中国海軍の進出について

中国海軍の進出が目覚しい。ここ数年であっという間だ。南シナ海あたりの領海権の主張はだいぶ強引ではあるが、さて、彼らは海に出てきて何を目指しているのだろうか?

まず、中国がランドパワー国家であることは間違いなかろう。万里の長城が示すごとく、歴史を通じて漢民族の敵は、大体北方から攻めてきていた。中国の北方、すなわち陸続き。中国が歴史的にランドパワーとして存在しているのは当然だ。とはいえ、中国が海へ進出しなかったかといえば、もちろんそういうわけではない。明時代にはアフリカまで遠征している。しかしなぜ、今、太平洋とインド洋をがっちり抑えている米海軍、日本帝国海軍の伝統を墨守する海上自衛隊、その他台湾やインドといった海軍に対抗するように拡大しているのだろう?

リアリストの立場に立つと、「他国は皆敵」である。国は世界で生き残るために、行動する。そして生き残るためには、他国を圧倒するパワーが必要なのだ。では、国のパワーとは?端的に言えば軍事力とそれを支える経済力、人口、国土の特徴等の潜在的力ということになる。で、この両方のパワーのうち、海上でのものがいわゆる「シーパワー」と呼ばれるわけですね。

ところで、海上輸送は航空輸送(飛行機)や陸上輸送(鉄道やトラック)に比べて、一度に大量にそして安価に運ぶにはもってこいな方法である。が、海ならどこでもお船で行ける、というわけにもいかない。先祖代々人類が利用している主要航路があり、それがシーレーンと呼ばれるわけです。シーレーンをどれだけ利用できるかという、海洋輸送能力はシーパワーの一部となす、これはまぁ自明でしょう。

他にもシーパワーの要素はあって、例えば海洋資源。天然ガスとかレアメタルとか、さらには領海内のお魚さんたちも、国民の健康状態の一要因とすれば立派なシーパワーです。ものすごく簡単に言えば、利用できる海洋資源=領海が大きければ大きいほど国力が増す、こういう見事な比例式が成り立っているのだ。

以上2つ(シーレーンと領海)は潜在的なパワーと言えるが、もちろん海上においても軍事力は重要だ。平時に於いてはシーレーンの保護、戦時においては自国のシーレーンの保護はもちろん、敵のシーレーン破壊、もしくは封鎖(バリケード)も海軍のお仕事となる。かのマハン曰くバリケードは「the most shocking characteristic of sea power」らしいし。まぁ、これは余談。

話を中国に戻すと、「中国のお国柄」というのも「なぜ、今?」という問いにおいて、考えるべきポイントだったりする。マハン先生も国民性は重要と言っていることですし。で、問題の中国にお国柄。そもそもランドパワーな国は陸続きに絶えず敵に脅かされた歴史から専制的で軍事志向が強いと言われている。ドイツ・・・はうまく変わったのか、それとも変われていないのかよくわからないところだが、ロシアなんていい例だ。せっかく共産党政府が崩壊したのに、プーチンが出現している。中国なんぞ、いまだに共産党一党独裁状態である。そもそも、かの「中華思想」。漢民族国家を中心とし、その四方の国々は朝貢すべし、一度朝貢したら中華圏内というあれは、大戦前のドイツやらソ連、日本でも言われた「生存圏」の概念として受け継がれているのではないか?さらに、中国の軍隊は国軍ではなく「党の軍隊」である。つまり政軍の完全一致であり、それは中央軍事委員会が人民解放軍をがっつり抑えている組織図からも見て取れる。(ついでに言えば、中国海軍の英語名はPeople’s Liberation Army Navyである。アーミーなんだか、ネイビーなんだか。)

もう少し時代に沿って中国海軍の状況を眺めてみると、毛沢東時代は、ぶっちゃけ不遇の時代と片付けて良い。最初の海軍トップは海軍の経歴が一切ない革命戦士だったし、台湾奪還のためにも海軍を!と叫ばれはしたものの、お船もお粗末、乗る人もお粗末といった具合。あげくに朝鮮戦争だとか文革だとか核兵器重視だとかで、金もなければ訓練された人もいないという時代だった。

