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文学フリマ京都8を終えまして

京都の駅ナカや駅前は、東京駅や新宿とさして変わらない。だけどタクシーで五分も走れば鴨川の広い川面が現れて、「おお」となった。
川床がなくても店がやっている様子が見て取れる。観光地という一面だけじゃない、ちゃんとこの地に根ざした生活がある。
そんな当たり前のことをふと実感した。
京都だ。

通り過ぎたことなら何度か。だけど旅先として訪れるのは、かれこれ十年ぶりになる。
2024年1月13日土曜日、お天気雨。
昨日東京から送った荷物を追跡する。ひとりじゃ持ち上げられなかった段ボールも、もうこの地に届いているらしい。

文学フリマ京都に出ようと思ったきっかけは、このマシュマロだ。

東京の文学フリマに二回出た2022年。今年はどうするか、ラブ・フェチの相棒かのこさんと話さねばと思っていた2023年の、冬がやわらぎはじめたころのことだった。
この時点で東京の5月はスキップすると決めていた。大阪開催は9月で、暑さに弱い私が耐えられるはずもない。コミティアは畑違いだし、とすれば、1月開催の京都。遠征となると、かのこさんはおそらく難しいだろう。
そこで早速夫氏に提案してみた。

「1月の京都行きたくない?」
「行きたい」

秒で返ってきた。

「雪の京都が見てみたい」

我が夫氏は寒いの大好き。スポンサー兼強力な協力者を得て、私はここにやって来た。

当日の朝の七時過ぎ、私はひとりでお散歩に出かけた。たぶん緊張とか気の昂りがあったのだろう。夜中に何度か目が覚め、アラームが鳴る前に起きてしまった。
だけど、ぜんぜん眠くない。完全に旅行ハイだ。気持ちがはやってしかたがない。
昨夜ちらついた雪はすっかりやんで、晴れ渡った空が気持ちいい。朝の街はしっとりと、しかしきんと冷えていて、東京とは質の違う寒さを感じた。
泊まっている宿は平安神宮まで徒歩の距離。終わってから観光なんてとてもできないと思っていたから、結果これがちょうどよかった。あの平安神宮に、驚くほど人がいない。一日の無事と成功を祈ってお参りした。

10時に会場入りして設営するうちあっという間に11時になって、来場者が入ってくる。緊張らしい緊張はなくとも、はじめての京都遠征だ。不安はいろいろとある。がっかりされないか、東京モンがと思われないか、見向きもされなかったらどうしよう、とか。
せめて「来るよ」と予告くださった何名かの方にはこのお土産をお持ち帰りいただきたい……、と、フレデリック・カッセルの焼き菓子を見やる。拙作『縄痕にくちづけを』のはじめのほうで、結衣子と瑛二がアトリエで食べていたおやつ。
『女王シリーズ』を求めて来てくださるという方がいるのだから、せっかくなら作中に出したお菓子をと思って用意したものだった。なんでも、国内の店舗は銀座三越にしかないらしい。
だけどそんな考えは杞憂に終わった。開始から10分も経たぬうちに、私は自作を手渡すことができた。
ランダムナンバーを手に取り、女王シリーズの試し読みを受け取ってくれる。どんな本かと訊いていく。そしてついに、長年フォローしてくださっている方がいらっしゃった。
東京文フリでもそう言ってきてくれた方たちがいた。もちろんうれしかったし感動したけれど、ここは馴染みのない遠征地だ。私が用意したものなんてささやかすぎるほどの、東京とは異なる大きな大きな心強さをいただいた。

ずっと追い続けてくれていた方がいた。こっちで会えるのを待っていたと言ってくれた方がいた。県をいくつも跨いできてくれた方がいた。自転車で駆けつけてきてくれた方がいた。縁あって買ってくれた方が、たくさんいた。差し入れが、お手紙が、心からうれしい。直に話して手売りで渡し、何度言っても足りないほどのお礼を告げることができて、本当によかったと思う。

気づけば終了時間で、胸がいっぱいのまま片づけて荷を詰めた。
送ったときにはひとりで持ち上げられなかった段ボール。今度はひょいと持ち上がって、減った重さのぶん以上の達成感がこみ上げる。

その日の夜は日本酒と京料理を食べた。夫氏と一緒だったのに、なにをしゃべったか禄に覚えていない。折に触れてほけーっとため息をつき、にんまりにまにま唇がゆるんでいたであろうことは想像にかたくないのだけど。

というわけで、とても実りのある遠征でした!

教えてくださってありがとうございました! 一保堂のお茶たくさん買いました。ほうじ茶がぶ飲みしてる。マールブランシュのラングドシャがめっちゃくちゃおいしかったです。
長楽館は今度行くときぜーったい予約します。

#文学フリマ

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