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東工大の理系院生として普通の就活をしていた8年前の自分に伝えたいこと②

前回、「ポスドク問題」を中心に、理系院生の最適配置に関して問題提起をさせて頂きました。市場は人材不足に悩み、国際競争力を高めるためにはテクノロジーだと叫ばれているにも関わらず、卓越した専門性を持って日本の技術力を高める可能性のある2万人ものポスドクが雇用につけていない。なぜ、これが起きてしまっているのか。そして、なぜ修士と違い博士の就職は厳しくなるのか。
このカラクリに関する見解を少しずつ投稿させて頂きたいと思います。

今回は、この解明の第一歩となる「理系職種」について、考察します。

Vol.2 求める働き方は「研究職」?「技術職」?

博士に比べて修士の就職率が高いのは事実ですが、果たして就職している修士の方々は、何の職種に、どのような割合で就いているのでしょうか。

理系が進む職種には大きく「研究職」と「技術職」に分けられますが、
8年前の自分は正直その違いをよく理解していませんでした。

ここでは、理系院生の業界別就職先の70%を占める「メーカー」を例に、2つの理系職種について、理系院生の学生さんが陥りやすい3つの誤解を説明していきます。

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誤解ポイント1 「研究職」=「技術職」

同じように捉えられがちなこの2つの職種ですが、仕事内容(=ミッション)、将来のキャリアは異なります。

図1

図に示したように、仕事の側面で見ると研究職は技術開発や商品設計を任され、技術職は研究職が設計した製品の生産管理を任されることが一般的な役割分担になります。

研究所は秘匿性の高い案件を扱うことが多く、会社の中では研究部隊は一極集中させる傾向にある一方で、工場は生産ストップのリスク分散をするため、生産拠点は地方分散化される事が多いです。

一概には言えませんが、研究職は大学教授のように研究所・大学にひも付いてキャリアアップをしていく形をとり、技術職は働く場所を転々としながら管理範囲を広げてキャリアアップをしていく形が多いように思います。

誤解ポイント2 理系就職は大半が「研究職」

研究職と技術職の違いについて述べさせて頂きましたが、実際、理系就職をした理系院生のうち研究職に就職できる割合はどの程度なのでしょうか。
研究職で内定をもらえる学生の割合は、メーカーの理系就職志望者の約5%程度と言われており、求人が厳しいバイオ系(食品、飲料、製薬など)の研究職は0.1%程度と言われることもあります。

研究職で入社する新卒社員の比率という点で見ても、院生と博士の割合は2:8と言われるほど、理系院生で研究職として入社することは非常に難しいと言われています。実際に、研究職の内定が獲得出来ず博士に進んだ方や、面接の中で「研究職に進むなら博士くらいは進んでもらわないと」と言われた理系院生の方とお会いしたこともあります。

そのくらい、研究職の就職は狭き門なのです。
私自身今の立場になり経営という側面から会社を見られるようになりわかったのですが、研究職のミッションは企業経営にとって「10年後の経営状況を占う投資活動」です。企業の資金体力がある会社でなければそもそも研究職は設置できませんし、そこに専念する職種を用意し続けることも非常に難しいのです。そのため「研究職」は厳しい選抜試験をクリアした有識者しか就けない職種になっているのです。

誤解ポイント3 推薦枠があるのは「研究職」

就職活動で受けられる推薦には二種類あります。

①研究科・専攻(学部・学科)推薦 
 研究科・専攻全体に所属する学生に振り分けられる推薦枠

②教授推薦
 教授が独自に持っている推薦枠

多くの方が利用する推薦は①研究科・専攻推薦かと思いますが、こちらで就ける職種は技術職が大半です。②教授推薦を受けて内定した場合、研究職で採用される確率が高いのですが、そもそもこの推薦を受けられることは稀です。そのため教授推薦の枠は、博士に適用されること多く理系院生には提供されないこと実情です。
よって、推薦枠を利用した場合、就職は決まったとしても、技術職に就く可能性が非常に高くなるということになります。
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つまり、就職率で見ると確かに修士の方が博士より良いのですが、これらを誤解したまま就職活動を終え、結果的に研究職に就けている修士は少ないのが実態です。

全員ではありませんが、博士に進まれている方は、民間に就職する場合は研究職に絞っていることが多いため、全体の就職率が低くなるわけです。

今回誤って伝わってほしくないのは
「技術職が魅力的ではない」
「院生に用意される職種がすべて技術職になる」
「博士の方は技術職に就くべき」
といった主張ではありません。

「技術職」が求めるキャリアであるケースは多分にありますし、「研究職こそ会社の宝」として研究投資に積極的な会社も数多くあります。

また、個人的には、高い専門性を持つ博士には博士しか出来ない難易度の高い研究を選択し続けてほしいですし、そのような選択が出来る環境整備に尽力したいと思っています。

ただ、このような誤解を持ったまま就職先を決めてしまうと、「会社」は希望通りかもしれないが、「職種+キャリア=働き方」は希望との乖離が発生するかもしれないのです。

理系院生の皆さんは大学の拘束時間が長いこともあり、就職活動に多くの時間が割けず、限られた企業の中で就職活動をすることになると思います。
少なくとも私が就職活動をしている時には全く気づけなかったことです。
だからこそ、皆さん個々人のキャリアを考える上での一つの観点にして頂けると幸いです。

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