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GIGAスクール構想と新学習指導要領の関係8~1人1台端末の授業イメージ~

《読了8分》

 前回は、GIGAスクール構想の導入は、学校現場の教職員に「より効果的な活用」を促すものであり、今まで、ICTを敬遠してきた教員への意識改革を促すものであること。そして、本稿の意図として「端末を活用することで、子どもも伸びて、教師の働き方改革につながる」という、「端末活用が普通になった将来像」を伝えたい。について述べました。
 しかしながら、新たな挑戦や改革には、当初の苦労が伴います。それでも、これが「日常」になったとき、「気がついたら楽になった。」という姿を想定しています。
 COVID-19感染拡大状況では、リアルな「対面型グローバル化」は難しくなりましたが、COVID-19がオンラインコミュニケーションを加速させ、休校時のインタラクティブな学習支援を可能とします。
 通常なら話を聞けないスゴイ人物とオンラインで話が聞けたりもします。

 さて、今回は1人1台端末が中学授業でどのように活用されるかのイメージについて述べます。(2021年5月の現段階では、各学校では端末を用いたオリエンテーションが終了していると思います)

 まず、端末と周辺機器、学校内のインターネット環境の必須条件です。

【生徒用端末と周辺機器の推奨される条件】


□一人一台端末所持 *Chromebook
□家庭への持ち帰り許可(USB Type-C充電アダプタ貸与)
□校内のどこにいても、セキュアで高速な無線WI-FIの接続可能
□端末忘れ対応用予備端末(各学年1~2台)
□貸し出し用モバイルバッテリー(学校予算)
□ディスプレイのぞき見防止シート(学校予算)
□スタイラスペン(個人購入)
□マイクつきヘッドセット(個人購入)

 では、ある中学生のタブレット端末が日常になった様子を追います。

《登校前の家庭で》
・昨晩から端末の充電状態を確認する
・GoogleClassroomで、今日の授業内容の変更が無いか確認する
 (昨日の夜のうちに、時間割変更や提出課題の確認は終えている)
・スプレッドシートに朝の体温を入力する。(前日夜も入力)
・端末を鞄に入れて家を出る     *欠席連絡は保護者操作で端末から
《登校後》
・学校に端末を保管した生徒は、鍵を開けて保管庫から自分の端末を出す
・端末を忘れた生徒は職員室にレンタル端末を借りに行く
  (貸し出し簿に手書き記入)
・充電を忘れた生徒は、モバイルバッテリーを職員室に借りに行く
・スタイラスペンを忘れた生徒は、職員室に借りに行く
・学校Wi-fiに接続後、専用メールボックスやチャットルームに新しい情報が無いか確認する。時間割の変更が無いか確認する
・委員会、部活動の実施有無や時間変更を確認する
・その他、1日の始まりに必要な情報を確認する

《朝の学活(ショートホームルーム)》
・情報アップロードできなかった急な連絡を聞いてメモまたは個人ページに入力する。
・端末を閉じて、仲間の司会に従って「今日の学級の目標」「自分の目標」
 などについて直接言語による応答で情報共有を行う
・先生のリアルな言葉を傾聴する

《1時間目》英語


・授業の冒頭、GoogleFoam(スプレッドシート)で英単語テストへの回答
これは即フィードバックで、できるまで何度もチャレンジできる
・教科書掲載QRコードを読み取り、本文の背景画像を見たり、新出単語の発音を確認する
・リスニングの時は、全員ヘッドセットをつける
・教科書本文は、クラウド上のデジタル教科書朗読をタップして、各自のスピードに合わせたリスニングを行う
・分からない単語があった場合はリスニングを一時停止して、web検索で調べる
・講義は先生が黒板(あるいは電子ホワイトボード)に書く。これを端末で写真に撮るか、自分でノートに写すかは各自の判断
・最後に、次回までの課題をGoogleClassroomで確認して授業終了

《2時間目》数学


・授業の冒頭、GoogleFoam(スプレッドシート)で四則計算に取り組む。数字の解答入力か選択肢。*数学の場合、計算過程は別にノートを使う
*端末のディスプレイには「のぞき見防止シート」が貼られ不正行為を防止する。
・教科書掲載QRコードを読み取り、情報を見る
・デジタル教科書で立体図形の展開図をタブレット画面の3次元画像で見ながら考えて問題を解く
・最後に、次回までの課題をGoogleClassroomで確認して授業終了

《3時間目》体育


・ジャージに着替えて、タブレット端末を持って体育館に行く
・バスケットボールのシュートについての学習は、実技の前にデジタル教科書で模範演技を見る
・仲間に自分のシュートフォームを撮影してもらい、模範演技と自分のフォームを比較する
・先生に助言を受けながら繰り返し練習に取り組む
・今日、一番良かったシュートフォームの動画を先生フォルダに提出する
・授業の最後に「最初の自分のフォーム」と「最後のシュートフォーム」を比較して次時の課題を考える
・宿題「バスケットボールのルールについて」を、GoogleFoam で回答することを指示される
*電池切れ生徒は、職員室にモバイルバッテリーを借りに行く

《4時間目》音楽


・リコーダーとタブレット端末持って音楽室へ移動
・授業の冒頭、GoogleFoamによるリコーダーの運指と音階テストへの回答
・先生から端末に配信された運指付き譜面を見ながらリコーダーの練習を行う
・練習後3~4人のアンサンブルに取り組む。演奏を端末に録画して、GoogleClassroomで提出する。
・教科書QRコードで、作曲者の情報を見る
・先生から送信された音源データをヘッドフォンで聴いて、音楽の考え方に沿った感想を述べる(入力)
・次の時間までに、他のグループの演奏を見る宿題が出る
《給食時間・昼休み》
・学校からの緊急情報の確認などが無い限りは端末を閉じる
・動画配信される委員会ニュースを端末で見ることもある
・給食中は食べること(COVID-19禍でなければ、適度な会話)を楽しむ
・昼休みは、できる限り端末を閉じて仲間と話す。
・外遊び、グランド遊びをする

