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COVID-19下での中学 web配信教材

臨時休校下の教育現場での学習指導

 筆者が所属する札幌市公立中学校は2回目の臨時休校を迎えました。週1回「臨時休校中の課題」(国、社、数、理、英)が教育委員会HPからダウンロードできます。これは、価値がある取り組みです。しかし、この状況がどこまで続くのだろうか。そして、各学校の現場教員に、何か、できることはないのでしょうか。

今、現場教員にできること

 今回の臨時休校は、まだ教科授業が開始されたばかりの年度当初ということ、さらに昨年度末からの臨時休校で昨年度履修が不十分な箇所の学び直しもあることから、子どもたちにとっては、学習習慣が軌道に乗った状況ではないと考えられます。特に、中学1年生においては、そもそもの「勉強の仕方」自体も知らない状況です。多くの教員は、目前の生徒がいない、虚しい状況の中で、「何かしたい。しかし、その方法がわからない」と考えていることと思います。

 そこで、今回は上記「教育委員会発行の学習課題」の補完的なweb配信教材のアイディアについて紹介します。あくまでもweb配信教材です。zoomやSkypeなどのオンライン・インタラクティブ・ティーチングによる本格的な遠隔授業ではありません。公立の一般的な中学校の学校管理PCはwebのセキュリティ制限が強すぎますし、もし、web制限が解放されて、本格的な遠隔授業が可能になってもカメラもマイクも精度が低い状況です。インターネット通信回線のトラフィック許容量も細く、インフラ環境に無理があります。

 そして、そもそも中学校現場は「働き方改革」最前線です。多くの先生方がそれほどの労力を必要とせず、比較的手軽に、しかも、教科の特性を熟知した教員がそれぞれ工夫して取り組める。さらに、この教材作成作業を通して、自身の教材研究にもつながる。さらには、学校再開後は平常の授業にも活用できる。そんなことを願いつつ、最小限のインフラ(校務用ノートパソコンと教科書、資料集など)で実現可能なアイディアを紹介します。

web配信教材の考え方

 私の考えているweb配信の目的を整理します。

(1)その学校の生徒の学習状況に応じた教材を提供するため

(2)基礎的・基本的な知識に関する定着を図るため

(3)学校再開時に、スムーズに授業につなげるため

web配信の意図

〇数回配信することで、蓄積した知識を使った「考える設問」「活用する設問」につなげる

〇「印刷する」ことにこだわらない。見て解く、考える。どうしても書く必要があれば「自分の持っているノート、そのあたりの紙切れに書いて学ぶ」(スマートフォンあるいはタブレットで閲覧する確率が高いことから)

〇スライド(PDF)なら、途中で止める、戻る。動画なら一時停止する。というように「子どものペースに合わせて」進度調整できる

web配信教材の概要(方法)

◇マイクロソフト「PowerPoint」で作成する

◇学習者は「教科書を読んでから」web配信教材に取り組むことを前提につくりはじめます。まずはタイトル。「学年」「教科」と教科書準拠なので「単元」「章」「節」を明記しましょう。

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◇1回のweb配信教材の範囲を、例えば「教科書のひとつの節」とする(スライドの冒頭に教科書ページを記載する)

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◇1枚のスライドに、1~3つ設問をつくる(必要に応じて図表なども)文字のフォントを大きめに見やすく。そして、設問を簡潔にわかりやすく。

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*「図表・図版」については、著作権の許諾が必要な場合があります。所属学校の管理職経由で、市教委や著作権元への確認を行いましょう。

◇次の1枚のスライドに、その前のスライドの解答・解説をつなげる。文字色は「本文(設問)は、黒文字」「解答・解説は赤文字」として、見やすくします。

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◇スライドの最後に「全体の振り返りのページ」をつくる

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◇最終スライドに、励ましのアドバイスなどをつけて作成終了

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スライド作成後の配信準備(全部で3通り)

(1)スライドショー配信(配信先端末にPowerPointがインストールされていることを前提。インストールされていない端末では閲覧できない)

(方法1)ファイル→ファイルの種類「PowerPointスライドショー」→保存

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(2)動画配信(ほぼすべての配信先端末で視聴可能。容量が大きい)

(方法2)ファイル→ファイルの種類「MP4ビデオ」→保存

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【方法2:その他の方法】「ファイル」→「エンコード」で「ビデオの作成」でも可能。この場合、ビデオ画質も選択できる。低画質でもスマホなら問題ない。

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(3)PDF配信(ほぼすべての配信先端末で閲覧可能。1枚1枚めくるイメージ)

