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語彙の学習について

 「語彙力を高める」と謳っている学習参考書がある。中を開いて見てみると、文章中でよく使われるであろう言葉の意味やら類義語やらが表にまとめられている。英語の「重要単語〇〇」といった具合だ。日本人はいつの間にか外国語のように日本語を学ぶようになったらしい。こういう単語帳を使用することが、語彙力を高める効果のほとんどない非効率的な方法であることは、英語教育で多くの人が散々思い知ったはずなのに、それを国語教育に「輸入」するところが、学習参考書を作る出版社の失敗である。

 語彙指導が、数年前に出された学習指導要領の重点事項になってから、こういう劣化版の国語辞典がよく出回るようになった。

 何が悪いのかというと、言葉を断片的にしか学べないところである。みじん切りにしたニンジンとピーマンとタマネギをぎゅうぎゅうに押し固めて、ハンバーグを作ろうとするような暴挙である。かろうじてフライパンに載せるところまでは上手くいったとしても、そのフライパンを一回でも振ってしまったら、あっさり崩れてしまう。要するに「つなぎ」がない。細切れの野菜をまとめ上げる働きを持つものが加わって、初めてハンバーグはその形を保つことができる。バラバラでそれだけではまとまりようのないものを押し固めて、無理やり口へ放り込む。それでは子どもがハンバーグ嫌いになっても仕方ない。まずその野菜炒めをハンバーグと呼んでいいのかどうかも怪しい。

 本当に言葉を増やしたいならば、「つなぎ」が必要だ。ハンバーグでいえば、挽肉や卵、パン粉などがその役割を果たす。それだけではばらばらの材料を絡め取り、いかようにも成形できる。言葉の学習でいえば何が「つなぎ」になりうるだろうか。

 一言でいえば、「経験」である。文章というのは、言語情報の糸であり、読むことで頭の中にその糸を無造作に巻き取っていく。そうした経験が幾重にも重ねられ、複雑に絡み合った巨大な糸の塊が出来上がっていく。そのような糸の塊であれば、細かな断片的な知識も絡め取っていくかもしれない。しかし、そのような土台がなければ、断片は断片のままであり、それらを掴み取る術はない。

 読書量の低下は、知識習得の効率を下げ、国語に限らず全ての教科の学習全体に暗い影を落としている。

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