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【打ち切りマンガ】大義なき暴力とか【アヤシモン/賀来ゆうじ】

アヤシモンを振り返ってもう一度読んだ感想を書いてみます。
本作は2021年50号から25話で打ち切りとなりました。

コミックで買った時どう思うかを想像して評価します。

ざっくり評価
ストーリー★
画力★★★
マンガ技術★★

少し辛すぎると感じられるかもしれませんが、評価基準は以下です。

星5個くらいを満点としてざっくり評価。星の目安は以下。
星1:下手い。
星2:悪くはない。このレベルなら満足。
星3:良い。このレベルなら嬉しい。
星4:非常に上手い。
星5:神。

ストーリー★

ストーリーが面白くないよね。というのが読み返した一番の感想です。
刺さる人が少ない内容だった点が打ち切りの決定打となったのかなと。

===あらすじ=============
人間離れした怪力を持つマルオは、追われている少女と出会う。それはマルオが夢見たマンガみたいなシーンであった。少女が暴力団の会長の隠し子であることが判明し極道の世界に足を踏み入れる。そこは妖し者の世界だった。
====================

良かった点

圧倒的なスピード感が良かったです。
第1話で主人公の夢を提示出来ています。

賀来ゆうじ「アヤシモン」(「週刊少年ジャンプ」50号、集英社、2021年)40頁。

それを相棒となる姐さんにリアクションさせることで、主人公の異様さを示せています。さらに姐さんと同じ気持ちになることで親近感を持ちやすい構図にもなっています。

というか1話はめちゃくちゃ良かったです。
3話、7話と徐々に落ちていき10話で完全にストーリーとして死んだのかなと感じました。


悪い点

ストーリが面白く感じなかった一番の要因は、共感しやすいキャラクタで無かったところだと考えています。
共感しやすいキャラクタや状況を作る事で、読んでるうちに好きになって応援している状態が理想です。そうなればファン獲得と言って差し支えないでしょう。

【大義なき暴力・マルオ】

それを踏まえた上で第3話のマルオの行動を見てみましょう。

賀来ゆうじ「アヤシモン」(「週刊少年ジャンプ」52号、集英社、2021年)248頁。

マルオは殴っているところは格好良くて応援したくなる要素はあるものの、基本ストーリーには関わりません。
ただ、殴るだけです。

大義なき暴力なんです。相手が暴力団で犯罪集団だからと言って何をやっても良い訳ではありません。
その暴力を応援したくなる人は多くないでしょう。

第一印象は顔は地味だけど、ワンパンで強い!でした。
しかし、すぐに圧倒的な強さ描写はなくなります。そしてその頼りない拳には大義がありません。
最後に残ったのは地味なキャラデザだけでした。

この点が大きく響いたと思います。

今回この記事を書くにあたって地獄楽を読みました。
(ちゃんとkindleで全部買いました)
アヤシモンよりは面白いんだろうな、くらいに考えていました。

読んでみると、めちゃくちゃ面白かったです。ビックリしました。
地獄楽の話を始めると別の記事になってしまうので控えますが、一瞬でハマりましたし、その勢いのまま最後まで読ませる力強さもありました。

閑話休題。

マルオは序盤こそ、マンガの世界に憧れた少年で、圧倒的に強く、殴られても笑顔の異様さが際立ちました。地味な見た目以外は印象の強い要素を詰め込んだ良いキャラクタです。
地味な見た目がギャップになって魅力が増す未来もあったかもしれません。
しかし、そうはなりませんでした。

マルオだけが悪かったのでしょうか?
当然、バトルの度に殴られたりと失速するポイントはありますが、マルオ以外にも事情がありそうです。

【大体全部マルオのせい】

まずはマルオが圧倒的な強さを示せなかった要因を考えてみましょう。

橋姫(2話)、猪熊入道(3話)、社長(4, 5話)と凄いスピード感で殴り殴られまくってきました。しかし、6話で導入したラスボス独歩と7話で出会い、8, 9話で負けます。
連載開始からのバトルラッシュの勢いは素晴らしかったと思います。

しかし、問題は7話からの独歩戦です。
普通の流れであれば、カマセ役を用意して独歩の強さを示します。
ドラゴンボールでいうヤムチャですね。

本作ではバトルラッシュの勢いのままラスボス独歩と戦う展開を選択しました。なので、カマセ役を用意する時間が無かったんですね。キャラクタを出して、どんな性格・能力かを説明しなければカマセ役として機能しませんが、その紹介をするには1話以上かかります。序盤の一話の重要性を理解している賀来先生だからこその攻めた作話だったんだと思います。

今回はこの攻めた作話が刺さらなかったのかな、と思います。
マルオが普段のバトルで圧勝しないのに、スピード感を重要視するあまりラスボスにも負けてしまう。
さらにストーリーやキャラクタの掘り下げをする時間もないので、キャラクタ人気も出ませんでした。

