見出し画像

レバノンで今おきていること(5)首相の退陣

デモが始まって12日目の今日、ついにハリーリ首相が辞任しました。

数日前から辞任の噂は流れていたものの、急に今日の14時ごろに首相の退陣がメディアで報道され、16時に離任会見があると発表されました。

同時に、デモ隊が占拠している首都ベイルートの広場に、暴徒化したシーア派政党アマル・ヒズボラ支持者が押し寄せ、デモ隊のテントを次々と破壊、暴力を振るってけが人が出ました。

画像1

▲ 壊されたテントの骨組みの上に旗が建てられ、夕方にはモニュメントに

この暴動が意味するものはなにか。シーア派組織は、ハリーリ首相の退陣に反対である、ということです。シーア派組織(ヒズボラ)は合法的に民兵をもち、国軍よりも強い兵力をもつと言われています。今日のところは暴動だけで済ますけれど、シーア派を無視するともっとすごいことが起きるぞ、という脅しのメッセージと受け取られています。

以前のノートでも触れましたが、レバノンでは政治と権力が結びついており、議会は宗派によって議席数が固定、大臣のポスト数も宗派・政党に割り当てられており、憲法で決まっています。18ある宗派すべてが納得しなければ政府はできません。異なる宗派の合意を得るには非常に時間がかかります。実際、昨年の選挙後、政権が発足するまでは9ヶ月も空白の時間がありました。(それでなんとか国が回ってしまうのがすごいところです)

本日夕方にハリーリ首相が大統領に離任状を提出し、今後の流れとしては、国会議員が大統領に首相候補者を推薦、もしひとりにまとまれば、その候補者のもとで政権を模索することになります。これまでのレバノンの歴史では大臣経験者を「リサイクル」してきましたが、今回は民衆がそれを許さないでしょう。国民は、古顔の政治家ではなく、専門家(テクノクラート)集団の政府を求めています。実際には、政党のつながりがあるテクノクラートもいるようなのですが、どこまで現実的に既成勢力が妥協できるかがカギを握ります。

今日の暴動を見る限り、シーア派を無視して新政権を樹立するとやばいことになるとみんながわかっているはずです。ヒズボラやその後ろ盾となっているイランをレバノンに介入させることは誰も望んでいないでしょう。

また、経済状況がかつてないほど悪化しており、これ以上経済を停滞させるとリスクが高まり、破綻を招くことも、政治家も国民も認識しているはずです。

根本的には、新しい政権が選挙法と憲法を改正し、宗教と政治を分離し、宗派主義を排した議会制度をつくらない限り、政治の空白と権力闘争の無限ループは続きます。今日の首相の退陣表明は、国民からすると0.1歩くらいのステップでしょうか。

読んでいただきありがとうございます!サポートいただいたお金は誰かと幸せを分かちあうために使わせていただきます