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Corrine, Corrina

「コリーヌ、コリーナ Corrine, Corrina」は遅くとも1928年にボ・カーター Bo Carter/Bo Chatman によって作詞作曲されたブルース・ナンバー。しばしばタイトルに揺れがあり、”Corrina”や”Corrina Corrina”とされることもある。日本語では「コリーナ、コリーナ」が使用されることが多いように思う。ブルース、ジャズ、ウェスタン・スウィング、ケイジャンなどさまざまなアメリカ大衆音楽のスタイルで演奏されるアメリカン・スタンダードと言ってよいだろう。

版権の関係がやや複雑で1929年12月5日に版権登録された際に、J・メイヨー・ウィリアムズ J. Mayo Williams が作詞作曲に加わるが、おそらく楽曲の制作には関与していない。1932年にミッチェル・パーリッシュMitchell Parish が訴訟を起こし、共同作詞者として加えられる。

コリーヌのモチーフ史

他方で「コリーヌ、コリーナ」は実際には19世紀くらいから歌われている作者不詳のトラディショナル曲を下敷きにしている可能性がある。実際に1962年に「コリーヌ、コリーナ 」を録音したボブ・ディラン Bob Dylanはトラディショナルとして本曲を扱っている。

さて、「コリーヌ、コリーナ」の歌詞に描かれている主人公は、コリーヌあるいはコリーナに出ていかれてしまった。このヴァージョンの歌詞がもっとも一般的に歌われている。「コリーヌ、コリーナ」の歌詞をみてみよう。

コリーヌ、コリーナ
Corrine, Corrina, where you been so long?
Corrine, Corrina, where you been so long?
I ain't had no lovin', since you've been gone
コリーヌ、コリーナ そんなに長くどこにいたの?
コリーヌ、コリーナ そんなに長くどこにいたの?
君がどっかに行ってたから愛がなかったよ

調べた限りでは、「コリーヌ、コリーナ」と直接的に関係がありそうな曲でもっとも古いのはロジャー・グレアム Rodger Graham が出版した 「だれか俺のコリーヌを見なかったか?Has Anybody Seen My Corrine?」だった。「だれか俺のコリーヌを見なかったか?」の歌詞を見てみよう。

だれか俺のコリーヌを見なかったか?
Has anybody seen my Corrine?
No matter where Corrina may be
Tell my Corrina to come right back to me
I want some lovin' sweetie dear
誰か俺のコリーヌを見なかったか?
コリーナがどこにいようと
俺のコリーナにすぐ戻ってくるように言ってくれ!
あの子に愛してほしいんだ!

ここでもやはり主人公はコリーヌあるいはコリーナに逃げられてしまっている。比較してみると、やはり「コリーヌ、コリーナ」はこの曲から直接的に影響を受けているようにみえる。

「だれか俺のコリーヌを見なかったか?」は人気曲となったようで、エドワード・B・エリソンEdward B. Ellison と H・H・ソングストン H.H. Sangston によってアンサーソング的な「愛するコリーヌが家に帰る Lovin' Corrine Is Comin' Home」という曲も書かれた。物語の主人公はコリーヌ本人。ちなみに6行目の「でも but」は名詞として使用されている。

愛するコリーヌは帰ってくる
So I'm writing to my Billy boy
That his lovin' Corrine is comin' home.
I'm writing a letter that will make him feel better
And I'm tellin' him that never more will I roam
That my heart is not on my sleeve no more.
But is kept inside with a lock on my door
Oh, about him I'm silly as I'm writing my Billy
That his lovin' Corrine is comin' home
じゃあ私のビリー坊やに手紙を書こうかしら
あなたが愛するコリーヌが家に帰るって。
あの人が安心するように手紙を書くわ。
それでどこかに書かないって
私の心は絶対打ち明けないって。
「でも」って言葉は鍵をかけてしまっておくわ。
私はなんて愚かなの
ビリーにコリーヌが家に帰ってくると書いてるなんて

さまざまに調べてみると、この曲のモチーフとなっているコリーヌあるいはコリーナの人気っぷりが気になってくる。このモチーフとなった人物まではわからなかったが、いずれにせよコリーヌがアメリカ大衆音楽のなかで有名になったきっかけは、ボ・カーターによる「コリーヌ、コリーナ」の録音であることは間違いない。

録音

Bob Wills and His Texas Play Boys (Texas, April 15, 1940)
Bob Wills (Vocal, Fiddle); Leon McAuliffe (Electric steel guitar); Jesse Ashlock (Fiddle); Smoky Dacus (Drums); Son Lansford (Bass); Eldon Shamblin (Guitar); Lewis Tierney (Fiddle); Al Stricklin (Piano); Johnnie Lee Wills (Tenor banjo)
ボブ・ウィルズの録音。軽快なウェスタン・スウィングというかスウィング。アシュロックのフィドルがフィーチャーされているところがお気に入り。

