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素敵なあの子のこと。

すっかり疎遠になったお友だちの話である。

小学校2年生のとき、マンガを描く女の子と同じクラスになった。ハキハキしていて勉強もできる彼女を見て、漠然と「将来、えらいひとになるんだろうな」と思っていた。彼女は休み時間のたびに白い自由帳を広げ、自分でコマ割りをして、当時流行ったゲームのキャラクターたちを自由に遊ばせていた。

同じ班になったのをきっかけに私はその子と仲良くなった。毎日お手紙を交換して、休み時間はずっと、彼女がマンガを描くの眺めていた。マンガを描く、それを見る、それだけで立派な遊びだった。そのうち一緒に次の展開を考えるようになった。

翌年クラスが離れたが、しばらくは廊下に座り込んで続きを描いた。厳密には彼女が私の腕をむんずと掴んで廊下に連れて行った。廊下でマンガを描くなんて目立つことをするのが嫌で、こっそり逃げたりもした。小学校低学年の私にとって、違うクラスになったらそれはもう異国の子だったのである。

程なくして、その子は本当に異国に行ってしまった。親の転勤で、フランスへ。1度だけ、手紙のやりとりをした。なんと書いたかは覚えていないが、向こうでもマンガ描いてるよ!と彼女はそう返事をくれた。

彼女の話を家でするようになってからほどなくして、私は母から無地のノートをもらった。あんたもなんか書けばいいやん、そう言われて、初めて自分の頭のなかにあるものを言葉にした。当時ありあまっていた想像力を使って、文字だけで。もうそれはそれは楽しくて、彼女がマンガ家なら自分は小説家になりたいと思った。

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6年生になって違うクラスに戻ってきたその子と、もうマンガを描くことはなかった。フランスまでも世界の一部にした彼女に対して、私の世界はやっぱりクラスの中だけだったのである。親同士の付き合いもなく、放課後に公園で会うこともないからなおのこと、一緒になるきっかけはなかった。そのまま、卒業した。

私立の中学に行った彼女が今どこで何をしているかわからない。街ですれ違っても声をかけられる自信がない、だって今まで忘れていたのだから。

でもなぜか最近、ふと彼女を思い出すことが増えた。あのマンガの題名とか、キャラクターとか、彼女の丸い文字を、思い出す。そういえば、彼女は私の書いていた物語の主人公をマンガに登場させてくれた。目がくるんとして、とてもかわいらしく。

そして気がつくのだ。あの子に会ったおかげで私に「将来の夢」ができたこと、一緒にお話をつくるのがとても楽しかったこと、そんな気持ちも含めてあの子にちゃんと、ありがとうって言えていないことに。

今会ったならちゃんと言いたい。私はあなたの描くあの世界が大好きだったよ、とか。実は私の夢は変わっていないんだよ、とか。10年以上経ったけれど、私たちもう一度お友だちになれるかな、とか。

急にそんなことを言われたら、きっとえらいひとになっている彼女は目を白黒させるだろう。

#エッセイ #物書き #小学校



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