スクリプトリウムvol.3|佐分利史子《1》|丘へ
Text|維月 楓
ヴァージニア・ウルフが1928年に書き上げた『オーランドー』。男性から女性へと変身し何百年の時を生きぬいた主人公の物語は、ウルフの先見性に驚かされる魅力に満ちた小説です。
今回の企画展では、オーランドーの少年時代がカリグラフィ作品となりました。果敢で早熟ながら少し不器用な少年が、「孤独」という人生の宿命を初めて味わった姿が瑞々しく描かれた一場面です。
まず目を引くのは、うねるような文字の流れと色の移り変わりでしょう。「ぼくはひとりきりだ」と呟いた主人公が、心のざわめきを感じながら駆け上っていく足取りに寄り添うようです。
絡み合うような“d”や、小さな蕾となった“p”の書体と共に、ひときわ長く伸びていく文字 (“He” “English Channel” “Upon Wave”)が、少年の胸の内から海へと連なっていきます。
楢の木の土色を中心とした対照的な青と緑のグラデーションは、丘と海の色と反転することによって、繰り返し重なり合う波のように見る者の心に交差します。
【お知らせ】佐分利史子さまの作品は、本作以外に二作品を会期中に発表致します。どうぞご期待ください。
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佐分利史子|カリグラファ →HP
伝統的なカリグラフィ文字を基調とした作品を制作している。文字そのものが持つなんらかの力を、題材(詩や文章)が持つ情景や感情に変えられればと考えています。
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維月 楓|詩人・英米文学研究者・翻訳家 →Twitter
幼少期より言葉が織りなす世界に魅了され、現在は詩作を行いながら英米文学の研究を行う。古今東西の女性詩人の作品を読み解くことを通して、彼女たちの人生の軌跡に敬愛を捧げている。
【お知らせ】維月 楓さまは本作以外に、本展にてローンチする霧とリボンのポプリブランド《Du Vert au Violet》とのコラボで、『オーランドー』の抜粋翻訳を二編発表致します。会期後半のお披露目になりますので、ぜひご高覧くださいませ。
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作家名|佐分利史子
作品名|丘へ
ガッシュ・アルシュ紙
作品サイズ|29.5cm×24.5cm
額込みサイズ|37.5cm×32cm
*作家自身によるフランス額装
*作家の意向によりアクリル板が付属しない作品になります
ぜひ直に美しい筆致をご堪能ください
制作年|2021年(新作)
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