好きになる能力

中学生や高校生に「何が好き？」とか「何をしている時が楽しい？」とか「好きなことって何？」と尋ねると、「分かんない」とか「ない」などの答えが出てくることがたまにある。

「今何がしたい？」と質問を変えても「特にない」と答える。

私との関係性が悪いとか、その子が適当に答えているとか、そういうのが原因ではない。もちろんそういう時もあるけれど、今回はそのような場合は除く。

そういう子どもに出会うと、ものすごく寂しいような悲しいような、そんな気持ちになってしまう。

色んなことをしてみたら良いのに。
好きなことをしたら良いのに。
いっぱいチャレンジしていっぱい失敗すれば良いのに。

子どもなんだから。

でも、それが出来ない。
理由は色々あるが、『“やるべきこと”が多すぎるから』という理由が多い印象がある。学校の宿題、テスト対策、習い事、塾…。子ども自身も親も学校の先生も、みんながみんな、「やるべきこと」「やらなきゃいけないこと」で毎日が埋め尽くされてしまっている。

でも本当は、特に子どものうちは、一番の「やるべきこと」は、「好きなことに出会うこと」なのではないかと思う。

自分はこういうのが好きで、こういうのに囲まれていると幸せに感じる。
好きなことをしている時間が楽しい。
そんな時間にどっぷり浸かって、自分が満たされていく感覚を身体で覚えていく。

そういうものに子どものうちに出会うことは、人生を送るうえで大変重要であると思う。
大人になって辛いことがあっても、またそこに戻ることが出来るからだ。そこに戻って、一休みしたり、回復したりしながら、理不尽で生きづらい世の中を生きていくのだ。好きなものがあるから、頑張れるし、踏ん張れるのだ。好きなものがある人って、強いのだ。

もちろん大人になってからも好きな物には出会える。好きな人にも出会える。どんどん「好き」が増えていく。
ただ、自分の中の「好き」の基準が作られるのは、子どもの頃だろう。その基準は、多ければ多い方が人生楽しいと思う。大人は、子どもの頃に培ったその基準を用いて「好き」「キライ」を分類していくのだ。

大人になって好きの基準が出来上がっていないと、「自分が何が好きなのか分からない」という状態になってしまう。自分が何が好きなのか、を大人になって探すのは、結構大変だ。大人は素直じゃないから。変なバリアがいっぱい張り巡らされてしまっているから。

自分の好きなものが分からない状態は、楽しいとか、ワクワクするとか、そういうエネルギーの源になるような感情が生まれにくい状態である。そんな状態で、この複雑怪奇な社会を生きていくのは大変だろう。

好きなことをする。
でもその前に好きなことを見つける。好きなことに出会う。

そのためにも、面白そうなことや興味を持ったことには片っ端からチャレンジしていってほしい。自分のアンテナに引っかかったのなら、それは好きになる可能性があるということだ。

中学生・高校生・大学生には、それをするエネルギーも時間も実は膨大にあるのだ。大人が出来るのは、そんな子どもたちのチャレンジを大きな心で見守り、支えることなんじゃないかなと思う。