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Vol.50「みんな納得してるから!」

『1ヶ月後の吹奏楽コンクール、 ” O中学校吹奏楽部 ” の指揮者として出場してくれないかな?』
10年以上も前の「知人だったH氏から ” そんな依頼 ” を受けた記憶」が蘇るのは、日本各地で「全日本吹奏楽コンクール(注1)の下部大会(地区予選等々)」が始まるこの時期。

誤解の無いように言っておきますが、私は ” 音楽の専門教育 ” を受けた事がない「素人を煮詰めたような!?、楽器いじりが趣味(注:当時の話です)の一般社会人」で、 ” O中学校吹奏楽部 ” とは全くの無関係(※しかも、私の住まいからO中学校は80km程度離れた位置関係です)。

では、なぜ ” そんな依頼 ” を持ち掛けられたのか、H氏に理由を聞いてみれば…

(1)H氏は ” 外部指導員 ” の立場で、 ” T中学校吹奏楽部 ” と ” O中学校吹奏楽部 ” の指揮者を務めてる。

(2)しかし、吹奏楽コンクールのルール変更により、指揮者は1部門につき1団体しか指揮できなくなった。

(3)そもそも ” O中学校吹奏楽部 ” に出入りする前から ” T中学校吹奏楽部 ” の指揮者を務めていたので、吹奏楽コンクールでは ” T中学校吹奏楽部 ” の指揮を振る。

(4)そうなると、 ” O中学校吹奏楽部 ” が指揮者不在になるので、本番までの音楽作りはしておくから、本番だけでも代わりに指揮を振ってほしい。

(5)そして、生徒達は「 ” 自分たちが会った事が無く ” 、 ” 指揮者の経験がない大人 ” (つまり私)」が指揮を振ることを納得している。

…という事でした。

それに対して私は、

(A)理由(1)(2)(3)は分かる。

(B)しかし、理由(4)は論理に無理がある。

(C)なぜなら、理由(5)「生徒たちは納得している」と、大人が勝手に割り切っている事が大問題で、いきなり ” 今まで信頼してきた大人 ” から、
「私は指揮振れないから、代わりに 君たちにとって見ず知らずの、私よりポテンシャル低い人間を呼んでくる!…他に選択肢ないから納得しろ!」
…と、突き付けられた(もしくは突き放された)中学生達からすれば、初めから『「納得できません」と反抗する余地』が無いではないか。

(D)そんな「 ” 見ず知らずの無能な大人 ” を押し付けられる」という ” 生徒達にとって不本意な形 ” で本番に臨むくらいであれば、「生徒一人を学生指揮者に選び、残った日数全てを賭けて ” 全員で一丸となって本番のステージに臨む形 ” 」の方が、生徒達は納得しやすいだろうし、「教育としての部活動」という観点から考えても、得難い経験を積むことができて良いのではないか?

…と反論。

すると、私の反論に対するH氏の
「音楽で、そんな ” いい加減なこと ” はしたくない」
…という再反論{※「音楽の素養がないバカ(a.k.a.私)に押し付けるのは、 ” いい加減なこと ” ではないのか?」というツッコミはさておき…}が返ってきて、どれだけ会話を重ねても、H氏と私の主張は平行線のまま。
最後は喧嘩別れで会話を終えました。

でもね、私は思うんですよ。
” その場の演奏の良し悪し ” もさることながら、部活動は学校の敷地内で行うことだから「 ” 5年後、10年後、もしくは もっと先 ” の、彼ら・彼女達」にとって、 ” 何らかの助け ” になる ” 経験 ” や ” 思い出 ” を刻む場(もしくは機会)であってほしいなぁ…と。周辺の大人たちも、それを頭の片隅においてほしいなぁ…と。青臭すぎる理想論ですけどね。

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ちなみに、その後 ネットニュースで知った ” とあるエピソード ” がありまして、それは…
『九州の某高等学校吹奏楽部にて「全国高等学校野球大会(いわゆる夏の甲子園)のアルプススタンドで応援演奏する日」と「自分たちが出場する吹奏楽コンクールの日程」が、かち合ってしまった際、顧問の先生が「 ” どちらの演奏に行くべきか? ” の選択」を ” 生徒だけのミーティング ” で決めさせた。すると数時間後に ” 涙で目を真っ赤にさせた部長 ” が、顧問の先生に「甲子園の応援に行くことに決めました」と告げた。』
…という話。
” 大人の思惑 ” が見え隠れする、かなり ” えげつない逸話 ” にも関わらず、これを ” 美談めいた記事 ” に仕立て上げた報道関係者に嫌悪感を抱くと同時に、
『「甲子園の応援演奏」を優先しなければいけない状況だったら、いっそのこと大人が無理やり甲子園行きを決定して、大人のだれかが「恨まれ役」を一身に引っ被れば良かったのに!』
…と思うに至り、その数秒後に
『あの時 ” O中学校吹奏楽部 ” にて、私が ” 無能な大人 ” という「憎まれ役」を担う選択肢も、実は有り得たのかも?』
…という考えが、一瞬 頭をよぎったのでした。
{※もう一度言いますが、私は ” O中学校吹奏楽部 ” とは、縁もゆかりもありません(笑)}

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では、今週の締めの吃音短歌(注2)

ため込んだ しゃべり損ねた 一言で 今も静かに 起こす胸焼け

※「言えなかった一言」が、いつまでも ” くすぶり続ける事 ” ってありますよね…

【注釈】

注1)全日本吹奏楽コンクール

一般社団法人全日本吹奏楽連盟と朝日新聞社が主催する、年に一度のアマチュア吹奏楽団体のためのコンテスト。
1940年の「第1回全日本吹奏樂競演會」を起源に、戦時下やコロナ渦による中断をはさみつつも、今日に至るまで脈々と開催されており、下部大会も含めて「日本国内最大規模の吹奏楽イベント」という側面も持つ。

注2)吃音短歌

筆者のハンディキャップでもある、吃音{きつおん}(注3)を題材にして詠んだ短歌。
この中では『「吃音」「どもり」の単語は使用しない』という自分ルールを適用中。

注3)吃音(きつおん)

かつては「吃り(どもり)」とも呼ばれた発話障害の一種。症状としては連発、伸発、難発があり、日本国内では人口の1%程度が吃音とのこと。


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