュージカルでバット役としても拝見していた、渡邉蒼さんのダーウィンで観劇。

当時の感想こちら↓


観劇の決め手は、安心安定のキャストが多いことと、作品のもたらす雰囲気だったんです。
あと、私はずっとドラマ『科捜研の女』が大好きで、いつか石井一彰さんをミュージカルで拝見したいなと思ってはいたのですがタイミングが合わず。
今回、やっと実現しました!


ただ、観てから思いました。
これ、純粋にめっちゃわたしの好きなやつや……!!!
と。


パク・チリさんの原作から生まれ、韓国で大ヒットとなったミュージカル。
初演は2018年ということで、5年で日本に上陸したわけですね。

後から知ったんですけど、音楽を手掛けてらっしゃるのが、パク・チョンフィさん。
私にとって大切な作品である『スリル・ミー』の韓国版訳詞も手掛けられた方です。


思いっきりネタバレ有の感想を残しますので、これから観劇される方はご注意ください。


ダーウィン・ヤングだけが主役というわけではない

タイトルロールの「ダーウィン・ヤング」(渡邉蒼)はもちろん主役なんだけども、これはその父親ニース・ヤング(矢崎広)も充分主役。
なんなら、そのまた父であるラナー・ヤング(石川禅)も。
しかもこれ、三世代による、時を超えた群像劇なんです。

ヤング家の視点がメインだけれども、ニースの親友であるバズ(植原卓也)のマーシャル家にも、同じく親友であるジェイ(石井一彰)のハンター家にもちゃんと物語があって、それぞれの感情が読み取れる。
そういう意味では、それぞれの目線で見るとまた違った解釈ができそうだなと思いました。


3つの家庭、16歳のみんなたち

16歳の頃のニース、ジェイ、バズの3人。
それぞれが、階級制度から生じる親子関係で問題を抱えている。
そのせいで人を殺してしまったニース。
殺されてしまったジェイ。
見かけとしては現在上手くいっているように見えるバズ。

誰が幸せなんだろう。
たぶん、バズって、見かけほど幸せじゃないと思うんですよね。
すごく明るくふるまっているけれど。
ダーウィンの親友となるバズの息子、レオ・マーシャル(内海啓貴)にもそこは共通していたので、「親子だなぁ」と思わせてくれました。


ハンター家については、ジェイの弟であるジョーイ・ハンター(染谷洸太)以上に、その娘のルミ・ハンター(鈴木梨央)に、ジェイの正義感の要素を感じました。

ジョーイは、ジェイを殺したのがニースだったと知っている、というキャラクター作りを染谷さんがされていました。
プログラムの座談会に、そのお話が載っていたし、観劇後に友達とそのような話をしたので、解釈は一致していたようです。

ルミは、グイグイと叔父であるジェイの真相を知りたがる。
そこにジェイの面影がある。
ID盗用してまで探ろうとしちゃうところとかもあるし。

ちなみに、染谷さんは一度だけ9歳の頃のジョーイとしても出てきます。
「こう見えて9歳です!」←かわいい

それを言っちゃうと、禅さんのラナーは3世代を演じているので、「16歳です!」でコメディ要員にもなっていました。
でもこれ、禅さんがベテランだからできることですよね。
革命家として16歳の禅さんラナーはレミゼ感も満載でしたが。
この作品、ひたすらダークなんじゃなくて、コメディ要素も意外と多めだった印象です。


そんな禅さんラナーから「悪の起源」が始まった、ヤング家。
「悪の起源」というサブタイトルが本当に秀逸。
こうして次の代へと続いていってしまうのか。


1幕ラストからが怒涛

あんなにも2幕が気になる1幕ラストって!
やはり1幕ラストはあんなふうにババーン!と提示して終わるべきですよね。
2幕はそのままどんどん深いところへ入り込んでいく。

正直、バニラケーキのダンスを観ていたときは
「この作品わたし好きになれるだろうか……」
と心配になったのだけど、その心配は1幕ラストで消え去りました。

張り巡らされる伏線

ニースがネクタイの結び方を息子ダーウィンに教える「ウィンザーノット」。
これが2幕の伏線にもなっていたとは。
ラナーがネクタイを締めない、というのもそうですね。

父親(ラナー、ニース)のためを思って親友(ジェイ、レオ)の首を絞める親子の対比……。
2幕のクライマックスは息を吞むシーンの連続でした。

ヤング家の3キャスト

ぴろし(矢崎広)の陰と陽が一度に味わえるのもこの作品の良さです。
前述の通り、彼も主役だと言っても過言ではない。
現在の苦悩と、過去の朗らかさのギャップが素晴らしかったです。
個人的にぴろしは苦悩する役が上手いと思っていて、その上で目をきらきらさせるような役もできるので、はまり役だなぁと思いました。

