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サントラレビュー: ジュラシック・ワールド/新たなる支配者

総評: シリーズの紡ぎ手とは
総合評価: ★★★
作曲家: マイケル・ジアッキーノ

※本編視聴時点でのレビューになります。

『新たなる支配者』のレビューとは言え、同シリーズならびに前シリーズを総括したレビューとなってしまうことにご留意頂きたいとともに、ご了承願いたい。『ジュラシック・ワールド』の前シリーズである『ジュラシック・パーク』の作曲家は (敢えて指摘するまでもないだろうが) ジョン・ウィリアムズである。同シリーズのテーマ曲はウィリアムズ作品の中でも『スター・ウォーズ』や『インディ・ジョーンズ』、『ハリー・ポッター』などと並ぶ傑作であり、コンサートであれば聞かずして帰れないほどの人気スコアである。“パーク”、“ワールド”と題名は若干異なっていようと、この偉大なスコアをここぞという場面で使うことが求められると同時に、偉大なスコアと遜色のないスコアが求められたシリーズでもあった。

良くも悪くも、ウィリアムズ作品でもテーマ曲の偉大さが群を抜きすぎこともあり、テーマ曲以外は大きく記憶に残るスコアではない。映画の主人公はあくまでも恐竜であり、結局のところ、怖い肉食恐竜に主要登場人物らが終始追われながらも、最後は命辛々助かるというのが極端に言えば、映画の根幹である (多少は求めつつも、パニック映画に高尚かつ小難しい議論を求める鑑賞者もまた極めて少ないだろう)。したがって、テーマ曲以外はスリリングさを高めるような効果音調のスコアとなってしまうことはやむを得ず、どこを切り取っても聞き所がある『スター・ウォーズ』の音楽 (特にEP4-6は"スペース・オペラ"とも言われる) とは体裁が大きく異なる。

とは言え、『ワールド』シリーズに相応しいテーマ曲がなければただの二番煎じに過ぎない。例えば、最近では『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』のジェフ・ザネッリが完コピというに相応しいほど、ハンス・ジマーを踏襲した。もっとも、オリジナリティのかけらも感じないスコアとなってしまい、これまでの音楽を適当に編集しただけとも言える出来映えだった。その意味で考えると、『パーク』のテーマ曲に対して違和感がないと同時に新しさをもたらしたという意味で、マイケル・ジアッキーノの作曲能力の高さを改めて示した作品 (後継シリーズ) だったとまず総括したい。

そのほか『新たなる支配者』では前シリーズの主人公が一堂に介すこともあり、本作は前2作以上に前シリーズの音楽との直接的な繋がりを強く感じた作品でもあった。特に次の2曲を挙げたい。

Track 8: A Sattler State Of Affairs / Alan For Granted / Sattler? I Barely Know Her

もしかしたら、ジョン・ウィリアムズのオリジナル作曲のバージョン違いにあったのかもしれない (コレクターズ・アイテムとも言われるComplete版などに収録されているalternate版のこと)。ウィリアムズ作品はComplete版が少ないだけに事実は分からない。中間部分 (1分20秒〜1分50秒まで) について1つ言えることは、前シリーズの音楽ではあるものの、ジアッキーノのアレンジが幾分加わっている。

ややもすれば巨匠のスコアに余計なことをしたと批判されるだけだが、そう思わせるどころかむしろ巨匠のタッチとさえ感じてしまうのだからセンスの良さが際立つ。焦らされているような音楽がまた、タイトルの通り、前シリーズの主人公がスクリーンに戻ってきた印象を抱かせる。最後は逆に巨匠ウィリアムズのテーマ曲をそっくり使うことで、オマージュとリスペクトが見事に共存している。

Track21: Gigantosaurus On Your Life

2分弱の短いスコアではあるけど、2つのシリーズが交差する印象的なスコア。ジアッキーノのフレーズでスタートしつつ、50秒近くになる頃にウィリアムズのフレーズへとシフト、最後30秒は緊張感を煽る音楽で締め括る形となっており、シリーズの音楽が1つに纏まっている。

