ハリウッドスパイ映画+水滸伝+ブラックラグーン、な本

なんのこっちゃ、と思われるタイトルだが、この通りとしか言えない。共通点はどれも一気に読める(観れる)ことである。安田峰俊氏の「「暗黒・中国」からの脱出 逃亡・逮捕・拷問・脱獄」も一気に読めた。すんごい長い原文を編訳という形で本にしたせいか、スピード感はバッチリ。そんな本なので、感想もチャチャッといきます。

まず興味深かったのが、安田氏の中国政治に対する(当初の)スタンス。ちょっと長いですが引用すると

率直に言って、中国の民主化運動への関心はあまりなかった。
活動家たちの主張にしばしば漂う自己陶酔的なロジックや、選民主義的な物言いが苦手なせいかもしれない。また、「民主化」というワンフレーズをあらゆる社会問題の処方箋に据たがるような、理想主義的な思考パターンに忌避感があることも関係している。
そもそも、近年の中国の政治力や経済力が日本を上回るほど「強く」なった理由は、彼らが人権や民主主義を無視できたからだ。加えて前近代の中国は、洗練された専制体制を武器に、後年の民主主義の歴史よりもずっと長期にわたって世界の先進国となってきた国ではないか。
中国共産党の政治は、歴史的に見て最も妥当な中国の形を復活させたものだ。それが国家に強さと豊かさをもたらす以上、庶民にもそれほど悪い話ではなく、ことさら民主化を求めるような主張が支持を得られるわけがない。(後略) P3

中国大好き人間は、マジで中国大好きなタイプと、中国大嫌いで大好きなタイプのどちらかが目につきやすいが、なんと冷めた見方だろう。・・・嫌いじゃない。まぁ一応「顔伯釣に出会うまでは」ということだったので、今はどのようにお考えかは知りませんが。

そして、肝心の内容だが、日本で詳細には報道されない中国の民主化運動(公盟/公民)の動きや中国政府の監視のやり方、ついでにミャンマーの軍閥状況までわかる一粒で三度美味しい仕様である。そもそも、中央党校出身な上に大学で教えていた知識人であるから、言葉使いも洗練されていて読みやすいのだ。章のタイトルも「惶惶たるは喪家の犬の如し」「貧しきハーケンクロイツ」「君子は以て自強して息まず」など、なんだかいちいちかっこいい。

まぁ、全般的には「中国当局、マジ怖い。携帯逆探知とかスパイ映画!?」って感じなんですが、実際に逮捕されたら拘置所内は人情に恵まれ、奥さんを使った作戦も、いつぞやに見たナチス映画「ナチス第3の男」の終わりの方の拷問シーンよりはずっとマシ。原作の「HHhH」ではどうだったか忘れたが、映画では奥さんが反ナチシンパで、その旦那を子供の前で拷問して、子供に自供させてたもんなぁ、と思ったり。だからと言って、中国で起こっていること全てが「マシ」なのではなかろうが。そして、ボカしたり、フェイクは入れているだろうが、協力者について詳しく書いちゃって大丈夫なのだろうか?相手は携帯電話逆探知だよ!?「済南市近郊の田舎の回教で元村長で地方政府とやりあった四合院の家を持った人」とかすぐに探し出しそう。彼らの無事を祈らないわけにはいかない。

そして、この本を読んでますます気になるのが、「もっとさいはての中国」で述べられていた顔伯釣とのやりとり。この結末を知るのにあとどれくらい待てばいいのだろう。気になる・・・会いに行くから、安田氏にはこっそり耳打ちしてほしいレベル。

最後に、簡単にこの本から学べる当局に睨まれたときの逃亡法をまとめておく。どこかの当局から逃げる場合にご活用ください。

・携帯は電源をつけたまま自宅に置いて逃げること。GPS探知されているので、多少時間が稼げる。
・身分証の必要な飛行機(や電車)は使わないこと。
・同じ場所に長居しないこと。
・探知されているのが確定な同志の携帯電話には電話しないこと。
・自宅や同志や潜伏先に潜む怪しい男の姿を見分けること。革製のビジネスバッグを斜めがけしたスーツ姿の男は特に怪しい。
・車の中は安全ではない。盗聴器が仕掛けられている可能性がある。大事な話は車の中でしてはいけない。
・コネ、大事。検問に詰めている兵士に「後ろの車、止めといて」って、お願いできるコネだとなお良い。
・パソコンは押収されるので、きれいにしておくこと。
・逮捕歴ある場合は、出国に飛行機は使わない。陸続きの密(出)入国がやっぱりベスト。
・チベットには行かない。向かった事実だけで、追求マシマシ。

と結構軽いノリで書いたが、中国の民主化運動についてやそれに対する当局の動きを知りたい人には強くお勧めできる本であることは間違いない。すぐに読めるので是非。

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