「どうしてそんなに優しくするの?」
「どうしてそんなに優しくするの?わたしがしたことは、怒鳴られても、殴られてもおかしくないことなんだよ」
今泉力哉監督のmellowという映画で、そんな台詞があった。
いつだったか、たしかまだ21歳ぐらいの頃、当時付き合っていた彼と1ヶ月だけ同棲したことがある。
同棲生活がスタートした1週間後には、私の気持ちはもう薄れていた。
嫌いになったわけじゃない。
なんとなく、他に好きな人ができた。その人とはもともと仲がよくて、私に彼がいることはもちろん、同棲をはじめることも知っていたけど、私に対してじりじりと距離を詰めてきていることは感じていた。その人に対して好意を抱いていたかと聞かれると正直わからないけど、不思議と嫌悪感はなかった。
同棲をはじめるまでは、『彼が一番』と思っていたのに、同棲生活という縛りが発生した途端に、その幸せなはずの状態をぶち壊したくなった。
こんな一言で片付けることは良くないと思うけど、若かったんだと思う。若気の至りってやつなんだと思う。
ただ、当時はどうしても『これからもこの生活を続けていく』ということが考えられなかった。
当時の彼には、「他に好きな人ができた。浮気です。ごめんなさい。別れてほしい。」とバカみたいに正直に告げた。
彼は、少しも怒らなかった。
それどころか彼は、自身が実家に戻る理由を「彼女が仕事の都合で実家に戻ることになったから」と言い張った。
普通であれば『人生でもう二度と会いたくない人リスト』の上位にランクインするはずなのに、
仕事の都合で地方へ異動(これは本当)するときもお別れ会的なものを開いてくれたし、
終電を逃してしまったときも車で迎えに来てくれたし、
好きな人に振られて泣いて電話したときも、電話が嫌いな彼なりに「うん」と話を聞いてくれた。
「どうしてそんなに優しくするの?」
いつも彼に問いていた、忘れかけていたその言葉が、劇中の台詞を受けて、過去の記憶がジェットコースターのように蘇った。
優しい彼に、無意識のうちに甘えていたんだと思う。
じゃないと「どうしてそんなに優しくするの?」だなんて残酷な言葉、言えないよ。
缶ビールが買えるくらいで十分です。あわよくば一緒に乾杯しましょう。ありがとうございます。