アメリカで221年ぶりの大騒音が発生する可能性――「セミの鳴き声」に関する研究紹介

2024.4/12 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、221年ぶりの、セミの音に関する話題をお伝えします。

◾周期ゼミの大量発生

夏になると鳴り響くセミの鳴き声は、季節の風物詩として身近に感じられるものです。当ラボでも以前、ツクツクボウシの鳴き声に関する研究を紹介しました。

しかし、セミの鳴き声は音としては大きく、あまりに大量に発生すると大きな騒音になってしまいます。そんな中、2024年の4月下旬から6月にかけて、アメリカの中西部や南東部では、「周期ゼミ」の大量発生による騒音が危惧されています。

「周期ゼミ(あるいは素数ゼミ)」とは、13年または17年の周期で大量に発生するセミであり、種類も少なく、分布も北米大陸に限られます。この周期ゼミは、基本的に他の種類と発生時期が被ることはないとのことなのですが、2024年は13年周期の「ブルード13(密度が高く集団で発生)」と、17年周期の「ブルード19(個体数が最大で発生地域が広大)」が同時に出現すると予想されています。

驚くべきことに、前回この二種類の周期ゼミが同時に発生したのは1803年(日本は江戸時代で、米大統領はトーマス・ジェファーソン)。したがって、実に221年ぶりに周期ゼミが同時発生すると予想されているのです。さらに専門家によれば、次回の発生は2245年とのことで、私たちの感覚でいえば、非常に珍しいものだと言えるでしょう。
(なお、2015年にも17年ゼミのブルード4と13年ゼミのブルード23が同時発生しましたが、発生地域が限られており、大量発生というレベルではなかったとのことです。)

◾光ファイバーケーブルでもセミの音が観測される

さらに、周期ゼミは日本のセミと異なり、大量発生します。ちなみに、2021年にも17年周期の「ブルード10」が大量発生し、アメリカで大きな問題となりました。その際は、高速通信を可能にする光ファイバーケーブルでもセミの活動が観測できました。

光ケーブルは衝撃や振動が通信に影響を与えるという性質のため、火山や地震の観測に利用する研究が進められているのですが、2021年にはあまりの騒音に、セミの音が観測されたのです(気温が下がったり、雨が降ると振動が減ることで、セミの音であることがわかったのです)。

◾1兆匹を超える周期ゼミ

このように強い影響力のある周期ゼミですが、『ニューヨーク・タイムズ』誌は、今回は2種類の合計が1兆匹を超えると予想しており、16州で観測可能とのことです。専門家によれば、2種類の周期ゼミの鳴き声は、合わせて100デシベルに届く可能性があるとのことです。100デシベルは地下鉄の構内の音ですが、場合によっては飛行機のエンジン音である120デシベルに近くなる可能性もあります。

以前も紹介したように、人は通常45デシベル以下を静かだと感じますが、60デジベルを超えるとうるさいと感じ始めます(人の会話が一般的に60デシベルと言われます)。それ以上の騒音は、メンタルヘルスの悪化だけでなく、高血圧や心臓発作、脳卒中等のリスクになることがわかっています。

ただし、2種類の周期ゼミの生息地が重なる箇所は少なく、イリノイ州の一部のほんの数キロということです(専門家は、両種類の交配が生じるかどうかを注視しているとのことです)。しかし、単種であれ、大量発生する周期ゼミの大合唱は、恐ろしいほどの騒音を引き起こすとされており、現地で暮らす人々にとっては大問題です。どこにいてもセミが鳴り止まない、そんな環境に置かれる可能性が高いのです。

ちなみに、当ラボでは以前、蛾の翅(はね)を利用した吸音材や、ピンポン玉を利用した吸音材に関する研究、また、個人でできる防音環境の整え方などを伝えています。音環境について考えたい人は参考にしてみてください。

◾大量発生する周期ゼミとその課題

さらに、周期ゼミの生存期間は一ヶ月ほどで、日本のセミよりも長く生存します。また、騒音以外にも課題があります。まずは大量の死骸の清掃です。森林であれば有益な肥料となりますが、都市部では清掃が困難です。さらに死骸は腐臭がするとのことで(腐ったナッツのような匂い)、何かしらの活用方法が求められているとのことです(セミを食する動きもあるようです)。

専門家は、周期ゼミは落葉樹林の生態系にとって重要であり、セミも森の一部であると指摘します。セミが動いた土には空気が通り、雨水が地下に浸透するのを助けたり、死骸は森の養分になるのです。こうしてみれば、都市部で特に課題となる周期ゼミの存在は、自然とどのように共存すべきかを、私たちに問いかけているとも解釈できるのではないでしょうか。

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