Bob Wills and His Texas Play Boys (San Fransisco, May 7, 1946)
Bob Wills (Fiddle / Vocals); Joe Holley (Fiddle); Louis Tierney (Fiddle); Millard Kelso (Piano); Lester (Junior) Barnard (Electric Guitar); Johnny Cuviello (Drums) Billy Jack Wills (Bass)
ボブ・ウィルズのラジオのトランスクリプション。40年の録音と同じアレンジを下敷きにしている。ここではレスター・バーナードのギターはフィーチャーされていて、さらにドラムが力強くなっている。

Muddy Waters (Cary, Illinois, August 25-26, 1978)
Muddy Waters (Vocals, Guitar); Bob Margolin (Guitar); Luther Johnson (Guitar); Jerry Portnoy (Harmonica); "Pine Top" Perkins (Piano); Calvin Jones (Bass); Willie Smith (Drums);
マディ・ウォーターズのライブ実況録音。たぶんはじめて聴いたのは中学生か高校生の頃だったと思う。アルバムのなかでこの録音が一番よく聴いたと思う。ブルースではこうしたシカゴ・ブルースが一番好き。

Preservation Hall Hot Four and Duke Dejan (New Orleans, September 19, 1996)
Harold Duke Dejan (Vocals); Wendell Brunious (Trumpet); Thaddeus Richard (Piano); Don Vappie (Guitar); Benjamin Jaffe (Bass);
プリザヴェーション・ホール・バンドのスモール・グループ。お手本のようなニューオーリンズ・スモール・グループ。全員が凄まじいスウィング。

The Froggy Mountain Boys (Berlin, 2012)
Aaron Jonah Lewis (Fiddle, Banjo, Vocals); Johannes Hagenloch (Bass, Vocals); Laurin Habert (Clarinet, Vocals); Laurent Humeau (Guitar); Roland Satterwhite (Fiddle, Vocals)

Tuba Skinny (New Orleans, April 2015)
Erika Lewis (Bass Drum); Barnabus Jones (Trombone); Shaye Cohn (Cornet); Craig Flory (Clarinet and Tenor Saxophone); Jonathan Doyle (Clarinet and Alto Saxophone); Tomas Majcherski (Tenor Saxophone and Clarinet); Max Bien Kahn (Resonator Guitar and 6 String Banjo); Jason Lawrence (6 String Banjo and Resonator Guitar); Todd Burdick (Tuba); Robin Rapuzzi (Washboard)
チューバ・スキニーの録音。カントリー・ブルースとニューオーリンズ・スタイルを合わせたようなアレンジ。

Alex Belhaj's Crescent City Quintet (Toledo, Ohio May 20, 2015)
Ray Heitger (clarinet); Dave Kosmyna (cornet); Jordan Schug (string bass); Pete Siers (drums); Alex Belhaj (vocal, guitar)
アレックス・ベルハージの録音。ボ・カーターの演奏を直接下敷きにしたニューオーリンズ-シカゴ・スタイル。

The Muddy Basin Rumblers (Taipei, 2016–2018)
David Chen (Guitar, Vocal); Christina Cox (Vocal); Mojo Laviolette (Harmony Vocal); TC Lin (Trumpet); Sandy Murray (
「コリーヌ、コリーナ」を元にしたオリジナル曲。こうやってまたコリーヌが新しく描かれることに感動する。曲のモチーフを紡ぐって端的に美しいなと思う。

Holly Street Stompers (Long Beach, California, 2019)
Jason Fabus (Alto Saxophone); Sam Rocha (Bass); Gareth Price (Drums); Bob Parins (Guitar); Gareth Price (Washboard)
ロング・ビーチで活動しているホーリー・ストリート・ストンパーズの録音。ロックンロールやR&Bを意識したスウィング。

The Mad Hat Hucksters (San Diego, January 13, 2024)
Morgan Day (Bandleader, Vocals, Drums); Ben Sachs (Vocal, Tenor Saxophone); Nightshade Navarro (Vocals, Soprano Saxophone); Ezri Martinez (Piano); Anthony Marca (Guitar); Jeremy Eikam (Bass)
ダンス・パーティ・バンドのマッド・ハット・ハックスターズの録音。ダンサンブルなスウィング。

参考文献

https://fiddleschool.com/the-history-of-the-song-corrina-corrina/


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