防音環境にはピンポン玉が有効?ーー「防音」最新技術の紹介

2023.10/27 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、防音や、特定の音だけを抽出する技術について紹介します。

◾ピンポン玉が低周波を吸収する

以前もお伝えしたように、騒音は私たちのメンタルヘルスに悪影響を与え、高血圧や心臓発作、脳卒中等のリスクにも関連があることがわかっています。

人は通常45デシベル以下を静かだと感じますが、60デジベルを超えるとうるさいと感じ始めます(人の会話が一般的に60デシベルと言われます)。)夜間は40デシベル以上の環境は人間に悪影響を与えると考えられ、世界中の様々な研究においても、騒音環境下で生活することで、心臓や血管へのダメージ、睡眠障害や記憶障害等、様々な悪影響が与えられてしまいます。

こちらも以前お伝えしたように、こうした騒音対策として、「防音」の研究も行われています。例えば2022年6月にイギリスの研究者チームは、、我の翅(はね)を利用した吸音材を作成し、最大で音波の87%をカットすることができました。

あるいは、自宅で防音環境を構築するために、13000円程度の費用で防音環境をみずから作成する人のレポートなど、インターネット上では様々な取り組みが公開されています。

そんな中、2023年10月10日、フランスのリール大学とギリシャのアテネ国立工科大学の研究チームが、卓球のピンポン玉を利用した、主に低周波の騒音を吸収する吸音材に関する研究論文を発表しました。

吸音の原理は、ピンポン玉を「ヘルムホルツ共鳴器」として使用する点にあります(ドイツの物理学者のヘルマン・フォン・ヘルムホルツにちなんだ名前です)。ヘルムホルツ共鳴器とは、例えば空き瓶に息を吹き込むと、内部で空気が共鳴して音がなるようなシステムを指します。実際、オカリナやホイッスルは、音の程度は異なりますが、息を吹き込むことで共鳴した音が鳴ります。

このヘルムホルツ共鳴器ですが、音が鳴るだけでなく、音の運動エネルギーを吸い取り、音を打ち消す効果ももたらすとのこと。音楽室に貼られているボードなども、この原理が活用されています。

研究では、5ミリの穴を開けたピンポン玉を様々なパターンでつなげましたが、数十個つなげたものが大きな吸音効果を得たと報告しています。

吸音自体は様々な装置がありますが、ピンポン玉はコストも低く、安価で効果の高い吸音材の作成が可能になれば、今以上に騒音に苦しむ人々に役立つでしょう。とりわけ、社会的・経済的に地位の低い人が住む地域は騒音レベルが高いという2017年のアメリカの研究もあります。

https://ehp.niehs.nih.gov/doi/10.1289/EHP898

◾会話の中から特定の音を抽出する

もうひとつ紹介する技術は、部屋の一部など、特定の場所から特定の人間の声だけを抽出する技術で、米ワシントン大学と、マイクロソフトの研究者(Takuya Yoshioka)が2023年9月に論文を発表しています。

研究では、まずスピーカーやバッテリー、モーター等を搭載した3.0cm×2.6cm×3.0cmと、手に収まるくらいの小型の音響ロボットを作成します。次に、このロボット7台が自動で動き、部屋の内部で人が話している空間と音声を認識します。研究では、5人の人間がそれぞれ適当に会話している空間にロボットが配置されます。

すると、それぞれのロボットは無線で連携を取りながら稼働し、それぞれの話者の音源位置を誤差50センチの範囲で特定し、さらにそれぞれの話者の会話だけを抽出することに成功しました。こうした技術は、パーティ会場のような様々な会話がなされる空間において、このロボットを利用すれば、特定の会話だけが他の音を排除し、クリアな音質で聞くことを可能にするのです。

今回の研究の優れた点は、ロボットを動かせるため、リアルタイムで動く会話空間を、適切に把握することができる点にあるでしょう。

こうした、複数人の会話の中から特定の音だけを抽出する技術については、2018年にNTTが発表しており、その後も様々な研究が続けられています。

防音が必要とされる一方、音の多い社会の中で、必要な音とそうでない音を区別する技術についても、研究が続けられる必要があるでしょう。

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