そんな不遇の時代もマオの死によって状況が変わる。経済発展により、予算が回ってくるようになったことはもちろん、その頃敵対していたソ連が海洋上で南下政策を取っていたこともあり、それに対抗すべく海軍の増強が図られた。その上、経済発展により人民が豊かになるにつれ、共産主義のイデオロギーだけでは国民を制御できなくなっている。そこで出てくるのが例の中華思想。民族主義的な側面で国民を満足させ、政府(共産党)に文句を言わせない方針が見て取れるのがここ数十年の流れである。

「でも、海軍の進出と国民の満足度はどう関係するの?」と思われるかもしれない。しかし、これは以外と単純。

・国民を満足させる=経済発展のためにはシーレーンの防衛が必要である。
・シーレーンの防衛は、自国の海岸線だけではなく、島による飛び領海があると、より安泰である。(島があれば基地が作れる。港でなくとも航空機による援護が期待できるかもしれない。何より領海面積が増えれば増えるほど、他国の海軍はそう簡単に入ってこれない。)
・領海面積が増えると利用できる海洋資源量が増える。(ついでにシーレーンで運ばれる一番大事な「石油」、これに変わるエネルギー源も採掘できるかもしれない。つまり、シーレーンに頼る必要が減る。)
・海洋資源量が増えると経済発展に弾みがつく。

このように「シーレーン」「海洋資源」「領海」が三角形を作って、お互いに影響し合って、満足度向上につながっているのだ。ならば海軍はそれらをエイヤッと丸取りするのが賢い。それゆえに、南シナ海とか東シナ海がキナ臭くなっている。

ところで、先ほどロシアが民主化して、結局どうなった?プーチンが出てきただけではないか?と言った。プーチンの政策は強きロシアの復活であり、まぁ非難も多いが、純粋に目的達成度だけみれば、うまい具合にやっていると言える。であれば、同じランドパワーのお隣同士、中国が民主化しても全く同じ道を歩む可能性が高い。過去からの伝統的思想、経済成長、国民を満足させるための政策、これらは共産主義とは一切関係がない。つまり、中国が民主主義国家になっても、中国海軍の進出は止まらないだろう。

幸い、中国海軍の進出を快く思わない国々が中国の周りに沢山いる。どれも共通のシーレーンを利用し、中国と領海がかぶっていたり海洋資源を取り合っている国々である。日本としては、自身に対抗する強国を作りたくないアメリカをはじめとして、こういった国々と手を取り合って中国に対していくしか道はない。また、いくら中国が海洋に進出しても、あの国がランドパワー国家であることを忘れてはいけないし、何よりも、もう一つの大国、ロシアとの関係を注視する必要があるだろう。

って、ここまで書いて、時間と根気のある方はお気づきになったと思います。そうです、これ、2007年末に書いた私の卒論の抜粋なのです。情報は古く、英語は拙い・・・ですが、骨子としてはなかなかイイ線いってるし、まぁ、今でも通用するなと思いまして、初の日本語訳にしてみました。卒論の方では海上自衛隊とか台湾やアメリカ、インドの海軍や海洋政策についてもツラツラ書いてるんですが、本筋には関係ないので割愛。ついでにネタバレ。この論文自体はミアシャイマー博士の理論を単に海(海軍)に当てはめただけなのです。よくまぁここまで膨らませて書いたものだわ。

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謝謝ヾ(*´∀`*)ノ
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本ばっかり読んでいる会社員。高校・大学でアメリカ留学経験あり。基本はブログで活動しています。noteへの投稿は、ブログの過去記事の再掲が8割になる見込み。政治、哲学、歴史関連や読んだ本についてが多いです。 http://wunderkammer.oops.jp/main/
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