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サントラレビュー: トップガン マーヴェリック

総評: 30年の熟成が成す味わい
総合評価: ★★★★★
作曲家: ハンス・ジマー


※本編視聴時点でのレビューになります。

本編視聴前に聴いた段階でサントラから感じていたことは、爽快感ではなく哀愁だった。予告でも「絶滅危惧種だ」と指摘されているように、昨今はドローンを活用した航空戦術真っ盛りである。『ミッション・インポッシブル』シリーズとは異なり、時代に合わせて作品を作り続けなかっただけに、前作のような“若いノリ”前面でも当然ない。旧作の良さをしっかりと受け継ぎつつ、30年の年月をしっかりと感じさせる大人な映画である。アクション映画ではあるものの、エレガントさも垣間見せ、本編を見た人であればサントラを聞くたびにシーンを思い返し、涙を浮かべることだろう。戦闘機が出す音が本作における音楽の一種(音響といった方が正確か)であるため、ジマー作品ではあるものの、音楽ばかりという作品でもない。そうはいっても、今年のトップ3に入ることは間違いない。

曲数が少ないこともあり、今回は曲ごとに音楽を見ていきたい。

Track 1: Main Titles (You’ve Been Called Back To Top Gun)
Track 2: Danger Zone
まず言いたいことは続編に期待するスコアとはこういう音楽であるということだ。Main Titlesにも書き加えられているように、1曲目の冒頭を聞くだけでトップガンの世界へとあっという間に舞い戻る。30年を経ただけに音楽の持つ意味が確立しており、本曲を外すことなどジマーのみならずプロデューサー陣の頭の中には露ほどにもなかっただろう。ハロルド・フラットメイヤーが各曲にどこまで関与したかは定かでないが、多くの曲でMain Titlesのエッセンスが垣間見られる。

(Track 10と聞き比べていただきたいが)1曲目のオリジナル・テーマ曲(と2曲目)で30年前の『トップガン』を彷彿させる一方、今回の30年を経た新たな曲調のテーマ曲で締めくくっている。映画を観た後ではなおさらこの30年の年月が積み重ねた映画の熟成がしっかりと伝わってくる。今回のサントラでは少ないものの、映画では随所にテーマ曲を鳴り響かせており、映画を盛り上げていたことは言うまでもない。

Track 3: Darkstar
3曲目以降は依然現役であり続けるマーヴェリックの今を奏でる。テーマ曲こそ有名なものの、前作の音楽はザ・1980年代というシンセサイザー全開であり、今となってはチープというほかないスコアばかりである(むしろ、テーマ曲以外を思い出せる人がいるのだろうか)。ローン・バルフェが共同作曲したこともあり(ガガがカバーにクレジットされたのに対し、バルフェはなぜノークレジットなのか?)、『ミッション・インポッシブル: フォールアウト』などどこかで聴いた感は否めないものの、究極のストイックさがロマンへと昇華してしまうマーヴェリック(引いてはトム・クルーズ)の今にまさしくフィットする。ただし、本編を視聴するまではタイトルが何を意味しているのかよくわからず、スコアの“裏側”までは聴こえてこなかった。

Track 5: You’re Where You Belong / Give ‘Em Hell
4曲目(の特に前半)こそ哀愁さ全開である。泳ぎ続けないと死ぬなどと言われるサメの如く、空こそがマーヴェリックが生きる(活きる)場所である。空こそが自分の世界であり、パイロットであることが自分自身であるが故に、身を引かざるを得ない境遇に近づいていることに強い寂しさと時代の変化を感じさせる。一パイロットとして、一軍人として、そして一代父として、自らの道を省みるとともに、今後の道を考えざるを得ない。『トップガン』でこのような音楽に出会うとは想像もしていなかった。

ジマーと言えば、重低音を駆使した作曲家という印象が強い。もちろん、数々の代表作はイメージを体現するものばかりであり、決して誤りではない。しかし、筆者がジマーの作曲能力において何よりも感嘆するのは、音の厚塗りではなく、むしろ本曲に代表されるようなシンプルにメロディを昇華させる力である。今どき、プログラミングができれば、本物のオーケストラ以上に壮大な音楽を作ることができ、楽器を足していくことはかつてほどに難しくはない。だからこそ、シンプルな音楽は作曲家としての本質に迫ることになる。なお、後半は打って変わり、訓練シーンの音楽となる。これはこれでいいのだが、敢えてカップリングする必要はあったのだろうか。