マルオは殴られるので爽快感のある勝利では無かったです。
そこにカマセ役としての敗北も重なってしまいました。
どちらかであれば通ったかもしれない設定だと思います。マルオが普段から殴られるキャラクタだからこそカマセ役としても殴られることで展開が単調になって負のシナジーを出してしまったと思います。

【キャラクタのドラマ】

本来であれば、マルオや姐さんを応援したくなるエピソードや掛け合いを挟みつつストーリーを紡いでいきたいところです。しかし、応援したくなる(人間味のある)ドラマは橋姫にしかありませんでした。

賀来ゆうじ「アヤシモン」(「週刊少年ジャンプ」9号、集英社、2022年)278, 279頁。

橋姫の想いや行動は素晴らしかったと思います。応援したくなる良いキャラクタになっています。
こういう掘り下げを色々なキャラクタでやりたかったんだと思いますが、軌道に乗る前に打ち切りとなりました。

というか、マルオは前述の通り計画に興味がありません。

賀来ゆうじ「アヤシモン」(「週刊少年ジャンプ」52号、集英社、2021年)248頁。

理由なく、殴れるから殴るキャラクタなんです。
このマルオを応援したくなるドラマってどうやって作るんでしょうね?
やっぱりマルオが悪い気がします。
次第に姐さんを好きになって、自分から姐さんのために考える描写をいれるつもりだったのかもしれませんけど、それこそ序盤に入れるべきでしょう。

【妄想】

マルオが姐さんとの信頼関係を作っていくプロットを妄想してみます。
まずマルオは無敵レベルの強さ設定にして、序盤は殴られても無傷でワンパン戦勝にします。これでいくらかコマ数を節約もします。その分会話パートを増やします。
人間よりは強いという理由でマルオが興味を持つ展開です。バトルれるヤツが居るかもしれねぇ!とか言わせましょう。

そしてテンを早めに出します。4話か5話でキャラ立てします。頭を使って姐さんの役に立つようなキャラクタにすると都合が良さそうです。
それを見たマルオと褒め合うような掛け合いを入れてもいいかもしれません。
そしてマルオが独歩に負けます。そこで脳筋プレイを辞めて姐さんからのアドバイスで一段強くなるみたいな展開ならマルオに感情移入できるかもしれません。その時にテンが一緒に修行をしてくれればよいかも?

でも、こういう物語がやりたかったわけでは無いんでしょうね。


画力★★★

簡単に書きます。
顔の主線がかなり特徴的でラフのような揺らぎがあります。

賀来ゆうじ「アヤシモン」(「週刊少年ジャンプ」52号、集英社、2021年)260頁。

顎のあたりを見てもらえば分かりやすいと思います。
こういうラフっぽさを残した絵ですが、整っているので汚い印象は持ちません。なかなか味があって面白いと思います。

キャラクタの幅も広いですし、バトルの描写もかなり上手かったと思います。


マンガ技術★★

これについては良い点も悪い点もありました。

本作で一番好きなコマはこれです。

賀来ゆうじ「アヤシモン」(「週刊少年ジャンプ」50号、集英社、2021年)60, 61頁。

この絵的なインパクトが最高です。
左のコマのマルオに被った車も最高です。構図的に姐さんよりも奥(マルオと同じ位置)にある車だけがはみ出ています。これを見て驚いてる姐さんははみ出てないんです。こういう思い切りの良いコマ割りを描ける先生なんですよね。

【水平垂直のコマ割り】

これについては賀来先生のこだわりなんだと思います。
読んだ方なら気づいたのではないでしょうか。

私はコマ割りでも出来ることはやって欲しいと思う人間です。
斜めに割った方が良い場面は必ずあるし、勢いや迫力を出すには不可欠だと思っているので、縛りプレイをしている先生という印象を持ってしまいます。

でも星1にしなかったのには理由があります。
キャラクタ自体や構図を斜めにすることで、めちゃくちゃ良い表現になっている箇所もあったからです。

賀来ゆうじ「アヤシモン」(「週刊少年ジャンプ」51号、集英社、2021年)127頁。

この橋姫もあり得ん格好良いですよね。4コマに割って、その間に斜めにキャラクタを配置する面を被った時の変身とマッチしていて素晴らしいです。

これを含めて差し引き0かなと思います。なので斜めに割りながら、こういう表現も使えたらめちゃくちゃ面白い構図になるんじゃないかとも思ってしまいました。


まとめ

画力・マンガ技術は連載中も気にならないレベルで上手だったと思います。
コマ割りは私は気になりました。

ストーリーについては、マルオのキャラクタと物語の進み方の相性が悪かったと思います。

地獄楽はキャラクタの格好良さ、バトルの爽快感、緊張感、人間同士のドラマ全て詰まった最高のマンガだったと思います。今回は賀来先生としても挑戦の意味が入っていたのかもしれませんし、もしかしたらこういう物語が描きたかったのかもしれません。
しかし、マルオのどこが格好良いのかをもう少し分かりやすく描写しても良かったのかなと思いました。

次回作に期待しましょう。
最後まで読んで頂きありがとうございました。


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