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Vol.40 メインストーリーと劇中劇と作劇と。

前回(Vol.39 「ミュージカルものまね」の需要と反響。)に引き続き、ミュージカル『オペラ座の怪人(アンドリュー・ロイド・ウェバー版)』(注1)にまつわるお話。
(注:ちょっとだけ、展開のネタバレがあります)

「オペラ座の怪人」を彩る名場面の中でも、一番情報量が多いのは『The Point of No Return(邦訳タイトル「もはや退けない」)の場面』と言っても過言ではないでしょう!…もし、異論があったらすみません(笑)。

まず、この場面に至るまで どんな ” 話の流れ ” なのか、かいつまんで言いますと、
『オペラ座を影から操る謎の人物 ” ファントム ” は、自作の歌劇「ドン・ファンの勝利」の上演を要求すると同時に、プリマドンナ ” クリスティーヌ ” の誘拐を匂わせる。
クリスティーヌの婚約者であるラウル子爵は、ファントムを捕らえる為、要求に従ったふりをして「ドン・ファンの勝利」を上演する』

そして、 ” この場面 ” は
『上演中、町娘役のクリスティーヌの前に現れた、ドン・ファン役のテノール歌手は ” 演者に化けたファントム ” だった…誰もその事に気づかぬまま、舞台は進んでいく』

では、劇中劇の歌劇『ドン・ファンの勝利』では ” どんな流れ ” で、 ” どんな場面 ” なのかと言いますと
『好色家のドン・ファンは、ある町娘に狙いを定めるが、彼女が心惹かれた相手はドン・ファンではなく ” ドンファンの従者 ” だった。
そのことを知ったドン・ファンは、従者に町娘宛ての逢引きの文を書かせ、従者と服装を取り換え ” 従者のふり ” をして、町娘が従者を待っている場所に赴く。』

つまり、『「意中の相手を奪う為に、他人に化けて近づく」という行動』が、ストーリーと、劇中劇で同時進行している訳で、そのためにクリスティーヌ役の演者には、
『劇中劇「ドン・ファンの勝利」の、町娘が対峙している相手がドン・ファンだと気づいていく演技』
…と
『上演中の相手が、ファントムだと気づいていくクリスティーヌの演技』
…という、並行する演技が求められるのです。
そして、この二つの流れをブリッジするのがミュージカルナンバーの『The Point of No Return』
厳密にいえば「劇中劇の歌曲」なのですが、そこで歌われている歌詞が劇中劇だけでなく、ファントムとクリスティーヌの関係性にも当てはまる様になっているので、観客サイドも このシーンを観たり聴いたりする時に、前述の並行する二重構造と その構造の崩壊(あるいは解放)という、作劇的な ” 緊張と緩和 ” が無意識的に堪能できる訳なんですね。

…とまぁ、クドクドと知った様な事を書き散らかしましたが(逆に「この程度の事を得意げに書くな!」と思われているかも知れませんが)、別に理屈を こねくり回して頭でっかちになって聴かなくても、文句なしに熱気あふれる名場面ですので、もし観劇の機会等々ありましたら、ぜひ注目下さい。

※下記参考動画『25周年記念公演』より「The Point of No Return」
(約6分間の動画です)

では、今週も締めの吃音短歌(注2)を…

ヘボ過ぎて 台詞を殺す 役者より 私のしゃべりは 詩と仲悪く

【注釈】

注1)ミュージカル「オペラ座の怪人」

「1861年 パリのオペラ座で、コーラスガールの一人だったクリスティーヌ・ダーエは、代役として主演を務めあげた事がきっかけで、幼少時の遊び相手だったラウル子爵と再会する。再会を喜ぶ二人だったが、ラウルからディナーに誘われた途端にクリスティーヌの表情が曇る。クリスティーヌに歌唱を仕込んだのは、オペラ座を影から支配する謎の人物 ” ファントム ” だったのだ…」
ガストン・ルルーによる同名小説の舞台化作品。
アンドリュー・ロイド・ウェバーが音楽を手掛けたバージョンは、ロンドンのウェストエンド、ニューヨークのブロードウェイ双方で、歴史的なロングランを記録し、2004年には映画化された。
そして2024年には、4Kデジタルリマスター版によるリバイバル上映が予定されている。

注2)吃音短歌

筆者のハンディキャップでもある、吃音{きつおん}(注3)を題材にして詠んだ短歌。
この中では『「吃音」「どもり」の単語は使用しない』という自分ルールを適用中。

注3)吃音(きつおん)

かつては「吃り(どもり)」とも呼ばれた発話障害の一種。症状としては連発、伸発、難発があり、日本国内では人口の1%程度が吃音とのこと。

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