クラシック音楽がもたらす意外な効果――様々な「音の効果」紹介

2024.8/09 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は人に影響を与える音に関する情報を、これまで紹介してきたものを含め、まとめてお伝えします。

◾不快な音に関する様々な研究

音は様々な効果をもたらしますが、当然のことながら、人間にとって不快な音もあります。例えば以前も紹介したように、不快な音には音程が関係しているという2012年の研究があります。被験者に様々な音を聞かせる中で、黒板や瓶をこするものが不快度が高い傾向にありました。

また研究では被験者が音を聴取する際に、被験者の脳の活動を測定しました。その結果、視覚野と扁桃体が不快な音に反応していることがわかりました。特に扁桃体は不安や恐怖に反応するもので、本能的に身構えてしまう、いわゆる「闘争・逃走反応」を引き起こします。

さらに、不快さを感じさせる音の周波数には共通点があり、人間が聴取可能な周波数である20~2万Hzの中で、不快な音は2000~5000Hzのものに多く存在しています。実際この音の中には、黒板をひっかく音や人間の悲鳴の、特に不快な音を発する部分と似ているものがあります。

一方、不快である必要のある音も存在します。これも以前紹介したように、政府による全国瞬時警報システム(Jアラート)のよる警報、正式には「国民保護サイレン音」が挙げられるでしょう。この音は2音が合わさった不協和音で、音量が小さくても人間に聞き取りやすい範囲である約800Hz~1200Hz程度の音になっています。Jアラートのほか、災害時において音をどのように届けるか、という仕組みについても、引き続き研究が必要です。こちらも以前紹介した通り、例えば高次脳機能障がいのある方に向けて情報を発信する際には、抑揚なく棒読みするよりも、リズムを強調した読み方、特に女性の声が聴き取りやすく、また朗読形式よりも歌の方が理解しやすいという研究もあります。

◾特定の状況や人々に届く「不快な音」

次に、私たちが身近に感じる不快な音として有名なものに、「モスキート音」が挙げられます。モスキート音はもともと2005年にイギリスで開発された、17kHzの高周波数のブザー音を発声させる小型のスピーカーでした。

高周波音は加齢によって聞きづらくなるので、主に若者の多くにだけ聞こえるものですが、この音は不快なものであることから、聞こえた者、つまり若者をその場から退散させる効果があります。こちらは以前も紹介したように、治安対策の名目で若者を追い出すための「音響兵器だ」という批判の声も生じています。

もうひとつ、理由は不明ですが、クラシック音楽が流れると若者がビーチから離れる、というニュースがあります。

こちらは実証研究ではありませんが、フィンランドの国営放送局である「Yle」が伝えたものです(日本語ではニュースバラエティサイトの「カラパイア」が伝えています)。

それによれば、フィンランド南部の都市「エスポー」の警察は、エスポー市のハウキラハティにあるビーチで学期末にあたる6月になると、午後6時半から11時半の間、2台の大型スピーカーからクラシック音楽を流しているとのことです。これは6年前から行われており、今年はシュトラウスの『美しく青きドナウ』、ヴィヴァルディの『四季』、シューベルトの『アヴェ・マリア』等が流されています。

地元の警察によると、それまではビーチがパーティのスポットになっており、ゴミや割れたガラスが散乱していたものの、クラシックを流してからは若者がビーチに近づかなくなったといいます。

クラシック音楽には様々な効果が伝えられており、実際に単純作業をする際には無音よりもクラシック音楽が適しているという研究や、ワインショップではクラシック音楽が流れると客の滞在時間が長くなった、という事例もあります。

クラシック音楽をめぐる研究は様々あり、またビーチの若者とクラシックの関係も不明ではありますが、これも音が人間に効果をもたらしていると言えるでしょう。

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