Track 7: Dagger One Is Hit / Time To Let Go
(ネタバレを承知で書けばマーヴェリックが撃墜されたときの楽曲)前作で実の父親が友軍を救うために撃墜されたという経緯から、鑑賞前からうすうす想像していた展開でもあった。マーヴェリックかはさておき、予告でも撃墜されるシーンがあったので、鑑賞前に聴いた時も劇中での使用方法には十分想像がついた。エモーショナルなシーンであるため感傷的なトーンではあるものの、それこそ『アルマゲドン』のような如何にも涙を誘うほどではなく、視聴前に聴いた段階では物足りなさも覚えた。もっとも、鑑賞後に見ると音楽の重みが異なって聞こえ、音楽でひたすらに涙を誘うのではなく、俳優の演技など映像とのバランスを考慮したものと考えられる。

Track 8: Tally Two / What’s The Plan? / F-14
クライマックスの見せ場という意味では、“音楽的”にはあまりに物足りない。いつものジマー作品ではこれでもかと重低音が鳴り響いても不思議ではないが、本作では(おそらくは敢えて)音楽を抑制している。本スコアに限らず、全体的にドッグファイト中は音響などに重点を置いており、音楽による過剰な煽りを慎んでいる印象が強い。

Track 9: The Man, The Legend / Touchdown
抑制していた分、全てを締め括る部分では音楽全開である。Track 5でも述べた通り、ジマーと言えば重低音の代名詞というほどにイメージが凝り固まっているが、個人的にはむしろ華美な装飾に頼る必要がないほどの研ぎ澄まされたメロディの美しさこそにジマーの音楽的才能があると思う。2分ごろからジマー(とバルフェ)の作曲部分にシフトするが、実にシンプルである。『インターステラー』などでも聞かれたように必要な音楽を凝縮する意味では、やはり業界を背負って立てる作曲家は数えるほどしかいないだろう。

Track 10: Penny Return (Interlude)
エンド・クレジットへ畳み掛ける前に、ジェニファー・コネリーの美しさに添えるに相応しい、エンドロール前の間奏曲である。音楽のみならず、映画としてもクライマックスの余韻に浸る意味では、非常に素晴らしい1曲である。

ほぼTrack 10後半部分の続きとも言え、サントラの構成だけは1990年代的でもある。配信全盛期の今日では、かつてのような収録時間の制約を受けづらい。Expanded版でなくてもあれもこれも盛り込んだ2時間近いサントラやら、各シーンごとにスコアを細切れにしたサントラが今や一般的である。しかし、良くも悪くも、本サントラでは各スコアがいくつかのシーンを抱き合わせた形となっている。

Track 11: Top Gun Anthem
エンド・クレジットの1曲であり、これを聞かずしてトップガンを締めくくることはできない。同じテーマ曲をただ使い回しているのではない。エンド・クレジットで1作目のAnthemがそのまま流れてくれば、30年の時を経たとともに、2時間に渡る感動に水を差すだけである。『トップガン』らしさを維持しつつ、時代の流れを感じさせてこそのフィナーレである。1分を過ぎることから徐々に現代風にアレンジされていき、(おそらくはバルフェが手を加えたのだろうか)エレキギターとともにパーカッションがオリジナル以上に前面に出てくる。

以下、各曲評価(4点満点)

  1. Main Titles (You've Been Called Back to Top Gun)    -  ★★★★

  2. Danger Zone (Kenny Loggins)    -   評価対象外

  3. Darkstar    -  ★★★★

  4. Great Balls Of Fire (Live) (Miles Teller)    -   評価対象外

  5. You're Where You Belong / Give ‘Em Hell    -  ★★

  6. I Ain't Worried (OneRepublic)    -   評価対象外

  7. Dagger One Is Hit / Time To Let Go    -  ★★★

  8. Tally Two / What's The Plan / F-14    -  ★★

  9. The Man, The Legend / Touchdown    -  ★★★★

  10. Penny Returns (Interlude)    -  ★★★

  11. Hold My Hand (Lady Gaga)    -  評価対象外

  12. Top Gun Anthem    -  ★★★★


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