ツクツクボウシの鳴き声の秘密とはーー「セミが発する合いの手」を考える

2023.8/04 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、夏によく聞くセミの鳴き声の謎について紹介します。

◾ツクツクボウシの鳴き声はパートで分かれる

酷暑が続く2023年の夏ですが、夏の音といえば「セミの鳴き声」が挙げられます。セミは、筋肉を収縮させて膜を振動させることで音を出す「ティンバル」という独特の器官を使って鳴き声を出します。

また、セミの中でも鳴き声を出すのは、オスのセミに限られます(カエルやコオロギも同様です)。その理由は、オス同士の競争や、メスへのアピールと考えられています。さらにいえば、特有の周波数やリズムの変化パターンで鳴くことで、鳴いている個体や種の情報を音で伝えていると考えられます。

そんなセミの中でも、ツクツクボウシ(学名:Meimuna opalifera)は、鳴き声がとりわけ特徴的ですが、ツクツクボウシの鳴き声がパートごとに異なる意味を持つことを実証した研究があります。こちらは、九州大学と大阪公立大学の研究者が、2023年5月に、科学雑誌『Entomological Science』に掲載されています。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/ens.12550

まず、ツクツクボウシの鳴き声ですが、前半は「オーシンツクツク」と鳴き、徐々に反復が早くなり、途中「ツクリ~」と鳴いてから「ツクリヨーシ」と鳴き、最後に「ツクリヨーシ~」と伸ばして終わります。

研究チームによれば、このように鳴き声がパートが分かれているというのはセミの中でも珍しいとのことですが、その生態学的な意味はわかっていません。

研究では、まず九州大学のキャンパスでツクツクボウシのオスを捕獲し、その鳴き声を収録しました。その上で鳴き声を編集し、前半パートだけのものと後半パートだけのものを作成します。そして、別のツクツクボウシを捕獲し、収録した通常の鳴き声全体と、前半パート、後半パートだけの3つをそれぞれスピーカーで再生し、ツクツクボウシの反応を観察しました(プレイバック実験)。

すでに先行研究で、ツクツクボウシのオスが鳴いている際、近くの別のオスが短く「ギーッ」と鳴くことが知られています。研究者はこれをわかりやすく「合いの手」と呼んでいます。このことを利用して、実験では3つの音声 に対して、捕獲した別のツクツクボウシがどのように反応するかを観察しました。

◾ツクツクボウシの合いの手

実験の結果、ツクツクボウシは特に、鳴き声全体と、前半パートのものに対してより多く合いの手を入れたことがわかりました。つまり、前半パートの「オーシンツクツク」が、より多くの別のオスの合いの手(ギーッと鳴く)を促進するのです。

とはいえ、今回の研究では合いの手がどのような意味を持っているかについても、その詳細は判明していません。研究チームは今後の課題として、メスの反応を観察すること等を挙げています。

また、日本の研究者による別の論文では、合いの手について3つの仮説を提唱しています。
①「競争仮説」:相手の鳴き声の効果を低下させるか、あるいは相手を飛び立たせるため
②「スニーキング仮説」:スニーキングとはそっこり盗むを意味します。合いの手の「ギーッ」という音は鳴き声の最後の部分を模倣したもので、相手の鳴き声を利用して、メスに効率的に接触する、つまり自分の手柄にしてしまおうというものです。
③「協力仮説」:その名の通り、自分も協力することで、相対的に多くのメスを集めようというものです。

いずれにせよ、こうした仮説にもまだ明確な答えは出ていません。ともあれ、夏の風物詩でもあるセミの音については、今後も研究が続けられていくでしょう。

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