他方、ジアッキーノの作曲能力を高く評価しているようで、総合評価が★3つ止まりであることに違和感を覚える読者もいるかもしれない。ウィリアムズ作品同様、テーマ曲関連以外はどうしても鑑賞者の緊張感を煽るような効果音調のスコアがどうしても多いことが、総合評価を押し下げる主因となっている。例えば、次の2曲を挙げよう。

Track 15: Da Plane And Da Cycle

Track 22: Ladder And Subtract / What’s Your Major Malcolm Function / Six Degrees Of Evacuation

いずれも映画に不可欠なスコアであることは間違いない。もっとも、映像とは別に"映画音楽"として純粋に考えると、記憶に残りづらいスコア例とならざるを得ない。

ジョン・ウィリアムズとの関連性を強く指摘してきたが、最後にジアッキーノの独自性が強く光る1曲を挙げたい。

Track 32: Suite, Suite Dino Revenge

本スコアはサントラのラストを飾っており、映画ではエンド・クレジットで流れるものと考えられる。ウィリアムズ色を最後の10秒まで完全に消し去り、『ワールド』の独自な世界観を音楽としてきちんと表現することをジアッキーノは忘れていない。ここにこそ、ジョン・ウィリアムズの筆頭後継候補として名が上がる一流作曲家とただの完コピをしてしまう二流作曲家とも歴然たる違いを聞くことができる。

なお、本サントラにおけるタイトルの付け方は非常に凝った形となっている。最近はスコアのタイトル名からのネタバレを嫌う鑑賞者もいるようだが、まるでネタバレ対策を施したかのようなタイトルばかりである (ストリーミングの影響か、スコアを聞くリスナーが増えてきた (?) ことは個人的には喜ばしい限りである)。ここまでタイトルの意味がわからないサントラもむしろ珍しい。

以下、各曲評価(4点満点)

  1. Jurassi-logos / Dinow This  - ★★

  2. A Dinosaur in the Ranching Business  - ★

  3. It's Like Herding Parasaurolophus  - ★★

  4. Upsy-Maisie  - ★★★

  5. Clonely You / The Hunters Become the Hunted  - ★★

  6. The Campfire in Her Soul  - ★★

  7. Hay of the Locusts  - ★

  8. A Sattler State of Affairs / Alan For Granted / Sattler? I Barely Know Her  - ★★★

  9. The Wages of Biosyn  - ★

  10. Free-Range Kidnapping  - ★

  11. A-Biosyn' We Will Go  - ★★

  12. This Dodgson Burns Bright / The Maltese Dragons  - ★

  13. You're So Cute When You Smuggle  - ★

  14. In Contempt of Delacourt / Dance of the Atrociraptors  - ★

  15. Da Plane and Da Cycle  - ★★

  16. You're Making Me Feel Wu-zy  - ★★

  17. The Geneticist's Gambit / Cicadian Rhythms  - ★

  18. Therizinosaurus Will Be Blood / Land of the Frost  - ★

  19. A Dimetrodon a Dozen   - ★

  20. She Shoots, She Scorches   - ★

  21. Gigantosaurus On Your Life  - ★★★

  22. Ladder and Subtract / What's Your Major Malcolm Function / Six Degrees Of Evacuation   - ★★

  23. Ramsay's the Second No More   - ★

  24. Gotta Shut Down the Blah Blah Blah   - ★

  25. Girls Can Alpha Too   - ★

  26. Saliva and Kicking   - ★

  27. Wu-ing For Redemption   - ★

  28. Battle Royale With Reprise / Six Days Seven Denouements   - ★

  29. A-O-Kayla   - ★★★

  30. All The Jurassic World's A Rage  - ★★★

  31. Larry Curly and MOE  - ★★★

  32. Suite, Suite Dino Revenge  - ★★★

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