《5時間目》理科


・実験ノートとタブレット端末持って理科室へ移動
・授業の冒頭、GoogleFoamによる元素記号のテストへの回答。
・今日取り組む学習について、先生の話を聞いて、どのような実験装置を使うか、デジタル教科書を見ながら、実験ノートに「必要なデータのとりかた」を書き込む
・今回の実験は、数値測定では無いので、時間ごとの変化を画像で記録することにする。
・1分おきに物質の変化を端末で撮影する(定点観測)
・結果を、端末でGoogleClassroom経由で先生に送信する
・次の時間から、日本の天気の変化の学習に入ることから「札幌の過去10年分の気温変化データ」の収集が宿題になった

《6時間目》美術


・筆記用具の他にスタイラスペンとタブレット端末持って美術室へ移動
・授業の冒頭、鉛筆で「自分の手のデッサン」をスケッチブックに描く
・スケッチアプリで、配色のバランスについて学ぶ
・ルネッサンス期の美術作品鑑賞なので、デジタル美術館を見ながら、自分の気に入った作品とその感想を端末に書き込んで、仲間と交流し合う。
・教科書QRコードを読み取って、画家の情報を確認する

国語


・古典の授業や漢文の授業は、朗読音声をヘッドフォンで聴く
・現代文や評論文の学習では、他の人の意見をJamboardで交流する
・自分の考えや意見をテキストで入力する
・作文も、段落、行間を効果的に利用しながらテキスト入力する。(作文用紙は使わない)
・その授業で書かれた先生の板書や友達の意見を端末で撮影して、自分のテキストに貼り付けてデジタルノートをつくる
・メールやSNSでの、オフィシャル(公式)な使用方法について学んで活用する
《授業時間の間の休み》
・窓の外の風景など、できるだけ遠くを見る
・目を休める
《帰りの学活》
・各自端末を開いて、明日の時間割の確認と持ち物の点検を行う
・この作業は、各学級の教科連絡係(5~7名)が担当している。通常は、前日昼休みまでにはアップロードしている
・しかし、間に合わない場合は、各自、口頭連絡をキーボードあるいはスタイラスペンで入力する
・学級の振り返り時間は端末を一度閉じて、仲間のブリーフィング司会により、言語による応答を行う。
・先生のリアルな言葉を傾聴する
・帰りの会終了後、端末を置いていく生徒は、保管庫の鍵を開けて
 端末を所定の場所に入れて、充電ケーブルに接続する。
・様々な貸し出しを受けた生徒は、職員室へ返却する
 *端末は、間違いなくログアウト、シャットダウンする。
《放課後活動》
・委員会活動で、課題アイディア検討などに使用する場合は端末を持って活動場所へ移動
・大ホールなど共用スペースで、委員会活動の様子を動画撮影する
・生徒会活動など、画像や動画を用いる生徒どうしの話し合いで活用
・部活動でチームのコンビネーションプレイを動画撮影してチェックする
・欠席した級友へチャットあるいはSNSで連絡する。
*校内放送についても「これまでの有線放送」加えて「web配信」が可能になる

 ここに述べたのは、ほんの一例かもしれません。今後、習熟度が増すと様々な用途が発見され、それが拡散し、新しい使用方法として定着するようなことが繰り返されると思います。


 ここで、確認したいことがあります。
 私の居住する札幌市ではChromebookでGoogleWorkSpace(GoogleEducation)系の教育システムの使用を前提としています。世の中には、教育に特化したソフトウエアやアプリが多く存在しています。学校予算で購入して個人端末にインストールして活用する方法もあると思います。しかし、これを用いることは、汎用性を狭めることにつながることを理解しなければいけません。


 子どもたち(児童生徒)は、学校生活では専用教育用アプリでオンライン交流をして、学校以外では一般的な汎用性の高いアプリを使うのであれば、結局「学校と家庭は別」になるのです。我々教師の利便性だけを考えて専用教育用アプリを使うと「学校と家庭のシームレスなつながりが無くなる」のです。そもそも、我々大人も、職場と家庭で違うアプリケーションを使用していますか?メールにしろSNSにしろ、職場と家庭でおなじ環境があるからこそシームレスにつながるのです。

 子どもたちも同じです。専用教育用アプリを使っていて、上級学校やその先の社会に同じものがあるとは限らないのです。できれるだけ、社会人でも使うソフトウエアを工夫して用いる経験が、将来的にも適応力のある子どもの育成につながると考えています。GoogleWorkSpace(GoogleEducation)系の教育システムやマイクロソフト社、アップル社それぞれに長短がありますが、大切なのは「汎用性のある端末とアプリで学ぶこと」だと考えます。

 これで、GIGAスクール構想と新学習指導要領の関係8~1人1台端末の授業イメージ~を終わります。
 お読みいただきありがとうございます。

 今回は、具体的な授業イメージまで述べました。読者の中にはきっと、様々な意見や疑問が生じていると思います。GIGAスクール構想の正解はありません。唯一あるのは「子どもが活用する視点を大切にする」ことです。「教師が活用する」ことではありません。

 次回は、GIGAスクール構想と新学習指導要領の関係9~授業の考え方自体が変わる~について述べます。






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