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web配信教材完成後、どのように配信するか

A:学校HP経由

 まず、web教材配信に際して、先生方で「配信することに関する合意形成」があること。その上で、「配信内容が適切かどうかのチェック(各教科)」「配信する日」「配信担当の先生の支援体制」などについてあらかじめ話し合って決めておく必要がる。

①作成したweb配信教材を他の先生に点検してもらう(定期考査と同様)

②必要に応じて、言葉の使い方、誤字脱字、文字サイズ修正を行う

③学校HP担当者にweb配信教材データを渡す

B:独自配信

 You Tubeなどの動画配信サイトを使用する。当然ながら、あらかじめ登録してチャンネル開設をしておく必要がある。筆者は、web配信のテスト(試運転)として配信をしている。



おわりに

 筆者は、スライド作成から、上記動画完成までの所要時間は30分程度でした。(参考:スライドデータ:20枚)PowerPointが初めての場合は、もう少し時間がかかるかもしれませんが、慣れてくると速くなります。作成上ポイントになるのは、「設問のスライド」を作成したら、これをコピーして、次のスライドにして「設問の解答・解説」を作ることで、非常に効率的に作成できます。

 今回は、教科書ページでいうと5ページ分のスライドです。実際の授業では1.5~2時間かけて行う内容です。これが、動画では約7分になっています。筆者の担当は中学1年理科なので週3回の授業です。これをweb配信教材に換算すると、およそ2回(計約15分程度)の配信になります。実際の授業の3時間をweb配信では15分。ですから、純粋に教授に必要な時間は意外に少ないことになります。

 実際の授業では、生徒の表情を注視しながら、生徒の意欲を高めて導入。そして、課題を共有して学習がスタート。適時机間指導をして個別支援し、全体指導の場面では生徒との応答を交えたりインタラクティブに授業を進めます。その分、生徒を見て、状況に応じて指導方法を変更するなど、「子どもを見て行う授業」だからこそ、時間がかかるのだと思います。

 web配信教材は、「教科書を読んでいることを前提」とします。そして、当然ながら我々教師には生徒(子どもたち)の表情は見えない。web配信学習教材は教師から生徒への一方通行であることは否めません。それでも、web配信教材を作成して配信する意義は何でしょうか。 

 私が今回web配信教材を作成して気づいたことは、限られたスライドで、「端的にわかりやすく説明する」「問いの内容(言語)を吟味する」大切さについて、再確認することができました。

 教師側(作成する側)のメリットは、PowerPointに慣れること。特に、「スライド1枚にどのような意図の設問を設けるか」「子どもの思考の流れをある程度想定しながら、次のスライド(設問)にどのようにつなげるか」など、まさに、ふだんの教材研究と同様の教師思考と作業です。教授すべき学習内容を興味を換気しつつ、シンプルに説明を試みるなど、教授理論の再構成もできます。さらには、学校再開後、平常の授業でも活用できること。だと思いました。

 生徒側(視聴者側)のメリットは、彼らから直接意見を聞かなければわかりません。しかし、市教委学習課題のように学習進度に関わりなく紙ベース配布される課題と比較して、自分が習っている先生の作った課題を自分の学校の進度に合わせて配信される教材は、より価値があると思います。

 さらに、多くのweb学習コンテンツが溢れている中で、自分が普段習っている(身近な)教科担任が作った教材の意義は大きいと考えます。その学校の先生がweb配信教材を作る時、様々な生徒たちの顔、表情を思い浮かべながら作成します。これが、他のweb配信教材との圧倒的なアドバンテージとなります。

 もしかすると学校再開後、比較的スムーズに「本質的な問いを考える授業」が展開できるかもしれません。

 COVID-19への教育現場の対応は、特に公立学校の場合は、行政、教育委員会の指示・通達確認、学校行事、授業時数の調整、現場の先生方への周知、そして、子どもたちへの「わかりやすい言語を用いた説明・指導」など、ともすると振り回されて徒労感だけが残ることが多いです。

 それでも、教員の生業は「子どもあっての生業」。

 現在は、世界中が困難に立ち向かっています。

 大変な時期だからこそ、教員自身がオリジナリティを発揮して、動き始めることでナマの授業とは違う達成感を獲得する。マイナスからプラスへの転換にもなります。

 COVID-19の終息までの道のりは不明です。

 しかし、どのような状況であっても、子どもたちのことを思いながら、前を向いて、自分の学校の子どもたちのために何か実行する。そして、それが少しでも自宅で過ごす子どもたちの気持ちを少しでも勇気づけることができれば、それだけでもいいと思います。学校と生徒の家の物理的な距離は縮まらなくとも、私たちが子どもたちと共にあることを何らかの形で伝えたい。そのような願いのもとに本文を執筆しました。

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