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社会のルールとタツくんの「生きる」 について

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皆さん、こんにちは。
S.C.P. Japanの共同代表をしています、井上です。

出来立てほやほやのnoteページですが、今後はこちらで個人/団体で行っている活動や日々の活動で感じたことなどを紹介していきたいと思います。

早速最近の活動について書かせていただきましたので、是非最後まで読んでいただけると嬉しいです。

社会のルールとタツくんの「生きる」 について

私が関わらせていただいている放課後等デイサービスは、通常学校終了後の放課後に発達障害をはじめとする障害のある子どもたちを預かり、それぞれのニーズにあった支援を行いながら子供達の成長をサポートする場所だ。

しかし、現在は学校の休校に伴い朝から夕方まで子どもたちを預かっている。もちろんコロナの感染対策はできる限りのことを行っているが、それでも3密を避けられないのがこうした学校以外で子どもの居場所となっている場所だろう。子どもはとにかく色々なものに触れるし、子ども同士で話したり一緒に遊んだりもする。目鼻口を触っていることもしょっちゅうだし、遊び道具自体を口に運んでしまうこともある。マスクなんて一日中付けていられる子の方が少ないくらいだ。一方、子どもを預ける家族も様々な理由で預かりサービスに頼らざるを得ない状況であり、コロナの不安を感じながらも利用を続けている。

ここではビフォーコロナもプレゼントコロナも変わらずに時間が進んでいて、このような現場に日々いると、テレビの中でソーシャルディスタンスや3密を避けましょうと言っている人たち、そしてそれを守ることができてステイホームな生活をしている人々が、どこか違う世界に住んでいる人のように見えてくる。なんとも不思議な感覚だ。

さて、今回は見出しにもある通り、施設を利用しているタツくん(仮名)の話をしよう。

毎朝家族の送迎でやってくるタツくん。「タツくん、おはよう!」と入り口でお出迎えをするが、遠くの何かを見つめているタツくんからは返答がない。入室するなり、入り口でベタッと座り、しばらくボーッとしているタツくん。タツくんと初めて会った私は、まずコミュニケーションはどれくらいとれるのか確かめたくて「おはよう!はじめまして!」と再び声をかける。すると、私の名前プレートを手にし「いのうえ、いのうえ」と連呼してくれる。タツくん流の挨拶で返事をしてくれたようだ。タツくんが平仮名を読め、正しく言葉を発音できることもわかった。

投げたボールとは違うものが返ってくる感じの、不思議な言葉のキャッチボールではあるが、コミュニケーションを取れたことが嬉しかった。

タツくんと私がいる施設は、運動療育を主に行う場所である。ベタッと寝転がって動かないことが多いタツくん。そんなタツくんに少しでも身体を動かすことの楽しさを知ってもらいたくてボールを渡してみる。しかし、タツくんはボールを払いのけて「いのうえ、いのうえ」と再び連呼を続けている。

ふとその時、その姿が自分が発する連続音を楽しんでいるように見えた。

試しに、ボールの空気穴止めとなっているプラスチックの部分を床にぶつけて「カンカンカン」と音を鳴らしてみる。するとタツくんがボールを貸せと言わんばかりに私の手を取った。そっとボールを貸してあげると、プラスチックの部分が上手に床に当たるよう調整し、そのまま床にぶつけて音を鳴らし始めた。繰り返し繰り返しボールを床にぶつけて連続音を楽しむ。

タツくんがボールという物に興味を持ち出していた。

しかし、ここで問題が。タツくんがボールの音で遊んでいる場所は、勉強をするスペースだったのだ。ボールで"カンカン"音を立てて良い場所ではないのだ。でも、運動場だとカーペットだから、ここの床(タイル)でないと音があまり響かない。それに一度興味を持ったのに、ボールを取り上げて「あっちに行こう」と言ってしまったら、タツくんのボールに対する集中が途切れてしまう感じもして悩む。

そんなこんなしているうちに「タツくん、そこでボールダメだよ!」と別のスタッフから注意が入りジ・エンド。タツくんはボールを手放し、またぼーっと見えない何かを見つめて動かなくなる。

ここでは療育の一貫として、「ルールを守ること」も大切とされている。社会に出た時にルールを守れないといけないから。だからタツくんを注意したスタッフは全く間違っていない。

しかしモヤモヤしてしまう理由は「ルールを守る」 という社会の決まり自体が私にはどうしても引っかかるからだ。

今この子達に必要なことは、ルールを守ることなのだろうか?

午後になり、みんなでレクの時間が始まった。タツくんの隣に座り、レクの説明を一緒に聞いているとタツくんが隣にいる私に気がつく。すると、私の頭(髪の毛)を鷲掴みにし、自分の鼻をこすりつけるようにして匂いを嗅ぎだした。「え、まさか私の頭臭かった?!」と気にする私を尻目に嬉しそうに鼻を私の頭にくっつける。鼻からの刺激=匂いと、髪の毛がぐしゃぐしゃ顔に当たるのが好きなのだ。なんだか変な光景で笑えてくる。タツくんが笑って、みんなも笑っている。

きっと社会のルール的に言えば、更にはコロナのルール的に言えば、他人の髪の毛を鷲掴みにし(他人と近距離)、他人の頭の匂いを嗅ぐ行為は完全にアウトだろう。でも今この瞬間、幸せそうで楽しそうなタツくんを見て、私も私の汗臭い頭が役に立てて嬉しくなる。

タツくんは動いたり、会話をしたりすることが少ない。でも、耳や鼻から得る刺激を身体いっぱいで楽しむ。自分の声で脳が振動するのを感じ、髪の毛が顔に触れる刺激で笑顔になる。

そう、今のタツくんにとって身体で感じることや触れることは生きるためにすごく大事なことなのだ。

社会のルールやコロナのルール的に言えばいけない行為でも、触れることで感じ、気持ちを表現するタツくんからそれを奪うことはできない。

社会のルールを守ること以上に、生きるために大切なことがどうしてもあるのだ。

コロナで新たに様々なルールが生まれ、それを守れない人達が責められがちな現在。でも、人によっては生きるためにルールを守れない状況が確実にある。であるならば、ルールを疑い、みんなが安全に幸せに生きられるルールを作り直すべきなのだ。

スポーツだって、遊びだって一緒だ。みんなが一緒に楽しめるために、どんどんルールを変えればいい。

S.C.P.Japanはそうやってスポーツを変え、そのスポーツを通じてみんなが笑顔になれる未来を作っていく。

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