武器としての音ーー「音響兵器」を考える

放送の様子はこちら(下記サイトでは音声配信も行っています)。
「武器としての音〜「音響兵器」を考える」(Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート)2019.8/23 TBSラジオ『Session-22』OA

 Screenless Media Labは、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は音が武器になってしまう可能性を「音響兵器」の観点から紹介したいと思います。

◾音響兵器とは

 音は私たちに様々な影響を与えていますが、音が人々を攻撃する可能性もあります。例えば、ラスベガスで毎年開催されている「DEF CON」と呼ばれるハッカーたちのカンファレンスで、今年の講演の中にスピーカーをハッキングして音響兵器にする、という発表がありました。

 パソコンのスピーカーやスマホのスピーカー、スマートスピーカーに車載音響スピーカーなど、私たちのまわりはデジタル機器に接続されたスピーカーで溢れています。発表を行ったサイバーセキュリティの研究者によると、スピーカーを乗っ取るマルウェアの作成は難しいものではなく、乗っ取りに成功すると、様々なガイドラインの推奨値を超える高周波や低周波をスピーカーから放出することができたと述べています。またこうした攻撃は聴覚障害を引き起こすだけでなく、精神的なダメージも与えることになるといいます。

◾デモの鎮圧にも使われる音響兵器

 こうして音が武器として用いられる可能性がある中、大使館で音響兵器が使われたのではないか、という問題も生じました。キューバにあるアメリカ大使館の外交員が、2016年から謎の高周波音によって頭痛などの健康被害にあっていることが発表されました。

 カナダや中国の大使館でも同様の事例が報告されており、実際にアメリカ政府が、在米キューバ大使館の外交官に退去命令を出すなどの外交問題にまで発展しました。

 キューバの音響兵器か、とも言われているこの事件ですが、APがキューバで録音したその音声を科学者が分析したところ、キューバに生息するコオロギの鳴き声にかなり似ており、実際は音響兵器ではなくコオロギのせいではないか?という指摘もあります。もちろん考えられる原因のひとつであり、真相はまだわかりませんが、音が外交問題に発展しているのは間違い有りません。

 また音を使って人間の行動に影響を与える機器は、実際に私たちの生活の中でも使用されています。モスキートと呼ばれる高周波音を発生させる小型スピーカーもその一つです。高周波音は加齢によって聞きづらくなるので、主に若者の多くにだけ聞こえるものですが、この音は不快なものであることから、聞こえた者、つまり若者をその場から退散させる効果があります。

 もともとは海外で発売された時の商品名だった「モスキート」ですが、その後モスキート音として日本でも広く知られるようになりました。治安対策として、夜中の公園で若者がたむろしないように試験運用する自治体があったり、閉店後の商店の入り口に置かれることもあります。こうしたモスキート音に対しては、若者を追い出すための音響兵器だ、といった批判もあります。

(ちなみに以下のサイトでは、年代ごとに聞こえる各周波数のモスキート音を聞くことができます)

 さらに、実際にデモの鎮圧等の目的で音響兵器が使われることもあります。LRAD(エルラド)という数キロ先まで音を発生させる長距離音響発生装置は、全方位だけでなく、特定の限られた範囲にだけ音を届けることも可能なものです(指向性)。LRADは災害時などに遠くまでメッセージを届けることにも用いられる一方、強力な音の力で頭痛等を発生させることも可能なことから、デモの鎮圧等に用いられます。その他実際に海賊の侵入を撃退したこともあるLRADは、米軍などで使用されている他、各国の軍隊や警察も導入しています。


 いずれにせよ、音は武器になるということがこうした事例からもよくわかります。スピーカーなど音響発生装置がますます増える中、武器としての音についても、考えていく必要があるでしょう。

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