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Beale Street Blues

「ビール・ストリート・ブルース Beale Street Blues」は、1917年にWCハンディ(WC Handy)が作詞・作曲したブルース・ナンバー。

ビール・アヴェニューからビール・ストリートへ

ハンディは、テネシー州メンフィスのダウンタウンに隣接するビール・アヴェニューに訪れ、そこで見た光景を元に作曲した。

ビール・アヴェニューは、1846年から1848年の間にアメリカ合衆国とメキシコ合衆国の間で戦われた米墨戦争の英雄のエドワード・ネッド・ビール Edward H. “Ned” Bealから名付けられた。もともとはアッパー・ミドル・クラス(有閑階級に近い中流階級)向けの通りだった。

南北戦争のあとに、解放奴隷の黒人、アイルランド人、イタリア人、ユダヤ人の移民が集まった。こうした移住はまさにこの通りの懐の深さによってなされたと言われる。時が経つにつれて、ビール・アヴェニューはアフリカ系アメリカ人コミュニティの中心地となりメンフィスにおける黒人文化の中心地となった。

1920年代のビール・アヴェニュー。

ハンディが着想を得たのはまさにこうした黒人文化の中心地としての街の景色だった。歌詞は「ビール・ストリートは素敵なところだよ!とっても賑やかで、いろんな人がいるよ!絶えず賑わっていて、おれはずっとビール・ストリートにいたいよ!」という内容。まさに当時のビール・アヴェニューの様子を記述していると言えよう。

この曲はヒットし、「ビール・アヴェニュー」は「ビール・ストリート」に改名されるまでになった。こんなにビール・ストリートを愛していたハンディだったのだが、なんとハンディはこの曲がヒットして数年したらニューヨークに移住してしまった。それでも通りにはハンディの銅像が立っており、ビール・ストリートの賑わいは曲ができてから100年以上経ったいまでも変わっていない(Gioia 2021 p. 52)。

録音

Louis Armstong (NY July 12-14, 1954)
Louis Armstrong (trumpet, vocals); Trummy Young (trombone); Barney Bigard (clarinet); Billy Kyle (piano); Arvell Shaw (double bass); Barrett Deems (drums)
バーニー・ビガードのクラリネットが非常にかっこいい録音。レイドバックしていてまさにブラックボトムが踊れそうな録音になっている。

Eddie Lang-Joe Venuti And Their All Star Orchestra (NY October 22 1932)
Joe Venuti (violin); Eddie Lang (guitar); Benny Goodman (clarinet); Charlie Teagarden (trumpet); Jack Teagarden (vocal, trombone); Ward Lay (string bass); Neil Marshall (drums); Frank Signorelli (piano)
エディ・ラングとジョー・ヴェヌーティのコンビの録音。ベニー・グッドマンとジャック・ティーガーデンも参加。素晴らしい録音ですね。シカゴ・スタイルとも違うニューヨーク・スタイルの幕開けのような録音。

Willie “the Lion” Smith and Jo Jones (New York, 18 February 1972)
Willie “the Lion” Smith (Piano); Jo Jones (Drums)
巨匠2人による録音。このセッションではたくさんの名録音が生まれましたが、これもその一つだと思う。力任せに弾くのではなく、かなりダイナミクスを意識したピアノで、さらにジョー・ジョーンズもそれに応えていて圧倒される。

Allan Vaché Big Four (Florida July 18 1999)
Phil Flanigan (Bass); Allan Vaché (Clarinet); David Jones (Cornet); Bob Leary (Guitar)
グッドマン・スタイルの雄アラン・ヴァシェのカルテットでの録音。ディヴィッド・ジョーンズのコルネットもキレッキレで、しかもボブ・リーリーのギターなんてジャンゴ・ラインハルトとアラン・リュースを融合させたような演奏をしている。すごくかっこいい!

Leroy Jones (New Orleans 1998)
Kerry Lewis (Bass); Gerald French (Drums); Leroy Jones (Trumpet); Craig Klein (Trombone); Thaddeus Richard (Piano)
リロイ・ジョーンズのクインテット。リロイ・ジョーンズはもはや説明がないくらいですね。ジェラルド・フレンチのドラムのドライブ感!すごっ!クレイグ・クレイン好きとしては彼のトロンボーンさばきに痺れます。それとタデウス・リチャードって本当になんでも楽器ができますな…。

Connie Jones And His Crescent City Jazz Band (New Orleans 1999)
Ed Wise (Bass); Brian Ogilvie (Clarinet); Connie Jones (Cornet); Russ Williams (Drums); Paul Asaro (Piano); Charlie Bornemann (Trombone, Vocals)
ニューオーリンズ出身のコルネット奏者のコニー・ジョーンズの録音。ニューオーリンズのジャズに育てられたメンバーの渾身の録音。ビール・ストリートがメンフィスではなくベイジン・ストリートに聴こえてくる。

参考文献

Gioia, Ted. (2021). The Jazz Standards: A Guide to the Repertoire, 2nd Ed. Oxford: Oxford University Press.
https://www.trustworthytowing.com/service-memphis-tn/beale-street-a-witness-to-history/


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