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Black Coffee [Burke&Webster]

「ブラック・コーヒーBlack Coffee」は1948年にソニー・バーク Sonny Burkeが作曲し、ポール・フランシス・ウェブスター Paul Francis Websterが作詞したジャズ・ナンバー。同名の曲があるが、一般的にはおそらくこちらの方が有名。戦後にできた曲なので厳密にはトラッド・ジャズの曲ではない。暗い曲。

盗作かオリジナルか

ジャズやブルースの歴史においては、別の曲を下敷きにしたり引用をしたりして新しい曲を作る手法がしばしば行われてきた。この手法は、厳密な意味では異なるが現在でいうところのサンプリングの手法に近い。こうしたサンプリングは、しばしば訴訟問題に発展することがある。この曲にかんしても作曲のクレジットにかんする訴訟があった。

「ブラック・コーヒー」は、メアリー・ルー・ウィリアムズ Maey Lou Williamsが1938年に作曲した「ワッツ・ユア・ストーリー・モーニング・グローリー What's Your Story Morning Glory」の最初の最初の数小節が似ているということでウィリアムズから訴えられている(ちなみにおそらくだけどオアシスの同名の曲はここから取っている)。ウィリアムズは黒人で女性ということでしばしば冷遇されており、曲のクレジットについてひどく悩んでいた (Dahl, 1999)。であるならば剽窃にかんして敏感であったことも頷ける。民事訴訟の結果は彼女に「わずかな金額—300ドル」が支払われるだけで、彼女の名前が作曲者として載ることはなかった (Dahl, 1999, p. 8)。そうした意味で「彼女がこの訴訟に勝ったとは言い難い」 (Friedwald, 2017, p. 297)。

また評論家のウィル・フリードウォルドはこの訴訟におけるウィリアムズにやや否定的な評価を与えており、彼女を「厄介者」と表現している (Friedwald, 2017, p. 297)。というのも「ブラック・コーヒー」も「モーニング・グローリー」もそもそもWCハンディの「アウント・ヘイガー・ブルース Aunt Hagar’s Blues」を下敷きにしており、「ブラック・コーヒー」も「モーニング・グローリー」も実際には最初の数フレーズが似ているだけで同じ曲とは言い難いからだと言う。

それでもこれまでのウィリアムズに対する評価や冷遇っぷりを考えたらこうした訴訟があってもおかしくないし彼女の憤りも理解できる。

録音

Ella Fitzgerald (Hollywood 1960)
Ella Fitzgerald (Vocal); Paul Smith (Piano)
エラ・フィッツジェラルドは少なくとも2回この曲をスタジオ録音しているけれど、こっちはピアノとボーカルだけのシンプルな構成。こちらの方がエラの歌の圧が聴けて好き。

Earl “Fatha” Hines (NYC, March 7, 1964)
Earl Hines (Piano)
60年代のアール・ハインズ。最高にブルージーな演奏。

Akiko (NYC 2014)
Akiko (Vocal); Victor Gould(Piano); Nori Naraoka(Bass); Darrian Douglas(Drums)
日本がほこるジャズ・シンガーのAkikoさんのニューヨーク録音。情緒たっぷりでスモーキーな声が非常にかっこいい。

参考文献


Dahl, Linda. (1999). Morning Glory: A Biography of Mary Lou Williams. New York: Penguin Random House
Friedwald, Will. (2018). The Great Jazz and Pop Vocal Albums. New York: Penguin Random House.


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