渡邉蒼ダーウィン、奥から滲み出る父親の面影に説得力がありました。
キャストが発表されたとき、是非観たいなと思っていたくらい元々期待はしていたのですが、アタタミュの頃以上の魅力に溢れていました。
歌声は確実だし、より深い表現をされていて、これからも観ていきたいな。

禅さんはもう出てくるだけで圧倒の歌唱力と存在感ですよね。
ソロが力強いのはもちろんなんだけど、終盤のヤング家三重唱になるとちゃんとバランスも良くなっている。
これは3人それぞれが上手いというのもあるけれど、禅さんの歌声で息子と孫を包み込んでいるようでもありました。


演出のあれこれ

枠(フレーム)の使い方が面白い演出でした。
黒子が白い枠を動かす。
バズの写真のフレームとして。
ニースとダーウィンがネクタイを結ぶ鏡として。
ルミたちが使うパソコンとして。
そういえば、枠じゃないけれど、物語のキーとなるカセットも四角だなぁとか思うなど。

気になったのが、照明。
客席が眩しさを感じるほどの照明は、何の演出意図があったのだろうか。
無理やり考えると、作品の暗さを出すために客席を照らした……?
これはちょっとわかりませんでした。

ただ、アンサンブルの動きの統一性とかは観ていて美しかったし、見せ方は好きだなぁと思いました。
スクールのみんなも良かった!


音楽について

耳に残る音楽だと作品の印象も残ると思うんですが、これ、あまり耳に残らなかったんです。
と言うと語弊があるかもしれませんが、物語にはちゃんと馴染んでいたし、作品の印象としては残っているんです。
それって、裏を返せば「自然だったから」じゃないかなーって。

ただ、折井理子さん演じる教授のソロは、力強くて最強〜!ってなったし、2幕のクライマックスでもある「青い目の目撃者」も圧巻だし、ラストの「誰も覚えていない」は良い締め方だなぁと思ったので、要所要所の印象は強いです。


問いかけるラスト

MA(マリー・アントワネット)オタクとして言いたいのが、ニースとダーウィンそれぞれの世代で親友を殺めてしまった後の役者たちの配置が、MAの「どうすれば世界は」を彷彿とさせたのでとても良かったです。
レミゼでいうと「ワンデイモア」に近いかな。
それぞれがそれぞれの立場で歌う大ナンバーが強いのが良い。


ジェイの姪っ子ルミは、あの後どうする(どうなる)んだろうか。
「お願いだから解明しないで、あなたも……」
という思いもあれば、
「ルミなら連鎖を断ち切れるかもしれない」
という希望も見える。

ニースとバズとジェイのうち、ジェイだけが16歳で亡くなっているのだけど、あのまま大人になったとしても、間違った正義を掲げて誰かから裁きを受けそう。
16歳のあの幸せそうだった頃のままでいてくれたらと思うけど、あの頃だって、階級制度のせいでみんなそれぞれ黒いものを抱えていた。
それを受けて、現在、そしてこれからは?
という、問いかけのようなものも感じました。


余談とはいえどうでもよくはない話

個人的要望としては、石井さんもっと歌ってほしい(わがまま)。
石井さん、禅さんラナーが16歳時代のときの大隊長も演じてらっしゃるのですが、そのときの声色が太くて好きでしたね。
元の声がいい。

あと、基本的に「現在」の軸として描かれている場面(特に1幕)では、石井ジェイは亡霊としてニースに近づくのですが、その辺りにスリルミー要素も感じました。
スリルミーは亡霊というと違うけど、空気感がスリルミーだった。


カテコにて

私が観劇した日は、たまたま台本・作詞のイ・ヒジュンさんが観劇されていました!
客席にいらっしゃったので、カテコでご挨拶と共にご紹介されていました。

そのご挨拶、蒼くんの初々しさが本当にかわいかったんですけども、
「今日も楽しい公演でした!」
って言ったもんだから周りが
「?!たのしい??!!」
とざわついていたのが楽しかったです。笑

それを受けて禅さんが口パクで「うちの子がすみませんね〜」みたいな感じで客席にお辞儀していたのが微笑ましくて、愛のあるカンパニーだなぁというのが伝わりましたね。
しかもその後ちゃんと
「あ、座組は楽しいです!!」
と付け加えるところも禅さんらしく、素敵なカテコでございました。


私はスケジュール諸々の都合で一度しか観劇が叶いませんでしたが、久しぶりに初見でヒットした作品でした。
原作も読んでみたいと思います。

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