「感動的な経験」の音楽的な昇華

映画: Redeeming Love
作曲家: ブライアン・タイラー/ブレトン・ヴィヴィアン
総合評価: 4.7

(各曲評価のみ見たい方は一番下へ)
まだ2月初旬なので結論を急ぎ過ぎと思われるかもしれないが、本作は少なくとも2022年ベスト10にランクインするスコアであると自信を持って言える。ブライアン・タイラーと聞けばマーベルファンであれば「アイアンマン3」や「ソー: ダーク・ワールド」、車好きであれば「ワイスピ・シリーズ」、そのほか最近では「ランボー: ラスト・ブラッド」など、スペクタクルなアクション・スコアを手掛ける作曲家のイメージがとにかく強いだろう。決して誤ったイメージではないが、ブライアン・タイラーの一面に過ぎず、エモーショナルな側面に耳をしっかりと傾けてもらいたい。

本作はゴールドラッシュ(1850年代)を舞台にした時代に翻弄される男女を描いた、信仰意識も絡んだ(おそらくは)ビターな大人の恋愛映画である。タイラーが近年手掛けた作品では「Five Feet Apart」と「Clouds」(両作ともにまた傑作)も恋愛映画であるが、どちらも若者を主人公としていた。ピュアかつ若い恋を奏でる意味ではどちらのサントラにもバンド的な要素が盛り込まれていたが、今回は時代背景・舞台などを踏まえてバイオリン(Gil Shazam のソロ)を中心したオーケストラが主体となっている。舞台背景に伴うスコアの類似点という意味では、タイラーが4シーズンに渡って作曲しているドラマ「イエローストーン」と似通ったトーンとも言える。

「Theme」で印象的なのは、バイオリン(ソロ)とピアノのコントラストである。タイラーのピアノ使いの巧みさは前述の作品で既に十二分に示しているが、今回はバイオリンを見事なまでに引き立たせている。それぞれの楽器が主人公の男女を象徴していることは容易に想像できる。音色の違いもさることながら、バイオリストGil Shazam の奏で方が非常に秀逸であり、哀愁、後悔、喜びなども様々な感情を呼び起こす音色である。その中でオーケストラによる盛り立て方が華美過ぎず、控えめ過ぎずと、絶妙なバランスである。

タイラー自身「本作を作曲することは、実に人生の中でも最も感動的な経験の1つである」とコメントしているように、タイラーが感じた感動的な経験が音楽としてこれ以上なく表現されており、筆者も涙なしには聴けないスコアである。贔屓目が可能性は否定しないものの、サントラ好きか否かを問わず聞いてもらいたい一作品である。

バイオリンの引き立たせ方の巧みさは、ジェームズ・ニュートン・ハワードを彷彿させると言っても過言ではない(JNHとして表記してリリースしたら、誰も疑わないのではないか)。作曲歴や受賞歴で見れば大きな差がある両者ではあるが、タイラーの作曲能力が過小評価されているように思えてならない。

参考文献

以下、各曲評価(4点満点)
※ ジャンル分けは主観に基づく

おススメ: Track 1 - Redeeming Love Theme

1. Redeeming Love Theme  -  ★★★★
2. The Gift  -  ★★★
3. Sunrise  -  ★★★★
4. Far Away  -  ★★
5. Not the Only One  -  ★★
6. He Loves You  -  ★★★★
7. California  -  ★★
8. Absolutely Nothing  -  ★★
9. Brother Paul  -  ★★
10. What You Are  -  ★★
11. Mother  -  ★★★
12. The City  -  ★
13. Angel  -  ★★
14. Unclean  -  ★★
15. No Choice  -  ★
16. I Was Wrong  -  ★★
17. Help Me  -  ★★★★
18. Farm Life  -  ★★
19. You  -  ★★
20. Providence  -  ★★
21. More Than I Can Offer  -  ★★★
22. Redeeming Love End Titles  -  ★★★★


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