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「ビジネスチャンスを失う」と言われ続けても寿命の長い機械をつくる理由

はじめまして、中村留精密工業の専務取締役の中村です。

弊社は工作機械をつくるメーカーです。

工作機械はありとあらゆる部品をつくる機械ということで、有難いことにほぼ全ての製造業種に携わらせて頂いています。

そんな普段は工作機械のことで頭がいっぱいな人が清水の舞台から飛び降りる気持ちで初noteを書いています。

製品について頂いた意見

実はこれまで様々な方からこうしたことを言われてきました。

「もっと早く壊れる機械を作ってくれないか?」
「長持ちしすぎると受注が取れなくて困る。」
「寿命の長い機械のせいで、中村留はビジネスチャンスを失っている!」

これらは外部の企業の方から工場見学をして頂いた際に、お話し頂いたことです。1回のみならず定期的に似たようなご意見を頂きます。

実際に稼働している年数

たしかに弊社製品で寿命の長い機械は多くあります。
寿命とは、工作機械が納入されてからその役目を終えるまでの年数を指します。

1つの工場で動かなくなるまで活躍する機械もあれば、複数の工場や会社を渡り歩く機械もあります。

もちろん使用状況によっても変化しますが、一般的に20年以上動くと「よく稼働したな」という印象があるかと思います。

私が知る限りですが、今でもお客様の工場にて稼働している弊社製品の中で最も長いもので43年間動き続けています。

長期稼働の記念としてショールームに展示してある機械は47歳ですが、今でも動いて加工が出来ます。私は今30歳なので、生まれる前からバリバリと働いているこの機械を「大先輩」と呼んでいます。

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機械の寿命を延ばすために

機械の寿命を延ばすのは簡単ではありません。

加工の切削負荷に耐えうる機械構造。
製造工程での摺り合わせ技術。
ソフトウェア技術による予防保全。
アフターサービスによるメンテナンス。

数多くの要素が混ざり合って、寿命が長い機械は出来ていくわけです。
そこにはいくつもの工夫と試行錯誤の結果が詰まっています。

そこに「もっと早く壊れる機械をつくれ」という声が来るのですから、言葉が出ないとはこのことだと思いました。

少しでも寿命を延ばす活動に全力を注いでいる私としては、まさかそうした意見が来るとは思ってはいなかったのです。

寿命の長い機械をつくる理由

なぜ私達がこうした声がある中で寿命の長い機械を作り続けるかというと、

ビジネスを行う以前に私達は機械屋であり、ものづくりを行っているからだと思います。

私は工作機械やものづくりが好きで、工作機械メーカーで仕事をしています。

昔はNHKで放送されていた「つくってあそぼ」のワクワクさんとゴロリを観ながら、紙パックの牛乳を並べて工作をし続ける子供でした。

この時に「早く壊れろ」と思ってつくるなんてことはありません。作る工程と使って遊ぶ工程両方が楽しく、少しでも長く使えると良い気分でした。

逆に壊れたり、なくしたりするととても悲しく、時には泣きわめいていたことを思い出します。

今でもその気持ちは少なからず残っています。「早く壊れろ」という思いでものをつくることは、このものづくりの原体験からして無理なのです。

私だけでなく中村留には機械が大好きなメンバーが多く、似たような経験や同じ思いを持っている人が多いと感じます。

加工業の出身

私達の出自も関係しているのかもしれません。私達は工作機械をつくる前は旋盤で加工してモノを納める加工業を行っていました。

実際に工作機械を使う側としてものづくりをしていました。その立場からしても寿命が短いよりも長い機械は嬉しいのです。

今でも自社の機械を製品の製造ラインにも使っています。もし私が「寿命の短い機械をつくる」なんて言った時には、製造のメンバーが怒ってくれると思います。

お客様が喜ぶ

またお客様のためになっているという実感もあります。お客様からは「早く壊れてくれ」という言葉をたった一度も聞いたことはありません。

多くのお客様にとって長く使える機械は嬉しいからです。長期稼働している機械が工場にあると嬉しそうに紹介してくださることも多いです。

機械が長く稼働するということはお客様の使い方やメンテナンスも素晴らしいからで、メーカーだけで実現できることではありません。

長期稼働は、お客様との協働作業だと考えています。

実際に私が43年動いている機械を目の前にしたときは「すごい!ありがとう!」としか言葉が見つかりませんでした。買い替えを勧めることは不思議と全く頭になかったのです。

寿命の長い機械とビジネス

そして最後に「寿命の長い機械でビジネスチャンスを本当に逃しているのか??」という根本からの疑問が今でも頭を駆け巡っています。

10年で終わるはずだった機械が20年や30年稼働したら、たしかに目先の更新需要は減るかもしれません。

しかし設備投資に成功し、事業が拡大すれば増産や新製品の加工で受注が入ることもあるのではないでしょうか。

また製品だけではなくサービスが事業になる時代です。

寿命が長い機械が1台でも工場にあるということは、お客様とのパイプが1台の機械を通して繋がっている状態が続くわけです。

既存機の性能を向上させるサービスの提案をすれば、別のビジネスチャンスを頂ける機会もあるのではないでしょうか。

ファンを生む

偶然かもしれませんが、先ほどの43年間にも渡り私達の機械を稼働させてくれているお客様は実は50台以上もの弊社の製品を保有してくださっています。

43年前にお付き合いが始まってから、1年に1台以上機械を納入頂いている計算になります。

さらに新しい機能やサービスが出来たら、真っ先に導入して評価してくれます。

さらにさらにこのお客様は私達が知らないうちに弊社製品を知り合いの企業に紹介してくださっています。

さらにさらにさらに私が会社経営で悩んだ時は相談にも乗ってくれます。

「なんでそんなに良くしてくれるの?」と聞いたら、「あなたの機械のファンだから」と恥ずかしそうにポツリと一言だけ教えてくれました。

そういう方に囲まれているのは、もしかしたら機械の寿命のおかげかもしれません。

彼は訪問すると毎回私たちの機械の寿命についてコメントをくれるので、きっと関係しているのだと思います。

機械と機会

「早く壊れる機械をつくって欲しい」という声を真に受けてかはわかりませんが、近年実際にそうした製品も市場に出てきていると聞いたことがあります。

こうした流れの中で、ポリシーを貫く姿を見て共感してくれる人もいるのかもしれないと感じます。

私達はダジャレですが、「機械が機会を生む」と思っています。

そして寿命が長い機械のおかげでビジネスチャンスが生まれていると信じて、これからも20年30年40年動く機械をつくり続けていきます。

Twitterでものづくりについて楽しく投稿しています。良かったらフォローいただけると嬉しいです。


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