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Humoresques

「ユーモレスク Humoresques」はチェコの作曲家アントニン・ドヴォルザークが1894年に作曲した曲集。もちろんクラシックの曲ではあるが、ことジャズでは中でも変ト長調の第7番(Op. 101-7)がしばしば演奏/録音される。そんなわけでジャズのなかで「ユーモレスク」と言った場合は、ほとんどこの第7番を指す。2/4拍子で8小節で一区切りすることからスウィングしやすくジャズでも扱いやすいのかもしれない。

この曲は、ドヴォルザークがアメリカに休暇に来ていた時に書かれた。当時、ドヴォルザークは「ミンストレル・ショー」やスティーブン・フォスターが作曲した歌曲に興味を持っており、ヴォードヴィルの歌手や演奏家を招いてアメリカの大衆音楽を楽しんだ。こうしたアメリカの大衆音楽から影響を受けて書かれた曲の一つがこの「ユーモレスク」であった。

タイトルは必ずしもドヴォルザーク本人が名付けたものではなく、出版社が便宜上名付けたものであった。そのためタイトルそのものに深い意味が必ずしもあるわけない。差し当たり「楽しげな小曲」くらいでよいだろう。

親しみやすいメロディと替え歌

さて、この曲はとても親しみやすい。そういった親しみやすいメロディはしばしば替え歌の対象になる。JSバッハの「トッカータとフーガ ニ短調」冒頭部のメロディに「ちゃらり〜 鼻から牛乳」という歌詞を当てはめた替え歌を聴いたことは一度はあるだろう。こうした替え歌は日本だけではなく世界中にある。

「ユーモレスク」もこの替え歌の絶好の素材だった。とくにアメリカではメロディに合わせて"Passengers will please refrain from flushing toilets while the train is standing still within the stationhouse (列車が駅舎内で停車している間は、トイレの水を流すことはご遠慮ください)"と歌われる。いくつかバリエーションがあるようだけれど、いずれも遊び歌だ。具体的に誰が歌詞をつけたのかはわからないが、子どもから大人までみんなこの歌詞で歌うことができる。そうした意味で「ユーモレスク」のメロディは親しみが込められている。

録音

Emilio Caceres Trio (New York, November 5, 1937)
Ernie Caceres (Clarinet, Bass Saxophone); Emilio Caceres (Violin); Johnny Gomez (Guitar)
ほとんど無名のヴァイオリンだが、素晴らしい録音をいくつも残しているエミリオ・カセレスのトリオの録音。おそらくユーモレスクのジャズの録音でもかなり最初の方なのではないかと思う。スタイルとしてはヴェヌーティ=ラングに似ているんだけど、エミリオの兄のアーニーのクラリネット/ベース・サックスが加わる。非常にかっこいい。

John Kirby And His Orchestra (NYC October 12 1939)
Charlie Shavers (Trumpet); Russell Procope (Alto Saxophone); Buster Bailey (Clarinet); John Kirby (Bass); O'Neil Spencer (Drums); Billy Kyle (Piano);
1930年代40年代の最高のスィング・バンドを率いたジョン・カービーの録音。ドライブ感のあるドラムはオニール・スペンサー。派手ではないが、こちらの方がカービーのベースが前に出ているように聴こえる。

John Kirby And His Orchestra (NYC 1940)
John Kirby (leader and string bass); Charlie Shavers (trumpet); Russell Procope (Alto Saxophone ); Buster Bailey (clarinet); Billy Kyle (piano); Cozy Cole (drums)
これもジョン・カービー楽団。2回目の録音。コージー・コールのダイナミックなドラムが映えている。ドラムがバスター・ベイリーのクラリネットがとくにお気に入り。

Stuff Smith Trio (NYC 1944)
Stuff Smith (Violin); Jimmy Jones (Piano); John Levy (Bass)
スタッフ・スミスの渾身の録音。30年代のようなジャイヴ感はないがそれでもこのスウィング感覚がとてつもなくかっこいい。

Don Byas Quartet (NYC November 1 1945)
Don Byas (Tenor Saxophone); Erroll Garner (Piano); Slam Stewart (Bass); Harold West (Drums)
スラム・スチュワートのベースをたっぷり堪能することができる名演。

Don Byas And His Orchestra (Paris June 12 1947)
Don Byas (Tenor Saxophone); Armand Molinetti (Drums); Lucien Simoens (Bass); Jack Diéval (Piano)
ドン・バイアスのスウィング録音。本人としては2回目のユーモレスクの録音だが、こちらの方がわりと落ち着いている。

Earl Hines Trio (New York August 21 1954)
Earl Hines (Piano); Paul Binnings (Bass); Hank Mild (Drums)
アール・ハインズのダイナミックなピアノを楽しむことができる録音。

Ian Cooper (Cammaray NSW 1997)
Ian Cooper (Violin); George Golla (Guitar); Ed Gaston (Bass); Geoffrey Ogden-Browne (Drums); Paul Williams (Clarinet)
エンジニアとしても著名なイアン・クーパーの録音。ヴァイオリンとクラリネットの2人でリードをわかちあっている。とてもかっこいい。

Tim Kliphunis (Unkown 2008)
Tim Kliphuis (violin); Len Skeat (double bass); Mitch Dalton (guitars); Nick Dawson (piano)
グラッペリ派ヴァイオリンの雄、ティム・クリップハウスの録音。美しい。めっちゃ好き。

Three Blind Mice (Paris 2019)
Felix Hunot (Guitar); Malo Mazurié (Trumpet); Sebastien Girardot (Bass)
パリで活躍するスィング・トリオの録音。3人であることを最大限に活かしたようなアレンジで萌える。


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