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A Good Man Is Hard to Find

「ア・グッド・マン・イズ・ハード・トゥ・ファインド/善人はなかなかいない A Good Man Is Hard to Find」は、1917年にエディ・グリーン Eddie Greenが作曲したポピュラー・ソング。元々ヴォードヴィルで歌われていたナンバーで、現在ではトラッドジャズのスタンダードとなっている。

小説のタイトルにもなった狂乱の20年を代表する曲

かつて批評家のユージーン・チャドボーン Eugene Chadbourneは、この曲について「狂乱の20年を代表するブルース・スタンダード」と書いた。こうしたブルースの使い方についてはこのnoteでも書いた通り、形式主義的な観点から言うブルースではなく、憂鬱な気持ちを吹き飛ばすような煌びやかな曲を指している。実際に、「ア・グッド・マン・イズ・ハード・トゥ・ファインド」にて歌われているのは「女の人を心配させない男なんてなかなかいない。だから今いる恋人に尽くす」ことで、自分に取り憑いた憂鬱(=ブルース)を取り払うべきということが謳われている。

もちろんこういった教訓めいた歌詞は、時代と言ってしまえばそれまでではあるが、かなり男性優位な目線で歌われていることは否めない。が、この曲がもともとヴォードヴィルで流行したことに鑑みれば、こうした歌詞に共感する観客が女性だけではなく、男性にもいたこと、このことは10年代20年代の音楽観を考える上で重要になってくるだろう。

この教訓めいた歌詞とタイトルは1953年にフラナリー・オコナーが執筆した南部ゴシック小説のタイトルに使用されている。南部ゴシック小説とは、アメリカ文学のジャンルで、アメリカ南部を題材し、その中で起こるグロテスクな事柄を題材にした小説を指す。

録音

Bessie Smith (NYC, 27 September, 1927)
Bessie Smith (Vocal);Porter Grainger (Piano); Lincoln M. Conaway (Guitar)
まさにブルースなベッシー・スミスの録音。最近ではしばしば省略されるヴァースから雄弁に歌っている。

Fats Waller and His Rhythms (London, January 19, 1939)
Fats Waller (Vocal, Piano); Herman Autrey (Trumpet); Al Casey (Guitar); Cedric Wallace (Bass); Slick Jones (Drums); Eugene Sedric (Clarinet, Alto Saxophone)
ファッツ・ウォーラーのロンドン録音。間違いなくファッツ・ウォーラーがもっともかっこよかった時代の録音で、この録音では歌もさることながらピアノがとにかくかっこいい!

Marty Grosz and Fat Babies (Chicago, September 24–25, 2013)
Marty Grosz (Guitar, Vocal); Paul Asaro (Piano); Andy Schumm (Cornet); Dave Bock (Trombone); John Otto (Clarinet, Baritone Saxophone, Tenor Saxophone); Beau Sample (Bass); Alex Hall (Drums)
マーティ・グロスとファット・ベイビーズの録音。スローなシカゴ・スタイルの録音でファッツ・ウォーラーをトリビュートするような演奏。素敵!

Naomi and Her Handsome Devil (Chicago, August 2016)
Naomi Uyama (Vocal); Mike Davis (Trumpet); Jonathan Doyle (Tenor Saxophone, Clarinet);
Matt Musselman (Trombone); Jake Sanders (Guitar); Dalton Ridenhour (Piano); Jared Engel (Bass); Jeremy Noller (Drums);
ナオミ・ウヤマ率いるバンドの録音。マーティ・グロスの録音よりも速くダンサンブルな録音になっている。わたしとしてはジェイク・サンダースのギターに萌える。

Pepper and the Jellies (Teramo 2019)
Ilenia Appicciafuoc (Vocal, Kazoo, Washboard); Marco Galiffa (guitar); Emiliano Macrini (double bass); Andrea Galiffa (snare and woodblocks)
イタリアのジャイヴ・バンドのペッパー・アンド・ジェリーズの録音。カズーのイントロから入る。アンサンブルもかっこよく、またオリジナルのフランス語の歌詞も飛び出す。ヴォーカルの魅力が冴え渡る名録音。


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